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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十七章 チェックメイト
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頭陀袋の中身


 引き続き5月31日



 頭陀袋の中から生首が出ていたとのことで、家の中に逃げるようにして帰ってきたあの70代の男性は、おなじく70代の妻に事情を話して、また畑のところへと戻ってきた。


 「ほっ、ほらっ、あそこに生首があるじゃろか~」


 「はぁ~ん?なまくび~??でたよでたよ、またじいさんの悪い癖。どうせ悪ガキが捨てていったサッカーボールが生首に見えただけだろ?……ぎょっ、ほんとに生首じゃっ」



 頭陀袋から首だけが出ていた。



 「だれじゃ~い、こんなところに生首捨てていったのは??せめてちゃんと土の中に埋めろよ」


 「おまえよ~、そういう問題かよ~」


 「ちっ、ケーサツに電話するの、めんどうじゃろが………ん?」


 

 妻は、家から持ってきたトングで頭陀袋の端をくいっとつまんだ。すると、首の下がちゃんとついているのがわかった。

 

 

 どっちにしろ、焼け焦げた遺体である。



 「まったく、どっちにしろ作物が腐るわ」



 ピクっ。


 「ん?」


 ピクピク。

 

 すると、急に頭陀袋がうねうねとうごめきだしたではないか。



 「ひっ、ひいっ」



 さすがにそれには、妻も、持っていたトングを落としてしまった。

 そしてその頭陀袋は一直線にゆっくりと立ち上がった。


 

 「ぎゃっ、ぎゃああああああああああっ」



 バサッ。


 頭陀袋が地面へと脱げ、そこから、焼け焦げた死体の全身が現れる。

 ギョロリと見開かれたその瞳は、確実に男性を、そしてその妻を映している。


 

 「ぎゃあああああああっ、ゾンビじゃああああああああ!!!」


 「脳みそ喰いちぎられるぞぉおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」


 「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 そして2人は逃げていったのだった。



 「……………………………………」


 

 その場には、焼け焦げた死体だけが取り残される。



 「…………………………失礼な……」


 

 その死体はゆっくりと1歩、2歩と前を歩いていき、傾斜面をあがって、畑から出た。

 しばらく道路を歩いているとカーブミラーがあったので、それで自分の姿を確認したのだった。


 

 「………………………わーお。ゴミみたいな恰好」



 とにかく汚かった。泥と炭にまみれてしまっているせいか、肌がとにかく茶色かった。ゴミまでついている。



 ふと気になったので、現時点での自分のもちものを確認してみた。



 スマホはあった。幸いにも壊れてはいないようだ。でも、残り充電1パーセント。これでは、満足に電話する事もままならない。地図アプリなんて開こうものなら、すぐにこの1パーセントは0になって、強制シャットダウンしてしまう可能性すらあった。



 財布はなかった。

 このあいだ、洋服と一緒に財布も取られてしまったので、それを教訓にし、財布にはカード類は入れないようにしてはいたので、被害は思いのほか少ない。


 あと家の鍵、警察手帳。ボロボロになってしまった革製のメモ帳も入っていた。

 

 家の鍵まで盗られていたら、鍵を付け替えなければいけなくなるところだったので、一安心ではある。



 問題は、ここがどこなのかという事。



 東京内ならまだ救いがあるが、これが青森とかだったら、相当の距離を歩かないと、家に帰れそうになかった。


 「…………ん?」



 もうひとつ、現在の所持品の中で妙なものを見つけた。

 手のひらに載るサイズの、白くて薄い箱だった。パカッと開けるタイプの箱だ。


 とりあえずパカッと開けて中身を確認してみる。


 「……………………」


 だけどすぐに閉じた。


 「さてと………どうしましょうか……」


 近くに交番か警察署があれば、そこに駆け込んで、家に帰るためのお金を少々借りる事もできる。警察手帳だってあるので、信用はされるはずだ。


 

 でもやめる事にした。少々気になる事ができたからだ。

 あのハッカーも、殺す気であんな事をしたはずなので、加賀城密季は死んだと思い込んでいるのなら、そういうことにしておけば、逆に都合がいいと思ったのである。

 

 

 なので、とりあえず加賀城は歩き始めたのだった。




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