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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十六章 ア×ク×アクイカ
241/487

転2



 引き続き5月28日




 AM4時のニュースを皮切りに、1時間経つごとに、戸土間で起きた件について、次々と新情報がテレビのニュースで速報として伝えられた。


 最初こそは、AM3時からのTOUTUBEのみのネット会見だったが、ネットだからこそAMの3時だろうが見ている人は多く、SNSで瞬く間に広がり、どんなに警察側が情報規制をかけても抑える事は不可能となってしまった。


 

 だって、政治家がゼネコンと手を組んで土壌汚染の可能性を隠ぺいしていたとネットで語られてしまったわけである。


 それに花房聖は、きちんと土壌汚染の証拠を事前に集めていて、それを会見時にカメラの前でしっかりと掲げて、土壌汚染は確実にあったと、視聴者に知らしめてしまった。


 そして、その土壌汚染がどこまで広がっているのかという調査のために、“責任をもって”土の中を掘り返すと宣言したのだから、これは前代未聞の大事(おおごと)だった。



 だけど、それだけではなかった。



 お昼の12時に、右田常信厚生労働副大臣がマスコミの前に姿を現し、花房聖を支持したのだから、与野党のみならず、政財界には今激震が奔っていた。


 右田常信はカメラの前でこう語った。



 『私も、厚生労働省に属する人間として、これは見過ごせませんね。これが本当なら、土だけの問題では収まらないんです。雨がふり、その土が削れて川に流れたら、川だって汚れてしまうんです。まあ、汚染の程度にもよるでしょうけど、国民の安全を脅かすようなもみ消しは、絶対にあってはならない』



 

 その様子をノートパソコンにイヤホンを挿して観ていた古座は、さらに、加賀城に対しての監視の目を強めたのだった。




 一方、財務大臣の席に座っていた徳川喜一郎は、目の前に立っている眼田に強い睨みを利かせた。


 

 眼田はガタガタと小刻みに震えた。



 

 「眼田………どうしてこうなったと思う?」


 「いや、あの、その………」


 「優秀なハッカーがいると言っていたはずだが?」


 「そっ、そうです。スマホの位置情報すら乗っ取る事ができるハッカーです。盗聴はお手の物」


 「それなのに………どうしてこうなった?」


 「くっ………うっ…………」


 「私はいったい、今度は誰を“身代わり”にすればいい?」


 「うっ…………」


 「こんな事にならなければ、まだマカベのしわざにできたんだよ。赤佐内建設とグルになって手抜き工事をしたせいで、戸土間はあんな風になったって……。でも、あそこを掘り返されたらすべてがひっくり返されてしまう」


 「………………」


 「当時のマカベは、ペーペーにようやく足が生えた程度の下っ端だった。工場の件がおおやけになれば、マカベ1人だけでは無理と気づくヤツだって必ず出る」


 「そっ、その通りです………」


 「で、眼田よ。私は誰の仕業にすればいい?」


 「右田か………あるいは………」


 「なら、さっさと行動に移せ」


 「はっ、はいっ」


 

 眼田は部屋から出て行った。





 一方加賀城は、いつのまにか精神科警課のフロアから姿を消していた。

 もうお昼の時間なので、女子達と一緒に、海鮮丼のお店へと訪れ、ネギトロ丼に舌鼓(したづつみ)を打っていた。


 四角いテーブルを4人で座ってのお昼である。

 女子達はこんな話で盛り上がっていた。



 「ほんと、あの古座ってやつ、ムカつく。年中イヤミ言ってないと気が済まないのかな」


 「ほんと、それね」

 

 「てか、逆に哀れだよね。イヤミを言う事にしか楽しみを見い出せない人って」


 「ネギトロ丼がおいしいです♪」


 「ちょっと加賀城さんっ。加賀城さんも私達の話題に入ってっ」


 「えっ、古座さんの話題ですか……」


 「そうそう。悪口言い合おうよっ」


 「そんな事より、ネギトロ丼の方が大事です。おいしいモノを純粋な気持ちで私は楽しみたいです」


 「加賀城課長ってさ……前々から思ってたけど、わりと呑気っていうか、どす黒さがないっていうか」


 「そんな事はありません。私は、怒る時はちゃんと怒りますよ」


 「そうかなー。沸点が見当たらないよね」


 「ねー」


 「………そうですか。私には沸点がないと」


 「まあ、それが課長のいいところでもあるけどね」


 「そうだね。あのサトイモ頭の古座さえいなければ、結構精神科警課も居心地がいいんだけどなぁ」


 「ねえ、課長。古座を追い出すいい方法、ないの?たとえば、弱みとか?」


 「弱みね………」



 加賀城は深いため息をついた。

 職場のみんなに悪影響だからといって、わざわざ弱みを探して、それをチラつかせて追い出そうとする行為。好きじゃない。

 

 古座が、態度を改めてくれる可能性があるのならなおさら、悪者と決めつけたりはせず、話し合って解決したい。


 まずは、もう少し古座と一緒に精神科警課の仲間として過ごして、それからでも、話し合うのは遅くないはずだ。


 たとえ古座のバックに誰がいようとも……。








 

 お昼を食べ終わって精神科警課へと戻ると、相変わらず古座が睨みを利かせてきたが、加賀城は気にせず作業を続けた。


 

 でも、しばらくして急にトイレに行きたくなったので、立ちあがり、女性用トイレへと行こうとしたが、古座が後をつけてきたので、別の女性用トイレへ行くために、曲がり角を曲がったのだった。





 そして、20代くらいの女性とぶつかってしまった。




 加賀城はすぐにごめんなさいと謝った。


 「いっ、いいえ、私こそ」


 警察の制服を着ていたので、彼女は別の課の女性警察官のようだ。


 そんな彼女は、顔色が土気色で、目が真っ赤だった。

 睡眠が足りていないのか、瞼が半開きだった。目の焦点も不安定だ。

 

 だから加賀城は彼女にこう言った。



 「あの、病院で1度診てもらった方が………」


 「いいえ、大丈夫です。それよりも私、精神科警課に」


 「何か御用ですか?」


 「同僚のすすめで、まずは加賀城さんに会った方がいっ…………あっ、やっぱりいいです」




 彼女は、加賀城の後方に立っていた古座の姿を見るなり、逃げるようにしてどこかへと行ってしまった。


 加賀城が後ろを向くと、古座が不気味に笑みを浮かべたのだった。



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