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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十章 深淵
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顔が恐いですよあなた


 引き続き7月1日 AM9時過ぎ



 碧とまといは、薔薇の麗人のDVD特典の打ち合わせのために、港区の大きいホテルまでやって来た。

 そして、打ち合わせ用にレンタルした部屋のある階へと、エレベーターであがった。


 廊下にはすでに、薔薇の麗人の出演陣が集まっていて、たわいもない話で盛り上がっていた。

 みんな、碧が来たのに気づくと、笑顔で挨拶してくれた。



 「碧ちゃーん、おはよう」


 「おはようございます」



 まといはいったん、碧から少し離れて、廊下の壁際へと寄った。

 この出演陣の人達とは、前に挨拶を交わしたりもした事はあったが、結局はその程度の仲でしかないので、会話の邪魔にならないスペースへと移動したというわけである。


 

 「碧ちゃーん、本当に引退しちゃうのぉ。すごいもったいない」


 「気持ちは変わらないです。ほかに目標ができたので」


 「でもなぁ、やっぱり碧ちゃんみたいな女優はいた方がいいよ。脚本も大事だけど、その脚本に息吹を与える事ができる部類の演者って、見ていて本当に面白いんだよ。碧ちゃんなんかは特に、わざわざ恰好を劇的に変えなくても、キャラごとの個性の演じ分けもできているしね。グッとくる。碧ちゃんまでいなくなったら、いよいよ、役者気取りのアイドルや芸人が我が物顔でウチラの縄張りをメチャクチャにしはじめると思うんだよね」


 「アイドルや芸人にも実力のある人はいるけれど、やっぱりそれは、限られた一部の人間だけなのはたしかです。顔はよくても、ボソボソ声で、何言ってるのかわからないのに、それでOKを出しちゃう監督さんもいるから、どんどんドラマ離れが進んでいく……」


 「地上波のドラマがオワコンと裏で言われちゃってるのも、そのせいだよね。まあたしかに、イケメンは目の保養にはなるとは思うけど……グッとはこないんだよね。演技もそんなに面白くないっていうか」


 「あっ、それあるかも。やっぱり、視聴者をグッとさせてなんぼだと私も思います」


 「ボソボソ声についてだけど、イケメンに限った事ではないんだよね。女の子でも、結構ボソボソ声だったりして、もったいないなぁとは思う。光るモノがありそうだとよけいにね。でも、いまは何でもハラスメントになっちゃうでしょ?難しいよねぇ。どうアドバイスすればいいんだろ」


  

 そんな会話を、ちょっと離れたところで聞いていたまといは、こっそりと地下駐車場の方に戻ろうかなと思っていた。なんだか………居づらいので。

 いや、いまからでも地下駐車場に行ってもいいのかもしれない。


 なんの一言もなしにこっそり離れるのはアレかもしれないけど、ラインで『地下駐車場で待ってる』と送れば、なんの問題もな………。





 「私、実は同性だけど、碧ちゃんのこと好きだったんだぁ」





 なっ、なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!


 碧へと背を向けようとしていたまといは、すぐに体の向きを碧へと向け、クワッと鬼の形相になった。



 

 「おっ、カレンちゃん。ついにコクったな。ヒュー」


 「ちょ、小野近さん、からかわないでくださいよぉ」



 まといは心の中でこう叫んだ。


 おいおいおいおいっ。

 もちろん、その告白、断るんだろうなぁぁぁ!!!



  

 「えっ、カレンちゃん。私の事好きだったんだ。うれしーなー」



 ムカァァァァァァ。



 「えっ、碧ちゃん。それって、つまり、オーケーって事?」


 「あっ、ごめん。目にゴミが入っちゃった。ちょっと待ってて」



 碧はポケットから、折り畳みのコンパクトミラーを取り出し、目に入ったゴミを確認するために自分の顔を鏡に映したのだった。


 「ん?」


 そして碧は気づいた。

 自分の肩越しに映っているまといの表情に………。




 




 般若の顔をしていた。








 時間になったので、薔薇の麗人の出演陣達は、打ち合わせ用のフロアの中へとゾロゾロと入っていった。

 ひとりその場に取り残されたまといは、地下駐車場へと戻り、一応碧に、駐車場で待ってるとラインでコメントを送り、運転席へと座った。


 オフラインでもできるスマホのゲームアプリで時間を潰していると、3時間ほどで碧が戻って来て、車に乗り込んだ。



 「ん?ずっとゲームしてたの?」


 「……………うん」


 「…………………」


 

 まといはゲームアプリを閉じてスマホをしまい、車を発進させた。

 もうこの後の予定はないので、家に帰るだけだ。


 「…………………」


 訂正。

 冷蔵庫に食材がないので、スーパーに寄らないといけない。


 

 「碧さん。買い物………スーパー寄るけどいい?今日買わないと、碧さん、明日の朝、ご飯だけしか食べられないし」


 「いいよ」


 「………………じゃあ、七王子市のあのスーパーに寄るね」


 「怒ってんの?」


 「えっ?」


 「ていうより………嫉妬しちゃった??」


 「なっ、なにが??」


 「さっきさ、鏡越しに、まといちゃんの怒った顔が見えたんだよねぇ」


 「……………………」


 「心当たりがあるとしたら、カレンちゃんの事くらい?」


 「…………違うし」


 「じゃあなんで怒ってんの?」


 「怒ってないよ」


 「怒ってんじゃん。声低いよ」


 「じゃあ、勝手にそう勘違いしてればいいじゃん。私は別に怒ってないけどね」


 「フフフ」

 

 「なっ、なにがおかしいの?」


 「うれしくて」


 「えっ」


 「カレンちゃんには、つき合えないって言ったから安心して。私が好きなのはまといちゃんだから」


 「でも私には恋人が………」


 「知ってる」


 「…………」


 「まといちゃん。いいかげん意地張るのやめたら。そしたら楽になれるよ。両想いじゃん。ハッピーエンドじゃん」


 「…………」


 「覚悟してね。本気になった私は最強だから♪」




 そして碧は不敵に笑ったのだった。



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