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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十九章 Death Flag
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幕間19 郵便


 6月29日、昼。



 東条はいったん郵便局に寄ってから、次の目的地へと向かったのだった。

 




 そして夕方。




 加賀城は、とあるイベントホールを借し切っての“LIVE会見”をおこなった。

 もちろん、各テレビ局の記者を呼んでの会見である。

 

 このLIVE会見は、TOUTUBE上でも流れる。

 加賀城はカメラに向かって、こう挨拶をした。

 


 「この度は集まってくださり、ありがとうございます」


 

 パシャパシャ。

 

 

 カメラのフラッシュがたくさん焚かれた。

 加賀城は更に言葉を続ける。



 「二野前さんのインタビューがテレビで流れた事をきっかけに精神科警課の名前が知れ渡った今だからこそ、この場を借りて、全国の皆様に発信しようと思いました」


 「それはつまり、どういう事でしょうか?」


 「精神科警課がどういったものかを簡単に説明するならば、人々の心に寄り添い、できるだけ自殺者を失くす……という活動をしています」


 「確かに精神科警課は、いままでにないタイプの課ですよね」


 「ええ、そうです。年ごとの自殺者は平均で約2万人。最近までは減少傾向と言われてはいましたが、実際はいまだに1万5千人以下を下回ってはいません。それどころか、1万8千を切ってすらいないんです。それはなぜか。些細な減少だけで満足して、もっと踏み込んだ対策をしようとしなかったからです」


 「厳しい意見ですね。そんな事言っていいんですか?今のあなたのコメントは、方々(ほうぼう)にケンカ売っていると捉われかねませんよ?」


 「事実ですので」


 「そっ、そうですか」


 「なので私の方で1つ、この場を借りて“宣伝”させてもらいます」


 

 ざわざわ。


 いよいよ本題に入るのかと会場がざわついた。


 みんな、加賀城の言葉を待った。



 「“コロッケ希望”は悪質な恐喝です。フォーカスモンスターのまねごとをして、カメラを向ける事も立派な危険行為。だから私達の方で、信用できる弁護士さんに何人か声をかけ、法の下に罰する準備が整いました」


 

 ざわっ。


 

 またもや会場が大きくざわついた。

 加賀城はさらに言葉を続ける。



 「なので、“コロッケ希望”をほのめかされた人、コロッケ希望のせいで不登校へと陥ってしまった人、恐がる必要も、自死を選ぶ必要もまったくありません。専用の電話番号をこのあと、警視庁のホームページにも載せますので、そこへ連絡ください。相談に乗ります」


 「そんな事して大丈夫なんですか?表現の自由の侵害と騒がれるのでは?」


 「相手の心をぶち壊していい自由なんて、誰にもありません。あってはならないんです」


 「それはそうですが……」


 「コロッケ希望の意味は、コロス、ケス、キボウから来ているそうですね。要するに死ね。誰かこいつを殺してほしいって事ですよね?」


 「ええ」


 「実際、カメラを使った悪ふざけのせいで階段から滑り落ちて死んだ事件も起きています。同様の事件も数件ね。それに加え、このコロッケ希望。さらなる事件を引き起こしかねない。見過ごすわけにはいきません」


 

 その加賀城のLIVE会見をテレビ越しに見ていた二野前洋子は、口元に笑みを浮かべた。

 さらに加賀城はこんな事を言った。



 「以前、表彰式の場でも私はテレビのチカラを借りて同じ事を言いましたが、もう1度言います。ネットに書き込んだあなたの“願い”を、誰かが叶えてくれたとして、被害者となってしまったその人の母親、父親、兄弟、親戚に対し、一生消えない傷を残してしまう事を理解するべきです」


 

 パシャパシャ。



 大量のフラッシュが焚かれた。

 

 そのLIVE会見をTOUTUBE上で見ていた人達がいっせいに精神科警課についてSNSで呟いた事により、YAFOOのトレンドワードランキングの1位に、精神科警課がランクインした。



 そう、それはつまり、この会見をした“意味”はあったという事だ。



 SNSで過激な言葉ばかり書いている人達にも仕事や立場というものがあるわけだから、警察に捕まったり、訴えられたりはしたくないはずだ。そんな事になってしまったら、最悪の場合、失業…。

 なので、そう日も経たないうちに、SNSからは“コロッケ希望”というワードが消え失せ、殺しをほのめかす人も劇的に減少するはず。

 弁護士と一緒に訴えていくとも、加賀城は宣言したわけだから。


 


 


 そして翌日の6月30日。





 加賀城は19時過ぎに帰宅した。

 

 「ん?」


 その直後だった。


 郵便局の配達の人がやって来て、加賀城にB4サイズの硬めの白い封筒を渡したのである。


 「……………………」


 差出人名には、東条の文字が書いてあった。


 加賀城は配達の人に礼を言ってから部屋に戻り、封筒を開け、中身を取り出した。



 「ん………通帳のコピー……。それにこれは……電話帳の履歴ですか」


 

 あと、東条からの、手書きの手紙もあった。

 その手紙にはこう書いてあった。




 これだけ集めれば、あなたならもうわかりますよね。BECKの防犯カメラに映っていた円城寺サラの姿も、おそらくは加工されたもの。

 そして猿手川が死に、マカベも死に、徳川も死んだ。

 みんな戸土間の悲劇には関わってはいる。でも、もうひとつの事件に彼らも関わってる。

 


 「…………………」



 手紙にはさらに、こう書かれてあった。



 一見すると、何者かが戸土間の復讐をおこなっているだけのようにも見える。でも本当はそれだけじゃない。戸土間の件で積年の恨みを抱えた何者かを操って、誰かが別の目的を果たそうとしている。


 そう、これは復讐です。円城寺サラに罪を着せた彼らに対しての、復讐。



 「……………………」



 手紙にはさらに、こう書かれてあった。



 私は、あなたしか頼れる人を知りません。こんな事をあなたに頼んでも、精神科警課の職務から逸脱してしまっているのは、わかってはいるつもりです。だから、他に頼れる人がいそうだったら、あなたから頼んでみてください。早く解決しないと、大変な事になりそうだから。


 「……………………」


 加賀城は深くため息をついた。

 TQSテレビ局でケガをしてから今日まで、赤橋署内で、何者かの視線は感じてはいたのだ。近衛が近くにいたので調べようとはあえてしなかったが、それが東条だったとは……。


 「……………………」


 もう遅いので寝る事にした。

 明日、彼と話そうと思った。






 だけど会えなかった。






 


 死体があがったからである。






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