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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十六章 ア×ク×アクイカ
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自業自得の正義


 加賀城は、古座の顔を見て逃げだした女性警官の後を追って、河川敷までやってくる。

 そして、河川敷沿いの坂道に腰を下ろしていた彼女に、加賀城は話しかけた。


 

 「私が加賀城です」


 「えっ……………」


 「私に何を相談したいのですか?」


 「やっぱりいいです」


 「えっ」


 「もう………どうでもいいんですよ………」


 「私は別に、古座さんとは仲良くはありませんよ。その点においては、気になさらないでください」


 「……………でも、古座がいた方角の向こう側には、精神科警課のフロアがありますよね。それってつまり、古座は………」


 「そうです。最近、精神科警課に彼は異動になりました」


 「じゃあやっぱり、あなたに相談しても無駄ですよ」


 「もみ消しだけではなく、その後の人生を、私がうえの連中と結託して粉々にしてくるんじゃないかって心配しているんですよね?」


 「………………」


 「だったら心配ありません。私、どちらかというと、うえのお偉い方の人達に睨まれているタイプの人間で、だからこそお目付け役に古座さんが精神科警課にやって来ただけなんです」


 「………………ほっ、ほんとに?」


 「だから、古座さんがあなたに対して、なにか取り返しがつかない事をしでかしてしまったのなら、目をつむる気は毛頭ないです」


 「……………………」


 「無理に話せとはいいません。信用できない相手に話しても、気持ちは楽になりませんから」


 「乱暴されたんです………」


 「……………………」


 「それも、かなりいかがわしい方の………」


 「……………………」


 「私、捜査1課の3係にいたんです。殺人犯を何度かこの手で捕まえた事もあります。3係の人達も、私を女だからってだけで差別はせず、仲間として認めてくれた」


 「でも、古座さんはそれを許さなかった」


 「ええ、彼は捜査2課の係長でした。いつものように私は、地道な捜査で、連続殺人犯をこの手で捕まえました。でもその犯人は、巨大詐欺組織の幹部で」


 「古座さんがいた2課は、知能犯罪を取り扱ってますからね。詐欺や汚職、横領」


 「結果的に、2課の捜査の妨害をしてしまったんです。もう少しで詐欺組織を潰せるかもしれないそのタイミングで、私はその男を逮捕した。だから、ほかの詐欺組織の幹部連中はみんな逃げてしまって。そして…………そこから地獄がはじまった」


 「なるほど」


 「2課と1課の衝突がはげしくなり、仲間だったはずの3係の人達も私につらくあたるようになって……ある日、更衣室で………大人数に……」


 「…………」


 「そして私は自ら異動届を出し、交通部へ異動したんですけど、同じ警視庁内。どんなに逃げようとしても、たまに廊下ですれ違う事もあって」


 「…………」


 「だから私、ネットの掲示板にアイツらの名前を書いて、フォーカスモンスターにお願いしようかなって思って。でも、一緒に住んでいる同僚に止められて、加賀城さんを紹介されたんです」


 「そうですか……」


 「うえに告発する気はないんです。そんな事したら、大勢に“アレ”が知れ渡ってしまうから」


 「…………………」


 「でも、あの時、動画まで撮られてしまって……。だから、このまま警察を去っても、アイツの手元にはいつまでも私の恥ずかしい映像が残り続ける。そう思ったら、恥ずかしくて、胸が苦しくなって、とてもではないですけど、満足に寝る事ができないんです」


 「…………………警察を辞めるとして、他に仕事先にアテはあるんですか?」


 「ありません。でも、いったん実家に帰りたい。そしてしばらくは、穏やかに暮らしたい」


 「そうですね。警官にこだわらなくても、人の助けになれる仕事は探せば見つかります」


 「でも、警察に残りたかったな」


 「…………………」


 「こんな事くらい(・・・・・・・)でへこたれない心の強さがほしかった。そうすれば、めげずにいられたのに」


 「しかたありません。完璧な人間なんていないんです。だから、強がることばかりせずに、休んだってかまわない」


 「…………加賀城さん」


 「でも、こんなつらい目に遭ってもなお、警察に残り続けたいという気持ちがまだあるのなら、もう少し待ってはもらえませんか?」


 「えっ?」


 「動画は私の方で処分します」


 「そんな事、できるんですか?」


 「できます」

 

 「…………」


 「信じてください」


 「わかりました」


 

 加賀城は彼女にスマホの連絡先を教えてもらってから、精神科警課へと戻ったのだった。

 そして古座を奥の部屋へと連れて行って、鍵をかけた。



 

 「動画を私に渡してください」


 「はぁ??何のことですか??」



 古座は加賀城に対し、相変わらずの態度だった。

 加賀城は構わず、古座に対しこう言った。


 

 「全部あの人から聞きましたよ」


 「…………………」


 「動画を私に渡してください」


 「で、上に“俺達”の事を報告するってか?」


 「…………………しません」


 「くくく、そうだよなぁ、できないよなぁ。今は、俺はあんたの部下。俺がしたことが(おおやけ)になったら、アンタの責任問題にもなる」


 「そんな事はどうだっていい」


 「はいぃぃ?」


 「責任を取りたくないから報告しないんじゃない。性的に弄ばれた女性の心の心痛(しんつう)を、あなたは考えた事ありますか??」


 「はあ?俺達はただ、ブス(・・)をもてなしてやっただけだぞ。永遠に貰い手がなさそうなブスをなっ。むしろ礼を言われる立場だぞ」


 「あの人は、睡眠障害まで患ってしまった」


 「だから??そんなの、健康的な生活を送ろうとしなかったあちら側の責任では??」


 「あそこまで追いやったのは、あなた達が精神的ストレスを与えてしまったからです」


 「ククククク。ハハハハハハ。くだらな、くだらねぇ。精神的ストレスを口にするような連中は、みんなただ甘えてるだけなんだよ。ハッ、なにが精神科警課だ。くだらなっ」


 「そういう考え方しかできませんか」


 加賀城は目を大きく見開いた。

 

 その目は、フランス人形に埋め込まれた眼球のような違和感があり、古座は少しだけ加賀城の事を不気味に思ったのだった。

 


 「そっ、そもそも、悪いのはあの女の方だ。6カ月以上も地道にこっちは捜査を続けてようやく、幹部連中の名前まであきらかにしたというのに」


 「だからこそ、彼女が苦しむのは当然だと?」


 「そうだね。自業自得だ。あの女は、俺達から貴重な時間まで奪ったんだ。詐欺被害のせいで自殺までした人も大勢いる。その人達に比べたら、マシなものだろ。命までは取らないでおいたんだから」


 「…………………」


 「おっ、俺、いま、すごい正論言わなかった?そうだよ。正論なんだよ。あの女のせいで、よけいな被害者が出た。もしかしたら、その被害者は、今後、生活苦で死を選ぶかもしれない。だったらさあ、性的に弄ばれちゃったくらいで、ガタガタ言うべきじゃな」






 「アナタ……醜いですね」





 「は?」


 「醜すぎる」


 「なにが?お前のツラが?」


 「彼女もまた、間違ったことはひとつもしてはいないんですよ」

 

 「は?」


 「放っておけば、また別の誰かが殺されていたかもしれない。だから彼女は犯人を捕まえた」


 「は?だけどこっちはなぁ」


 「あなたのは、ただの腹いせでしかない。幹部の名前があきらかになっていたのなら、あとはどうとでも捕まえられたはずですよね。それこそ、捜査員を増員して、顔写真を頼りに網を張っていけばよかっただけの事」


 「増員なんて簡単に言うけどな、指揮するこっちの身にも」


 「“指揮する”といった面倒くさい展開になってしまったから、彼女に怒りをぶつけただけですよね?」


 「だっ……だが、もっと早い時点であの詐欺グループを捕まえられていれば」


 「とにかく、動画を私に渡してください」

 

 「ふっ、ふざけるな。こうなったら、とことんアンタの事を利用させてもらう」


 「…………というと?」


 「城士松の居場所を吐け。そして、ヤツラ(・・・)が何を企んでいるのか俺に(おし)……」


 「くだらない。そんな事よりも、動画を渡してください」


 「そっ、それがモノを頼む態度か?」


 「動 画 を 渡 し て く だ さ い」


 「城士松の居場所を()いてくれたら、少しくらいは考えてやってもいい」


 「動 画」


 「もっと立場を(わきま)えr」


 「動 画」


 「うっ」


 「動 画」


 「あっ」


 「動 画」


 「いや、あの……」


 「動 画」


 


 加賀城の手がゆっくりと古座へと伸び、動画を渡す事をひたすら要求してくる。



 蛍光灯が突然膨張して破裂し、破片が降り注いで加賀城の頬に一筋、線を刻んだが、それでも加賀城は古座に対し、動画を渡す事を要求してくる。



 「動 画」


 

 「ひっ、ひいいぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」




 血がポタリと床に落ちても眉1つ動かさない加賀城に対し戦慄を覚えた古座は、床に崩れ落ちたのだった。

 魂の抜け殻と化す古座。


 

 

 そして加賀城は古座のスマホを片手に持ち、部屋を出て行ってしまった。







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