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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十四章 サラを殺したヒト
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瞳の中に眠る化け物


 まとい達が睦城邸に着いた頃には、4階の高さまで激しい炎が蠢いていて、近くの林にまで火の粉が飛び移り、燃え続けていた。


 ミシミシと、林が軋む音まで聞こえる。


 危ないので、まといは車を、建物から少し離れた場所に停めざるを得なかった。


 「碧さんっ!!」


 碧はすぐに車から降り、建物の正面から中へと入ろうとしたが、まといは彼女の肩を強く掴んで、それを制した。


 「碧さんっ、もう無理ですっ!!!」


 「だめっ、そんなのっ、そんなの認めないっ!!!」


 

 碧は裏手へと走り、どこかに入れそうな場所がないか探したが、厨房のある場所が突如、大爆発し、爆風とともに、オレンジ色の炎が壁となって、碧の行く手を遮った。


 その際、碧は炎の風に体ごと飲まれそうになったが、寸前でまといが彼女の手首を掴んで引っ張り、炎から彼女を守ったのだった。




 だけど碧は、足に、特に右足首に深い火傷を負ってしまった。


 

 「碧さんっ、安全な場所に行きましょうっ。つらいのはわかるけれど」


 

 こうなってしまった以上はもう無理だった。

 こんな状態の足でこの建物の中に入ったら、彼女まで死んでしまう。



 「葵………どうしてっ、どうしてこんな事に………」


 「碧さん………」



 まといは碧に肩を貸し、立ち上がらせ、車が停めてある表の方へとゆっくりながらも戻って来る。

  

 もうすでに、近所の誰かが消防本部に連絡している可能性もあったが、念のために119へとまといは連絡した。


 でも、いつまでもここにいるつもりはなかった。碧を早く病院に連れていかないと。火傷は早い処置が大切だ。


 

 「碧さん………」


 「………………」


 

 碧は、車へは乗らず、地べたへと両膝ついて座り、ずっと虚ろな目で燃え盛る建物を、見つめていた。

 肩を叩いても、反応しなかった。


 「………………」


 これが、“28人”の命と引き換えに妹をかばい続けた姉に与えられた罰。

 罪から目を背け、素知らぬ顔を続けても、結局、罪はどこまでも追って来て、妹を救う事はかなわなかった。


 


 彼女にはもう、復讐する必要なんてない。

 

 

 心をえぐるほど深く突き刺さったこの妹の悲劇の死は、死ぬまでずっと、彼女を苦しめ続けるだろう。

 


 

 まさかこの日をもって、復讐のすべてが終わるとは思ってはいなかったが。



 「………………葵………」


 ズキン。


 妹の名を呼ぶ碧の、か細い声に、まといの胸はギュウッと締め付けられたのだった。




 挿絵(By みてみん)

 




 そして…………。


 例のフォーカスモンスターは、まだこの敷地内にいた。


 林の陰にひっそりと息をひそめ、カメラのフォーカスをゆっくりと風椿碧へとズームアップしていく。


 「……………」

 

 彼女に近い距離に蒼野まといが立っていたが、このままなら、よけいな人間をフォーカス内に入れずに済みそうである。


 一石二鳥だと思った。


 あとはシャッターボタンを押すだけである。


 「えっ…………」


 突然、カメラがカタカタと震えだし、自動的にズームが元の倍率に戻ってしまい、まといの姿がまたフォーカス内に入り込んでしまった。

 

 「………………」


 




 まといは、こっちの方角へと首を傾けていた。




 彼女の髪が、ふわりふわりとなびいている。

 瞳は大きく開いており、感情のこもらない目で、ただただフォーカス越しに、こちらをジッと見ているではないか。


 うまく隠れたはずなのに、まさか見つかるとは………。



 それに、たかが小娘のはずなのに、なんであんな残酷な目ができるのか。



 心を抉る目だった。


 あの目ひとつだけで、心を粉々にできてしまいそうな、得体のしれない何かを感じた。


 そしてまといは、腰のウエストポーチからゆっくりとシルバーのカメラを取り出し、シャッターを切ろうとした。


 「くっ」


 本当なら、撮られる前に撮ってしまいたかったが、カメラが思うように動かない以上、逃げるしかほかになかったのだった。





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