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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第三章 風椿碧と蒼野まとい
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蒼野まといサイド1

 


 風椿碧と別れた蒼野まといは、ふたたび、さきほどのふくよかな眼鏡の男の元へと戻った。

 そして2人は、ビルとビルの隙間を通って、5階建ての横長のアパートへと移動した。

 さらに、正面エレベーターを使って3階へと降り、303号室へと入った。

 

 分厚い玄関扉が、ギィィっと音を立てた。


 廊下には、大人買いしたプラモデルの箱の山があった。その脇には、ゲームソフトを閉まっておくためのシルバーラックが無理やり置かれている。

 その廊下を通って奥の部屋は、デスクトップパソコンが4台置いてあった。

 このパソコンさえなければ、本当ならそんなに狭くはない広さなのだが、パソコンを置くためにはデスクも必要なので、必然的に窮屈になってしまったというわけである。

 壁際には2人用のベッドが置いてあった。



 「ぐふふ」



 この男の名前は蕪山浩(かぶやまひろし)。現役大学生でもあり、ちょっとしたハッカーでもある。

 でも、彼はそのハッカーの腕をくだらない事に使っている。たとえば、有料AVサイトから、タダで動画がダウンロードできるよう操作をしたりなどだ。



 まといは別に、蕪山でなくても、ハッカーなら誰でもよかった。

 彼を仲間へと引き入れた経緯は次の通りである。

 まず、日本で毎年行われているセキュリティコンテストでどこの大学が上位に食い込んだのかを調べ、直接大学を訪れたりして、お願いを聞いてくれそうなハッカーを慎重に見つけ出したのだ。


 すべては、冤罪を仕組んだ犯人を見つけ出すためだ。


 情報のためなら、別に脱いでも構わない覚悟だった。

 でも、蕪山はそんな要求はいっさいしてこなかった。

 

 蕪山が言うには『顔色の悪すぎる女を抱くほど俺はゲスじゃない』らしいとの事。

 あと、貞子みたいな髪の女は好みじゃないとも言われた。

 だから髪を切ったのだ。

 そして彼はまといの事を気に入った。


 

 彼は、情報と引き換えに、あるバイトをまといに頼んできた。

 ソーシャルゲームのランキングイベのために、周回プレイをしてほしいといった内容のバイトである。


 ランキングイベント用に用意された短いダンジョンには、通常モンスターが数匹配置されていて、1番奥まで行けばボスモンスターと闘える。そして、そのボスモンスターを倒せばようやくランキングポイントが加算されるのだが、ランキング上位に食い込むためには、その周回を何度も繰り返さなければいけない。

 ソシャゲには、ヘビーユーザーとライトユーザーが少なくとも存在しており、ヘビーユーザーは寝る間も惜しんでまでランキングを勝ち抜こうとするので、ランキング報酬が欲しい人は、寝不足を覚悟でその戦いに挑まなければならない。

 でも、毎回のようにランキングイベに睡眠時間を持っていかれるのはつらいので、蕪山はまといを雇ったというわけだ。



 時給1200円で休憩込みの8時間。麦茶飲み放題だ。


 まといは、マウス片手に、今日もランキングイベの周回プレイに勤しんでいた。



 「ぐふふ……ご苦労ご苦労」



 蕪山はまといの隣に椅子を置き、ペットボトルの中のコーラを一気飲みした。そして、さっそく本題に入った。




 「あの児童養護施設への誹謗中傷が特にエスカレートしていた掲示板をいくつか探ってみたんだけど、ウイルスに侵された形跡があった」



 「ウイルスに?」



 「そう、でね、その掲示板に何も知らない一般人が書き込むと、海外のサーバーをいったん経由して、コメントが表示されるようになってたんだよ」


 

 「…………それじゃあ………」



 「ネガティブキャンペーンは確実に行われていた。で、ネガキャンを(おこな)ったサクラ達が誰か特定させないために、すべてのコメントが海外のサーバーに経由されるように仕組んだ」




 「……………手の込んだ事を……」

 

 

 

 そこまでして、親友の犯罪を既成事実にしたかっただなんて………やはり許せない。

 でも、そこまでやってのけるという事は、やはり、ただの小娘でしかない自分では簡単に太刀打ちできない相手だという事。


 正攻法では無理だ。なんとかして策を絞り出さなければならない。



 「時間はかかるかもしれないけど、ウイルスの侵入経路から少しずつ手がかりを探っていくしかないね。まあ、まだまだチャンスはあるよ。だってネガキャンは需要があるから…。あっ、ほらほら、お手々が止まってるよ。マウス動かして」


 

 「あっ、はい、ごめんなさい」



 

 カチカチ。



 マウスの左クリックをくり返し、キャラクターをダンジョンの奥へと進ませていく。




 「蕪山さん………。本当に、このバイトだけでいいんですか?私にバイト代まで払って………。なんていうか、蕪山さんだけ損してません?なんなら他にも言う事聞きますけど…………」




 「損なんかしていないよ」



 「えっ?」



 「君は僕を……生ゴミを見るような目で見ないだろ。それでもう充分なんだよ」




 そして蕪山は、シャワーを浴びるために奥の廊下へと消えていったのだった。

 

 

 

 

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