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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十一章 偽りのエトワール
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浮ついた気持ち


 引き続き7月3日 PM20時過ぎ。


 コンクールの授賞式の件で結局碧の家に訪れたまといだったが、やはり、恐れていた事が起こり、なんといま、2人はベッドの上にいた。


 服はちゃんと着ている。でも、これはこれでヤバいなと、まといもさすがに思った。

 

 まといの体のうえには碧が乗っかっている。

 まといは手首を両手で強く掴まれ、押しつけられ、まといが逃げられないように碧は、まといの腰のあたりを両太ももでガシッと固定していた。


 彼女の長い髪が、まといの頬に軽くかかっていた。

 顔がとても近い。


 「………………」


 いい匂いが、漂ってくる。

 思わずうっとりしてしまいそうになったが、まといはなんとか理性を保った。


 でも、碧がその気になってしまったら、簡単にキスされてしまう距離だった。



 碧は逃がす気なんてきっとないのだろう。

 さっき言った通り、まといの方から関係を終わらせない限りは、不誠実と思われようが、どんな手を使ってでもつけこむ気なのだ。

 


 はっきり言わなければ。

 あなたとはつきあえないと。



 「みっ、あのね……碧さん」


 「なに?」


 「わたしね、自分の気持ちを整理してみたの。そして気づいた。私は花房聖が好き」


 「…………」


 「それに、今は花房聖の恋人だから、あなたとはつきあえません」



 よしっ。

 言った。

 言ったぞ。

 よくやった私っ。


 と、まといは心の中で自分の事をほめたが。




 「じゃあ、恋人じゃなかったら、私にもチャンスがあったって事じゃないの?その言い方だと?」


 「えっ?」


 「まといちゃんの言いたい事はわかるよ。それに、何もおかしくはないよ。でも、違和感はある」


 「なっ、なにが?」


 「だってさ。自分の気持ちに気づいた時点で、すでに花房聖とは恋人だったから、そのまま花房聖との付き合いを続行するって聞こえたけど?」


 「えっ、それのなにがおかしいの?」


 「仮にね、今、まといちゃんは誰とも恋人ではないとする。で、どっちとつきあいたいか、そして恋人になりたいか、まといちゃんは即答ができるの?」


 「…………うっ……………」


 「ほらっ、即答できないでしょ?花房聖があなたにとっての1番だったら、言葉にはつまらないと思うの」


 「…………そっ、そんな………そんな事は………」


 「こういうのムカつくから、私の方から言いたくはないけど、たぶんまといちゃんは、どっちも好きなんじゃないの?おなじくらいにね」


 「えっ…………」


 

 やばい。また頭が混乱してきた。

 いや、落ち着け。

 どっちも同じくらいに好きだったとしても、今は聖とつき合っているわけだから、迷う事なんてないのだ。もう1回ハッキリと言わなくては。



 「みっ、碧さん。聖と別れるつもりはないよ。だから、前みたいに友達として………」


 「だめ」


 「うっ」


 「どっちもおんなじくらいに好きなら、やっぱりどっちかを粉々に砕かないと、まといちゃんのためにもならないと思うの」


 「そっ、そんな事は………」


 「もちろん、粉々に砕け散るのは花房聖の方だけど」



 だっ、だめだ。

 碧には口では勝てない。

 恋に本気になった彼女は、強すぎる。



 「それともまといちゃんは、私との関係を、本気で終わらせたいと思ってるの?」


 「そっ………それは………」


 「即答しないって事は、終わらせたくないって事だよね?」


 「…………うっ……………」


 「ごめんね、意地悪な事ばっか言って。でも、いままでずっと私、我慢してたんだよ。どうせ叶わない恋だって勝手にあきらめてたの。でも、そうして何もしないままで居続けた結果、花房聖にまといちゃんを取られちゃって…」


 「…………………」


 「もう遠慮はしたくない。後悔は、したくないんだよね」


 「…………………」


 

 そんな風に言われると、弱い。

 きっとこれも、彼女の策略なのかもしれないが……。



 「まっ、でも、この辺にしておいてやるか。あんまいじめすぎちゃうと、またまといちゃんの“逃げスキル”が発動しちゃいそうだし」


 

 碧はまといのうえから下り、新品未開封の化粧品の数々を紙袋の中へと入れた。



 「ありがとう」


 「ファンデーションだけでもいいから、暇な時間にでも自分で塗って、合う合わないをちゃんと見極めた方がいいかもね」


 「うん、そうするね」




 そしてまといは碧に礼を言ってから、帰宅した。



 聖はすでに帰宅していて、冷蔵庫に入れっぱなしだったざるそばをズルズルと食べていた。



 「おかえりー♪」


 「うん、ただいま」


 「あれっ、まとい、良い匂いがする」


 「えっ?」


 

 聖は立ち上がり、まといに顔を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。



 「柑橘系の匂いがするよ?」


 「うっ」


 

 しまった。

 さっき、碧にベッドのうえで乗っかられていた時に、服に染みこんでしまったのだろう。

 たぶん、こういった事の積み重ねで、浮気がバレていくのかもしれない。



 浮気…………。


 

 そう、あれは確実に……………浮気だ。


 「…………………」


 まといは一気にテンションが下がった。

 穴があったら入りたかった。



 「化粧品買ったの?」


 「えっ?」


 「ほらっ、紙袋持ってるし」


 「ああ、これは、知り合いにもらったの。買ったはいいけど使ってないやつをご厚意で」


 「言ってくれたら買ってあげたのに。最高級のやつをね」


 「うん、そうだね。あっ、体調は大丈夫?」


 「あったぼうよっ♪♪」


 「よかった」


 

 やっぱりただの疲労か。


 「あっ、聖、そばだけで足りる?今からでも、炊き込みご飯とか作ろうか?」


 「大丈夫だよ。炊き込みご飯は明日でいいかな。あっ、栗ご飯食べたいな」


 「わかった。じゃあ、化粧品置いてくるね」


 

 そしてまといは自分の部屋へと移動した。


 

 そのすぐあとだった。

 聖のスマホに電話がかかってきたのは。

 

 聖は通話ボタンを押して、サッと電話に出た。

 


 「どうしたのイシユミくん」


 『とんでもない事になりました。まあ、明日でも本当はよかったんですが、1秒でもはやく伝えたくて』


 「えっ、なんかあったの?」


 『ええ、実は…………』



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