表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十八章 乱気流への序曲
289/487

覚悟の光


 同日 6月21日 AM10時


 まといと碧はTQSテレビ局に来ていた。

 薔薇の麗人が明日なので、その宣伝のために、ニュース番組にゲスト出演する。お天気コーナーのすぐあとの5分間だけの出番だが、仕事は仕事だ。手を抜くつもりはない。

 この仕事が終わったら別のテレビ局へ行き、バラエティに出なくてはならない。


 このニュース番組には今日、都知事選の有力候補3名も出演する。というより、現在進行形で今、撮影中だ。


 碧とまといは、5階の個室の楽屋にいた。


 「……………………」


 あの引退会見から数時間が経った現在も、YAFOOのトレンドワードランキングに『ホンモノの女優』が2位を飾っている。


 SNS上では、『風椿碧が出ているドラマを見返したけれど、やっぱり彼女はホンモノ』や『その辺の棒読みトップ女優とは次元が違う』といった、称賛するコメントで溢れていた。


 中には、『あの引退会見は薔薇の麗人のためのパフォーマンスだ』といった意見もあったが、ごく少数だった。


 

 本当は、あんな風に会見をしなくても、『諸事情で引退します』の一言で済ませても、誰も責めなかったはず。だってみんな事情をある程度知っているから。


 それでもあんなふうな言葉選びをしたのは、会見を通じ、視聴者に訴えたかったからかもしれない。

 簡単に、死ねだの自業自得だの言えてしまうSNSの今の在り方を少しでも変えたかったとか……。


 

 「まどかちゃんはお昼何食べる?」


 「喫茶店CAMEL、今日からまた営業を始めたんだって。そこに行こうよ」


 「へえ、そうなんだ。私は炭弥さんが入れてくれるミルクティーが1番好きであそこに通ってたんだけど、味、変わってたりしない?」


 「わからない。でも、行ってみようよ。次の撮影時間まで少しあいだが空くし……」


 「んー、六文太さんだっけ?あの人の名前。私、仲良くなれるかな?」


 「フフッ。そうだね。碧さん人見知りが激しいから、1人じゃ無理かもしれないね」


 「あっ、なにその言い方」


 「でも、事実でしょ」


 「じゃあまどかちゃんはどうなの?まどかちゃんこそ人見知りっぽいけど」


 「最初はやっぱり怖いけど、どういう人か判断したあとでなら、仲良くはなれるよ」


 「うっそだー。だってそんなに友達もいないでしょ?私と同じくらい人見知りで、気難しい性格だと思うんだけど」


 「どうかな。碧さんよりはマシだよ」


 「む~、納得いかない」


 「フフフフっ」


 「ハハハっ」



 炭弥の死を経てもこうして笑い合っていられるのは、確かな絆がしっかりと結ばれているからだった。

 お互いがお互いの事をきちんと支え合っているから元気でいられる。


 「じゃあ、まどかちゃん。私行くね」


 「うん、適当にその辺ブラついて待ってるね」


 「なんなら、私のスマホでゲームしてなよ」


 「でも………」


 「ギガ放題プランに入ってるから、どんだけ使っても高額料金になったりはしないよ。安心して♪」

 

 「そうなんだ。いまだにスマホの料金プランはよくわからなくて、よけいなアプリは使ってないけど、じゃあ、あとで遊んでみるね」


 「うん、じゃあね♪」


 そして碧は出て行った。


 「……………さてと」


 

 まといは、部屋の隅に置いていた自分の持ち物のポーチを開けた。

 スマホと一緒に、福富神子からもらったカメラも入っている。


 「……………………」


 そして………。





 爆発のような大きな轟き音が聞こえたのだった。



 


 床が、そして壁が、さらには天井が激しく揺れた。

 一体何事かと思いまといは廊下へと出る。

 逃げ惑う人々。


 炭弥はもう死んだので、東京高匡総合病院のような悲劇は2度と起こらないはずなのに……。


 まといは困惑の表情を浮かべている。

 でもすぐに冷静さを取り戻し、碧を探すべく走ったのだった。


 

 「おおおおいっ、こんなところに爆弾があるぞぉぉぉっ!!!」


 「うわああああああああっ!!」


 

 まといは足を止めた。

 そして爆弾があると言われた方向へと走った。


 すると、小道具をしまっておくための倉庫のような場所に、すでに20秒前を切ってしまっている時限爆弾を見つけたのだった。



 「…………………」


 

 もしもこれが爆発したら、自分のみならず、大勢の人が死ぬかもしれない。

 もしかしなくても、この近辺にいるかもしれない碧にも被害が及ぶかも……。


 「……………」


 もう時間がない。

 助かる方法といえば、自分のチカラを信じ、今幸運にも手に持っているこのポーチからカメラを取り出し、この爆弾の写真を撮る事だ。

 


 そう、救うのだ。


 人の命を奪うためではなく、救うために写真を撮る。


 「………………」


 まといの目に覚悟の光が灯る。

 そしてまといは、フォーカスを時限爆弾へと向け、シャッターボタンを押したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ