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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十章 深淵
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不審な事故


 引き続き、7月1日 AM11時過ぎ。



 東条が死んだ事を伝えに来た西尾巡査を、いったん加賀城は奥の部屋へと連れて行き、詳しい話をそこで聞いた。



 「死因は?」


 「事故です」


 「本当に?」


 「…………………」


 「言葉に詰まるという事は、殺人の可能性があると、少なくともあなたは思っているのですね」


 「…………殺人ではない……とは思います。でも、あまりにも不自然です」


 「彼の遺体はどこで見つかったんですか?」


 「川の中です。赤橋署の近くを流れる川の、さらに下流までいったところに飛び石があるのですが、彼の遺体はその飛び石に引っかかっていました」


 「あそこってたしか………」


 「そう。投げ捨てられたゴミの行き着く先が、ちょうどあそこなんです」



 飛び石とは、川の向こう側へと渡るために配置された石の事である。水面から顔を出すように点々とその飛び石は配置されていて、人の手によって加工されていたりもするので、まっ平で、足場としてはちょうどいい。でもそのせいで、上流から流れてきたゴミがその飛び石に引っかかり、ゴミ塗れになっている事がある。

 ボランティアの人が定期的にゴミを取り除いたりはしているが、それでも、ペットボトルやら色んなものを“気軽”に投げ捨てる人が後を絶たず、挙句の果てには、中古で使えなくなったパソコンをわざわざ、夜の時間帯にあそこまで持って行って捨てたりしている人もいる。


 粗大ごみになると、業者に引き取ってもらうためには3000円近くも手数料が取られるし、いらない粗大ごみが家に5~6個近く同時にあったりすると、その分、多くのお金がかかってしまう。だからこそこういった不法投棄が絶える事はない。


 

 

 そしてそのせいで…………東条は死んだ。




 東条の死の詳細について、西尾巡査はさらにこう説明した。



 「飛び石と飛び石の隙間に、ペットボトルやら色々なモノが詰まってしまって、で、そのせいで、包丁の刃先がちょうど上を向くように固定されてしまったんです。東条警部はそれに気づかず、包丁で足首を思いきり切ってしまって、よろけて川の中へと落ちてしまった。でも、その川底は、東条警部にとって、もっと地獄だった。彼を待ち構えていたのは、先っぽが尖ったいくつもの鉄パイプだった」


 「…………………」


 「もちろんその鉄パイプの先っぽの方は全部“うえ”を向いてました。そして東条警部の体はその鉄パイプに貫かれて………」


 「………………」



 見るも無残だったのは確かだろう。

 何本もの鉄パイプによって彼の体は貫かれてしまったから。


 誰かのせいにするならば、あんな川の中に不法投棄した不特定多数の人達なのだろうが、それでも、殺意をもって不法投棄をしたわけではないので、これはそう、事故だった。


 だけど西尾巡査は、納得がいかないといった顔で、眉間に深くしわを刻んでいる。

 彼は、東条警部の死に対し、加賀城にこんな事を言った。


 「人間いつかは死にます。死に方はヒトそれぞれ違ったりもします。まったく予想がつかない死に方をする事だってある。でも、彼は単独で何かを調べていたような気がするんです。その途中でのこの事故。本当に偶然なんでしょうか。それに、不審な点はほかにもある。なぜ彼は、飛び石を渡ってまで、向こう岸へと行こうとしていたのか………」


 「死亡時刻は?」


 「夕方はまだ赤橋署にいたので、18時以降から22時の間です」


 「なるほど」


 

 たとえ夕方であっても、充分薄暗い。包丁に影が差してしまって見えなかった可能性は充分にあった。

 加賀城は西尾巡査に、さらにこんな事も聞いた。

 

 「彼の自宅は?まさか、その飛び石を渡った方が近道とか?」


 「いいえ、そんな事はありませんよ。彼の自宅はもっと上流に位置するところです」


 「………………なら、調べてみる価値は充分ありますね」


 「ほっ、ほんとですか」


 「ええ……」



 確かに、このタイミングでの彼の死はあまりにも不自然がすぎる。

 それに彼は、わざわざ郵便局に配達を頼んでまで、加賀城にあの書類の入った封筒を届けている。

 

 近衛の監視の目があったからというのがひとつの理由かもしれないが……。



 「西尾巡査。この事件についての“うえ”からの指示は、いまなにか出てるんでしょうか?」


 「いいえ、あくまで事故なので捜査はしません。上層部全員一致の意見です」


 「そうですか……。ちなみに、2年以上も前になりますが、あなたは円城寺サラの事件についてどれだけ知っていますか?」


 「えっ?知らないです。2年前は俺、新人のペーペーで右も左もわからなかったし、東京にはいなかったし」


 「そうですか…………」


 「加賀城さんの方が俺よりも知ってるはずですよね?切り裂きジャックの事件の時も2年前だったし、その前に起きた精神科医の事件なんて3年前。いずれも東京で起きていて、あなたが解決している。つまりは、あなたは3年以上前からずっと東京にいて、警察官だったって事ですよね」


 「…………そう、ですね」



 加賀城は少しだけ眉間にしわを刻んだ。

 そして西尾巡査にこんな事を言った。



 「ちょうどその頃は“休職”してましてね。だからよくわからないんです」


 「そっ、それは知りませんでした。なら私、なにか手伝いましょうか?」


 「それはありがたい事ではありますが、あなたはこの辺で手を引いた方がいいですね。そしてしばらくは、見ざる、言わざる、聞かざる。私に関わらない方がいいです」


 「そっ、それはなぜですか?」


 「…………もうこれ以上は被害者を出したくないからです。これだけ言えば、意味はわかりますよね?」


 「…………なっ」


 

 西尾巡査は目を大きく見開き、驚きの表情を浮かべた。でもすぐに理解した。下手したら、東条警部の二の舞になりかねないという事に……。



 「しかし加賀城さん。私だって刑事です。階級はまだ巡査でありますが、東条警部は誰に対しても優しく、正義感にあふれる仲間でした。これがもしフォーカスモンスターのしわざだとしたら、仇を討ちたいです」


 「気持ちはわかります。でも、彼の後を追うような事になっては、東条さんだって報われないでしょう。だからもう少し待ってもらえませんか。お願いします」


 「…………わかりました。でも覚えておいてください。私だけではないんです。赤橋署の刑事課全員あなたの味方ですから」


 「…………ありがとうございます」


 「東条警部の言っていた通り、あなたはとても優しい人なんですね。だからこそ私はこう思います。あなたにも無事であってもらいたいと」


 「ええ」


 「それじゃあもう行きますね」



 そして西尾巡査は部屋から出た。加賀城は一応、精神科警課のフロア近くに不審な人物がいないか確認したが、大丈夫そうだった。




 

 でも、油断はできない。





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