親友への想い。サヨナラ。
サラは、はじめてできた親友だった。
だから、サラからもらったカメラを壊す事に、抵抗がないわけではなかった。
あのカメラと一緒にもらったモノ。それは、サラがまといに託した想いでもあったから。
サラは、あのカメラをまといに渡す際、こう言ったのだ。
だったらせめて、ちゃんと夢くらい叶えて幸せになれと……。
でもサラは、まもなくして覚えのない冤罪をかけられてしまった。もちろん誰も助けてはくれなかった。それどころか、ネットやテレビ、新聞を通じてデマが広まり、そのデマを信じた不特定多数の人達は、彼女が犯人だと決めつけた。
そして彼女は2年前のあの日、まといの魂の中へと入り込んでしまった。
あの時のまといと同じように、彼女もまた、全ての人間に対し、憎しみを抱くようになったからだ。
そうだとも知らずにまといは、己の憎しみの思うがままに、あのカメラで人を殺し続けた。
今になって思えば、彼女はずっと喜んでいた気がする。そう、あのカメラで人を殺すたびに……。
もっと早く気づいてあげればよかった。
人を殺し続けて得られる達成感のその先に、幸せなんてあるわけがないのだ。
冤罪さえかけられてなければ、彼女は、こんな終わりなき憎しみに囚われ続ける事もなかったのだ。
円城寺サラは、本当は優しい人間のはずだったのに……。
もう、彼女はいない。
結局最後まで、サラの事を救ってあげられなかった。
ごめんね………。
本当にごめんなさい………。
そしてまといはシャッターを切った。
サラがかつてまといに託したあの純粋だった頃の想いが、あのカメラにはもう残っていないとわかったから……。
でも、手ごたえが浅いような気がした。
レンズとボディには亀裂は生じたものの、不十分のような気がしたのだ。
だからもう1度シャッターを切り、みんなの目が眩んでいる隙に、トモイと一緒に建物の外へと逃げたのだった。
トモイは、耳にはめていたインカムを足で踏みつぶし、まといにこう言った。
「なんで君がここにいるっ!!」
トモイは怒っていた。
「えっ…………えっと…………」
「猿手川のアジトで君と出会った時は、すぐには気づかなかったよ。危うく撃ちそうになった。でも、あとで気づいた。君は睦城緋色だろ?」
「なっ、なんでそれを」
「昔、右田常信には助けてもらった恩があってね。その縁で、君の事を知った」
「……そっ、そうなんだ」
「だから俺は、あの人にはさらに“上”にのぼってほしいんだよ。でも、君がここで死んだらどうなると思う??」
「……………………」
「あの人の唯一の心の支えがなくなるんだよ。あの人は、危険を冒してまで、君に第2の人生を与えたんだ。そして2年前のあの日も、君をマスコミや警察の目から必死に隠した。君も、それはちゃんとわかってるはずだよねっ」
「……………………」
「そしてあの人は極力、君と会わないように努めた。どこで誰が見ているとも限らないからね。君が本当は睦城緋色だという情報がマスメディアを通じて広まってしまったら、また君が狙われる事になる」
「……………それは分かってます」
「だったらどうしてっ!!」
「自分で決着をつけたかった。そして私は結果的にあなたを救った」
「俺はそういう事を言ってるんじゃないっ!!!」
「伯父については、最近まで誤解してたけど、もう嫌悪感は心の中にはありません」
蕪山が遺してくれたSDカードの音声データをきっかけに、伯父が、必死になって守ろうとしてくれていたのに気づけたからだ。
今ではあの伯父に感謝だってしている。
「だったらこれ以上は、へたな事はしないでくれっ!!ただでさえ、今回の事で、連中は必死になって君を狙ってくるかもしれないっ!!もちろん、そうならないように努力はするけど……」
「ええ。私的にはカメラさえなんとかできればよかっただけなので、それに関してはもう大丈夫です」
「…………わかったんなら、さっさと帰ってくれ」
「わかりました」
まといは、弥勒が待っている駐車場へと走っていき、助手席に乗り込もうとした。
でも、そんなまといを右へと退けて、助手席から弥勒へと手を伸ばした人物がいた。
トモイだった。
トモイは弥勒の胸倉をつかんだ。
トモイの額には血管が浮かび上がっていた。目は鋭利のように鋭く、眉間には深いしわが刻まれている。
トモイは弥勒に対してこう言った。
「テメェ………オンナに危ない事させておいて、自分だけ車の中で待機ってか……。ハッ、どんだけクズなんだよ」
そしてトモイは、思いきり弥勒の頬を拳で殴ったのだった。




