幕間3
真っ暗闇の夜の中、蒼野まといはひとり、深くため息をついた。
郷田六郎の口から右田常信という名が出たが、まといは、右田がスケープゴートだと知っていた。
スケープゴートを簡単に説明すると、要するに身代わりである。
たとえば、不正まみれの政治家が、あかるみになる寸前の横領を、お金と引き換えにして、秘書のせいにしてもらう事を指す。
一番タチが悪いのは、まったく事情の知らない他人を悪人に仕立て上げ、マスコミにわざとその情報をリークし、周知の事実にしようとする行為である。
まあ、それに比べたら、右田常信の件は、まだマシな方かもしれないが………。
でも、結局はここでどん詰まりとなってしまった。手がかりがなにもない。
やはり、素人の身でこの件を追うのは、限界があった。
「…………………………」
まといは、もう1度深くため息をついたのだった。
そしてまといは、23時ごろに自宅のマンションへと帰宅した。
まあ、自宅といっても、居候の身ではあるが。
玄関を開けると、電気がついていた。
「あれ?」
まといは不思議そうに首を傾げた。
すると、奥の部屋から1人の女性がまといのもとへとやって来る。
「おかえり、まといちゃん」
風椿碧だった。
「風椿さん。今日は夜遅いんじゃなかったっけ?」
「うん、そうだったんだけどね、共演者のスケジュールが急遽変更になったから、撮影は早めに終わったんだ」
「そう。じゃあ、夜ご飯はもう済ませちゃった?」
「うん。だから気にしないで。あっ、お風呂のお湯はまだ暖かいから、入るなら入っちゃって」
「わかった」
そう、蒼野まといは、この風椿碧と同居している。
家事掃除などをする代わりに、タダ同然で住まわせてもらっているというわけだ。だから、早く帰ると知っていれば、こんな遅くまで出歩かず、夕食の用意をしていたのに………。
「で、まといちゃん。こんな夜遅くまで何してたの?まさか、私が帰らない日とかは、いつも深夜に出歩いているとか?」
「………………別に、たいした用じゃないです」
「そう。それならいいんだけど」
碧は、ニコニコと笑みを浮かべながら、奥のリビングへと戻っていった。