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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十二章 最悪の惨劇
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惨劇の7月9日 part3


 引き続き7月9日。



 朝早く、六文太弥勒のもとに電話がかかってくる。

 六文太弥勒は無機質な表情のままスマホを手に取り、電話に出た。

 そして電話の相手に対し、こう言った。


 「ふうん、なるほどねぇ。じゃあ、やっぱり今日動き出すってわけか」


 『ああ………』


 「心配しなくても大丈夫だよ。きっとうまくいく。全部計画通りだよ。別にこれといって親しい友達もいないしね」


 『…………………………』


 そして弥勒は電話を切った。

 そのまま朝ご飯も食べずに家を出て、上辺美鈴が住んでいる自宅のアパートに向かった。

 

 そう、上辺美鈴には柔軟体操を教える事になっている。昨日は一緒に市民体育館に行ったりもした。



 彼女の体はとっても固かった。

 最近までずっと入院生活だったせいもあるのかもしれない。

 彼女の体が通常の柔らかさになるまで、2日、3日じゃとても足りなかった。


 「………………………」


 でも、彼女は根性があった。

 すぐに弱音を吐いたり、気遣いを要求してくる人よりも、好感が持てる女性だなと思った。


 どうせなら1カ月くらいは面倒見たかった。


 

 「どうしたの?」


 近くの公園で準備体操の手伝いをしていると、ふと彼女がそんな事を聞いてきた。


 「えっ?なにが?」


 「なんか、申し訳なさそうな顔してたから」


 「えっ?俺、そんな顔してたかなぁ」


 「なんかあったの?」


 「ううん。何もないよ。ただ……」


 「ただ?」


 「柔軟体操の面倒を見ると言っておきながらなんだけど、もしかしたらしばらく会えなくなるかもしれないんだよね」


 「ふうん、そっか……」


 「ごめんね」


 「ううん、いいよ別に。どうせまたいつか会えるんでしょ?」


 「えっ?」


 「じゃあさ、柔軟体操で気をつけるべきポイントとか今のうちに教えてよ。君にまた会えるその日までには、少しくらいは、このガッチガチの体、柔らかくしておくから」


 「えっ?また俺と会ってくれるの?君の面倒を放り出す形でしばらくいなくなっちゃうのに、嫌いになったりはしないの?」


 「しないよ。だって君はあの時私を助けてくれた。それだけでもう充分だと思う。たしかに、ちょっとイラっとした時とかあったけど、私も君の事、信じたいと思ってる」


 「……………そっか……」


 「だから、また会いに来てよ。友達なんでしょ?私達?」


 「そうだね。友達だよ」


 「よかった」


 上辺美鈴はニッコリと笑みを浮かべたのだった。






 AM9時30分。



 逮捕状を手にトモイが数名の捜査官を引き連れ、喫茶店CAMELの建物の前までやって来たが、『休業中』というハリガミがしてあって、店はやっていなかった。

 喫茶店CAMELの建物と1つにつながっている一軒家の、裏手の方まで移動し、玄関のインターホンを何度も押したが、ウンともスンとも言わなかった。



 「…………しゃらくせえ」



 はたして居留守なのか。それとも、すでにトンズラこかれたあとなのか。

 どちらにせよ、土日でもないのに『休業中』というハリガミがしてあるという事は、こちらの動きが完璧に読まれていたのはたしかだった。


 居留守なら、玄関扉を壊してでも中に入れば、逮捕はできる。

 でも、それだと目立つし、起訴できなかった場合、逆に訴えに出られでもしたら面倒だった。

 そんな事にならないためにも、この家の近くに1人だけ見張りを置き、残りの人数で、彼がどこにいったのかの捜索にあたる。その方が効率がよかった。


 早速、トモイは、六文太弥勒の行方を掴むために動き始めたのだった。




 



 加賀城は近衛孝三郎の病室にいた。


 「…………………」


 彼はいまだに目を覚ましていなかった。

 加賀城はそんな近衛に向かって、こんな事を言った。 


 「………あなたはいったい、私に何を隠しているんですか?」


 でも近衛は、ウンともスンとも言わなかった。

 それでも加賀城は、話しかけるのをやめなかった。


 「あなたにも動機があるのはたしかです。でも、戸土間の悲劇を王李と協力して引き起こしたとはどうしても思えない」


 「……………………」


 「あなたはどちらかというと、芹華さん側の考え方の人だったと私は思うのです」


 「……………………」


 「芹華さんは徳川達に陥れられる形で死んでしまったけれど、それでもあなたは、芹華さんが守ろうとしていたモノを、代わりに守ろうとしたのではないかと思うんです」


 「……………………」


 「炒麺飯華(しょうめんはんか)の店長も、あなたにとても感謝していました。それにあなたは、穂刈さんの事も助けている」


 「……………………」


 「……あなたはいったい、何を貫き通したいのでしょうか?」


 「……………………」


 「……あなたが守り通したい正義とは、いったいなんですか?」


 「……………………」


 「やっぱり、私には教えてくれませんか?私には、あなたが抱えているものを受け止めるだけの心の強さがないから、教えてくれないのでしょうか?」


 「……………………」

 

 「やっぱり私は、あなたに勝てそうにありません」


 「……………………」


 「いままでひどいことを言ってごめんなさい。そして………助けてくれてありがとう」


 「……………………」


 「もう行きますね。あなたが目を覚ますのを祈ってます」



 そして加賀城は病室から出て行った。







 PM15時30分過ぎ。


 ひっそりとした薄暗い下水トンネルの中に六文太弥勒がいた。

 六文太弥勒はアイパッドをポチポチと押しながら、こんな事をつぶやいたのだった。



 「どこだっ。どこにいる。蒼野まといっ!!」



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