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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十四章 サラを殺したヒト
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吹き荒れる風


 5月25日 AM10:00


 

 ベッドのうえで目を覚ましてそれなりに体力が戻ってきた加賀城は、念のために電話でアポを取ってから、直江寺へと向かった。

 


 直江寺の敷地内へと1歩足を踏み入れた途端に、遠くの物陰の方で若い僧がこちらの方を見てきたが、すぐにどこかへといなくなってしまった。


 

 それにしても直江寺。

 きれいなところだ。

 空気も澄んでいて……。



 でも苦手だ。

 きれいすぎて、何もかもが、かき消されてしまうのである。

 

 「…………………」

 


 加賀城は、さっそく、指定の場所へと向かった。

 本堂とは離れた所にある、お屋敷の前だった。


 

 そこにはすでに宗政がいた。



 「おはようございます。私が加賀城密季です」


 「はじめまして」


 「…………あなた、いい声ですね」


 「えっ?そうですか?」



 宗政は軽く笑った。

 加賀城はそんな宗政に、こんな事を言った。 


 「どんなに言葉で取り繕っていても、声のトーンにはそれなりの感情が載ってしまうものです。こいつと話すのメンドクセーなと思っていれば、ため息交じりの伸ばし気味のイントネーションになったり」


 「人の良さそうな声でしゃべる詐欺師もいると思いますが」


 「そういう人は、滑らかに舌が動いていない場合が多いのでわかります。人をダマしているという緊張感による硬直が、若干、舌に影響しているわけです。だから、息だけで言葉を発しているような、そんな違和感を覚える」


 「そうですか」


 「でも、あなたにはそれがない。品のいいトーンだし、聞いててなかなか好印象かと」


 「で、そんな私に何の用でしょうか?」


 「一緒に行ってほしい場所があるんです。少々お時間を取らせてしまうかもしれませんが、大切な事なんです」


 「というと?」


 「死人がもっと出る」


 「………………物騒な話ではありますが、だからなんで私なんでしょうか?」


 「あなたにチカラがあるのは確かです。たとえ、弔う気持ちがあなたの中になかったとしても」


 「そうですか…………………わかりました」


 「では、さっそく参りましょうか」



 宗政は、加賀城の後を追って、ある場所へと向かったのだった。








 そのある場所とは、あの大型撮影スタジオ付近の、例の男が死んだ場所だった。

 フォーカスモンスターのカメラを持っていたはずの、あの男が死んだ場所である。



 加賀城は宗政にこう言った。


 「もう20日以上は経過していますが、あなたには感じ取ってもらいたいんですよ。彼が死んだ直後、誰がこの場所へとやってきたのか」


 「……………………」


 「彼は、フォーカスモンスターのカメラを持っていたはずなんです。ですが、遺留品の記録にはカメラの事なんて書いてなかった。となると、誰かが持ち去ったという事になる」


 「……………………」


 「津島葉菜加のマネージャーの件、御存じですか?」


 「ええ。彼の事を誹謗中傷していた主婦数名が、フォーカスモンスターに殺されてしまったようで」


 「でも、彼女達を殺すためには、住所を知っていなければ無理です。でないと、待ち伏せして殺す事もできない。だから、鬼女の線も考えたんですよ。彼女達、そういった個人情報の特定に長けているそうなので」


 「…………………でも加賀城さん。住所の手掛かりになるような背景の載った写真がアップされていない限りは、必ずしも特定できるというわけではないですよ」


 「そうです。だから私は調べました。住所の手掛かりになるような写真が、この主婦達のブログのどこかにあったりはしなかったかって」


 「で、それらしいものはなかったと………」


 「そういう事です」


 「…………………」


 「だからあなたには、ここで死んだ彼の残留思念から、何か辿ってほしいんです。できたらでいいんです」

 

 「…………………………」


 「私の読みが正しければ、つながるはずなんですよね。この人物は、鹿津絵里をも利用している」


 「…………………わかりませんね」


 「…………………」


 「残留思念は残ってはいますけど、あまりにもかすかで感じ取れません。残念ですが……」


 「そうですか……。まあ、20日以上経ってしまいましたし、しかたがないですね」


 「一歩前進すら叶わずといったところでしょうか?」


 「いいえ、そんな事はありません」


 「えっ」


 「鬼女でないのが分かった時点で、色々見えてきた部分はありますので」


 「……………………」


 「ただ、時間がないのは事実です」


 「……………………」

 

 「少しその辺を歩きましょうか」


 「ええ、いいですね」



 2人は、目的もなく歩き始めた。



 「直江さん。もうすでに、いやな風が吹き荒れていると、感じませんか?」


 「………………そうですね」


 「あの主婦達の件を機に、アイツ死ねばいいのにといった感情に、どす黒さが増すようになってしまった。まあそれでも、心の中で思うだけならまだいいのですが、ヒートアップしやすい人間は決して少なくはない。そんな中で、ちょっとした出来心で、嫌いな相手の名前をSNS上にほのめかすようにして書こうものなら、より風は大きく吹き荒れる」


 「鬼女は増殖するでしょうね。女に限らず、男の方の鬼もね………」


 「そして、こういったダークヒーローにありがちなのが………」








 


 「ぎゃああああああぁぁあああああああああっ!!!」








 遠くの歩道橋の階段のうえから、誰かが、ゴロゴロとかなりのスピードで転がり落ちていくのが見えた。

 男か女かはわからない。どちらともとれる中性的な体つきだったからである。


 そして、その歩道橋のうえでは、パシャパシャとシャッターを切る何者かがいたが、すぐに反対側の階段から降り、逃げてしまったのだった。



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