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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十二章 最悪の惨劇
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電話の相手


 引き続き、7月6日。


 トモイと建物の外で内緒の話をしていた福富神子だったが、またすぐに福神出版のフロアの中へと戻ってきた。

 まといは複雑な表情を浮かべたまま、空のマグカップの中をずっと見つめていた。


 「……………」


 さっきのトモイの言葉が堪えているのだろう。

 

 これはそう、誰の言葉が正しいとか、もはやそういうレベルではないのだ。

  

 

 「で、あなたはこれからどうするつもり?」


 「わかりません。でも、自首しないにせよ、今の生活は捨てるべきだと思います。苦しむべきなんです。そう、死ぬまでね」


 「そうね。あなたは苦しむべきだわ」


 「今日はマンガのアシスタントの仕事が入っているので、仕事をしながら、色々考えてみる事にします。だから、もう行きますね」


 「あっ、ちょっと待って」


 「えっ、なんですか?」


 「あなたに聞きたい事があるの。そう、これはとても大事な事よ」


 「え?」


 「あなたが川藤秀治を殺したの?」


 「えっ?どうして川藤さんの名前を知っているんですか?」


 「徳川につながる証拠を得たくて、彼についても調べた事があるのよ」


 「なるほど……。でも、私は殺してはいないし、あの事件は、あの人の愛人が手にかけた殺人……ですよね?」


 「ええ、そうよ。あれはただの殺人。一見するとだけどね」


 「どういう……意味でしょうか?」


 「ある方法(・・・・)で、そう仕向けた人物がいるような気がしてならないの」


 「でも、殺人なんて、普通は、誰に頼まれようがしませんよね?」


 「ええ。普通はね。だけど、もしもある方法(・・・・)で川藤を殺すよう仕向ける事が出来たなら、自分自身の手で殺すよりかは、リスクは少なくて済むわよね?」


 「たしかに……そうだけれど………」


 「でもあなたは川藤をカメラで撮ってもいないし、愛人に向けてシャッターを切ったりもしなかった。間違いない?」


 「ええ、間違いないです。川藤さんは児童養護施設の件について実は後悔していたんです。それに協力的だった。だから、殺す理由はないんです」


 「なるほどね」


 だとするとやはり、愛人が狂ってしまったのは“アレ”が原因だと考えた方がつじつまが合う。それに、昨日発生したあの駐車場ビル近くで起きたスリップ事故。


 こうなって来ると、これ以上この件に関わるのはやはり危険だ。

 いや……でも……。

 

 回避する方法はある。 

 荒木優吾はカメラで撮られてしまったせいで命を落としてしまったが、アラキの近くにいたはずの加賀城は死ななかった。

 カメラで撮っても加賀城が死ななかったから逃げるしかなかったと考えるべきだろう。



 センシビリティ・アタッカーは感情を操るチカラだ。

 そして、フォーカスモンスターのカメラは呪いを操るチカラ。

 憎しみが原因であのカメラに人を殺す力が染みついてしまった事を考えると、呪いのチカラも結局はセンシビリティ・アタッカーと似ているのかもしれない。

 

 だから加賀城密季は、呪いのチカラを跳ね返す事ができた。


 「…………………」




 まといは今、カメラを持ってきている。

 賭けてみる価値はあるのかもしれない。



 「ねえ蒼野さん。手始めに私の事、写真に撮ってみない?」


 「えっ?」


 「無病息災を願って、ためしにシャッターを切ってみるの。もしも成功すれば、あなたは更なる可能性に気づく事ができる」


 「でも………」


 「どう自分自身の罪と向き合っていくべきか、参考になると思うの」


 「でも、成功するとは限らないですよ」

 

 「別にそれでも構わないわ。殺すためにシャッターを切るわけじゃないんだから、失敗しても私はすぐに死なない。成功したら、ただ単に儲けもんかなってだけの話よ」


 「……………………」


 「どう?」


 「……………………わかりました」



 まといは、自分自身の可能性を信じ、福富神子へとシャッターを向けたのだった。











 PM23時。



 大型トラック10台分は仕舞えそうなガレージの隅に、キャンピングカーが1台置いてあった。バスみたいな形をしたタイプの四角い大型キャンピングカーである。

 冷蔵庫はもちろん、トイレも、ベッドもついている。ソファもある。テレビはないが必要ない。今は、スマホさえあればニュースをチェックできる時代だからだ。


 そんなキャンピングカーの中へとトモイは入り、ベッドの上で横になった。


 

 そう。ここがトモイの住まいである。

 変わっているかもしれないが、近所づきあいをしなくていいので、気軽だった。


 すると、ベッドの近くの壁に取り付けてあったイエデンが鳴った。



 「……………………」


 

 最初、取ろうかどうか迷った。

 イエデンなんてものは、スマホが当たり前となった今では、ただただ時代遅れなだけである。このキャンピングカーを買った時からついていたものだったので、そのままにしておいただけの事。だから、このイエデンの番号を誰かに教えたりも、もちろんしてない。



 電話の相手は、はたしてオレオレ詐欺か。セールスの押し売りか。

 最近だと、アポ電強盗なんてものもあるらしいが……。


 まあいい。くだらない電話だったら、このイエデンを壁から取り外し、2度と使い物にならないくらいに壊してしまえばいいだけの話。


 ガチャ。


 「もしもし」


 さて、いったい誰からの電話なのか。

 




 『もしもし……兄さん………だよね?』


 「えっ…………?」


 『母さんの名前は那珂道マユリ。そして、あなたの弟の名前はフユキ。あなたの本当の名前はナツキ』


 「………まさか………そんなはずは……」


 『会いたいんだけど?』



 まさか、弟の方から電話をかけてくるとは思わなかった。



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