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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十九章 Death Flag
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通帳


 6月28日 朝。


 

 仕事に行くために、美鈴がいつもの道を歩いていると、後ろから誰かに呼び止められた。



 「あっ」



 六文太弥勒だった。



 「オッスオッス♪」


 「うっ……」



 美鈴は眉間にしわを寄せた。



 「あれ?俺嫌われてる♪」


 「そんな事はないけど………」


 「じゃあコレ返すね♪」


 「えっ」


 

 弥勒は美鈴へと茶封筒を渡した。


 

 「なっ、なにこれ……」



 中を覗くと、お札と小銭が入っていた。



 「2980円。君に返す」


 「はっ?」


 「しょせんこの世はギブアンドテイク。見返りのない人間を助ける価値はないと俺は思ってる。相手が他人ならなおさらね」


 「は………はあ……」


 「でも、君の事を助けたお礼としては、多くのモノをもらいすぎちゃったから、とりあえずこの前の分のお金を返すって事で……」


 「はあ……………」



 で、結局なんなんだ。



 「じゃあね♪」


 

 弥勒は、自分だけスッキリとした表情を浮かべ、その場を去っていったのだった。











 一方、BECKの件を加賀城に相談するつもりでいた東条だったが、いまだにそのチャンスを掴めず、現在に至っている。

 最近やたらと近衛と加賀城が一緒にいたために、近寄りたくても近寄れなかったのだ。

 

 でも、独自で“ある事”は調べてはいた。


 やはり2年前の事は、円城寺サラではなく、風椿葵だった可能性。

 BECKの防犯カメラにはサラの姿がバッチリと映っていたため、それが決め手となったのだが、それが本当にサラだったかどうかも、いまとなってはかなりあやしかった。

 だから、信用できる人物にもう1度カメラの映像を分析してもらえば、2年前とはまったく違う答えが返ってくるはずだ。

 

 だけど、いまさらカメラを調べる権限は東条にはなかった。

 

 「いや、待てよ………」


 手掛かりがないわけではなかった。

 権力をもってしても、揉み消す事ができないモノがあるではないか。


 だから東条は、上辺美鈴を訪ねたのだった。

 彼女はなぜか、東条の顔を見てギョッとしたが、こう答えてはくれた。

 昨日のケイの件で来たのかと最初思ったからである。

 でも違うとすぐにわかったので、彼女は安心したというわけだ。



 「私はたしかに円城寺さんと同じ学校には通ってましたけど、蒼野まといさんの方が仲がよかったですよ」


 「蒼野まとい?そんな人、卒業アルバムに写ってたっけなぁ」


 

 東条は昨日、サラが通っていた高校を訪ね、卒業アルバムももちろん見せてもらったのだが、蒼野まといの名前については記憶になかった。



 「えっ、刑事さん、まといさんもたしかに写ってるはずですよ」


 「そっ、そっか。じゃあ私の確認不足かな」


 「七王子のマンションに彼女は住んでるはずです。電話してみますね」


 「ありがとうございます」


 

 美鈴はまといと連絡を取った。

 まといは電話越しに、東条と会ってもいいとOKしてくれたのだった。


 なので今日の19時に、児童養護施設前で待ち合わせをする事になった。

 東条はまといに、“例のもの”を持ってくるように伝えるのも忘れなかった。




 そして東条は19時にまといから、その“例のもの”を受け取り、ぺらぺらとページをめくって確認した。



 まといは東条に、「なんで“通帳”が必要だったのか」と聞いた。



 「よっぽど信頼できる相手でない限りは、銀行の相性番号なんて特に、教えようとは思わないだろう?だから、権力をもってしても、この通帳に記入された内容までは揉み消せない」


 「というと?」


 「もちろん、振込口座番号を知っていれば、振り込む事は可能だよ。そして警察は、不審な振り込みが円城寺サラの口座にあったとして、捜査はするかもしれない。でも、リスクもある。サラの口座に振り込むためにはやっぱり、防犯カメラがついている銀行か、ATMに行かなければならないわけだし」


 「たしかに、不審なお金の振り込みはその通帳には記入されてはいません」


 「そう、リスクがあったから、連中はその選択肢を取らなかった」


 「じゃあ、その通帳からは何もわからないんじゃ………」


 「ううん。円城寺サラが本当にヤクの常習犯だったら、誰かから買ってるはずだよね?」


 「あっ、そうか」


 「そう、お金がないとヤクは買えない。それに、100円かそこいらで買える値段でもないし、依存度が深ければ深いほど、その分、ヤクに使うためのお金の消費も、買う頻度も多くなる」


 「でもサラは…………」


 「そう、必要最小限しか引き出していない。ガス代や家賃。その他諸々の光熱費。あとは、食べていく分だけの食費かな。月々25000円。乾燥大麻は1グラムにつき3000円以上はするし、MDMAは1錠4000円もする。だから、ヤクを楽しみながら食べていくには、2万5000円は少なすぎるよね」


 東条は優しい笑みを浮かべた。そしてこう言った。


 「サラさんは無実だよ。ヤクを恵んでくれそうなVIPとの強いつながりもないしね」


 「…………ええ、知ってます。私、最初から信じてましたから」



 でも、いまさらこの事をテレビや新聞で取り上げてほしいとは思わない。

 そう仕向けた犯人の1人でもある、あの葵は、もうこの世にはいないし、マカベもすでに死んでしまったからだ。



 東条は、近くのコンビニで通帳のコピーを取り、それをポケットの中へとしまって、まといと別れたのだった。

  


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