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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十二章 最悪の惨劇
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66の思惑2


 引き続き7月7日。



 まといはAM11時に喫茶店CAMELへとやって来た。

 

 今日はパイシチューを頼んだ。

 ここのパイシチューはそんなに大きくはない。

 マグカップよりも少しだけ大きめな器にパイ生地でフタをし、オーブンでサクサクになるまで焼いたものが、まといの目の前に置かれた。

 もちろん、パイ生地をスプーンでざっくりと割れば、中からクリームシチューが出てくる。

 サイコロ状の柔らかい鶏肉が入っていて、クリームシチューとよく絡んで、おいしかった。


 

 もちろん今日も六文太弥勒は働いていた。いまはお昼時でもあるので、バイトの人も3人ほどいたが。

 弥勒の頬には、うっすらと切り傷のようなものがあった。


 まといは弥勒に「その傷どうしたの?」と尋ねた。

 弥勒はまといにこう答えた。



 「ああ、A4用紙で切っただけだよん♪」


 「A4用紙で?指とかならまだわかるけど、紙でそんなところ切らないと思うけど?」



 よっぽど顔をA4用紙に近づけない限りはそんなところは切らない。


 なんか、へたな嘘だなとまといは思った。

 彼らしくないというか……。



 「ねえ、蒼野さん。ちょっと別の場所で話さない?」


 「えっ?いいけど」


 「じゃあ、さっそく移動しよう」



 六文太弥勒は、お店をバイトの人に任せ、さっそくまといと一緒に時計塔広場へと移動した。

 そして弥勒はまといにこう言った。






 

 「俺と一緒に日本を抜け出してみない?」





 あまりにも唐突すぎだったので、まといはその言葉の意味を理解するのに、少しだけ時間がかかってしまった。

 5分経ってようやく、まといは弥勒に「えっ?」と聞き返した。

 弥勒はまといにこんな事を言った。



 「もちろん、罪から逃げるために君を誘っているんじゃないよ。罪を償う場所を求めに、日本から出るんだよ」


 「………ごめんなさい。弥勒くんが何を言いたいのかわからない。だって、結局それって、罪から逃げる事にも繋がるんじゃないかなと思うし」


 「まあ、たしかにそうだよ。でも、君だってもうわかってるはずだよね。自首をしても、完全な形で騒ぎを沈める事はできない。君がフォーカスモンスターだと世間に向けて証明する唯一の方法は、マスコミ達の目の前で人殺しをする事なんだから」


 「…………うん、そうだね」


 人殺しをすれば、それが証拠としてみなされる。でも、人殺しをしなければ、証拠が何ひとつないわけだから、逮捕すべきではないとみなされるだろう。


 弥勒はさらにこう言葉を続けた。


 「ま、仮にそれが証拠として認められたとしても、警察組織にとって、君はかなり面倒くさい存在だ。諸外国からいい笑いものになるのは確実。だって、カメラによる人殺しだからね」


 「………………」


 「だからこそ俺はあの時君に忠告した。自首はすべきではないとね。自首なんてしても、君のせいで迷惑をこうむる人が増えるから」


 「………………」


 「でも、君には可能性がある。そのカメラのチカラを使えば、たくさんの人を救うのも可能だ。世界各国で起きている紛争に茶々を入れる事もできると思う」


 「…………………」


 「紛争のせいで苦しんでいる人達もいる。そんな人達を守る事も、君ならできると思うよ」


 「…………………」


 「そんなにすぐには答えを出さなくてもいいけど、君が決心した時にすぐに日本を脱出できるよう、準備はしておく」


 「なんで?なんで私なんかのために?」


 「理由はふたつある。ひとつめは言えない。大切な約束事でもあるから。でも、2つ目は教えてあげる。両親の意志を、君に継いでほしいなと思ったからかな」


 「両親の意志?」


 「俺は以前、ボランティアなんてくだらないと君に言ったけど、両親の事は今でも尊敬してるんだよ。でも俺はとことんひねくれちゃったから、ボランティアに自分が身を投じている姿を想像できない。てゆうか、ゾワッとする。やっぱり俺はスパイの方が向いてる。だから、表向きの活動は君に任せる」


 「…………………わかった。選択肢のひとつとして、頭の中に入れておく」


 「急がなくていいからね。君にも心の準備ってものがあるだろうし。風椿碧にもお別れを言わないといけないだろうし」


 「……………うん、そうだね」


 「じゃあね。おとなしく家に帰るんだよ」



 そして弥勒は、まといの元から去っていった。

 


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