3番目は誰?
ひさしぶりに自分の家に帰宅した加賀城は、眠気を必死に抑えながらテレビをつけ、dボタンを押して、現在の日付を確認した。
「5月24日…………」
鹿津絵里と対決した日が5月5日なので、19日も経過していたという事になる。
なんという事だろうか。
コーヒーが飲みたくなってきた。でないと、とてもではないが、この状況を整理できそうにない。
「………………………」
重たい体にムチ打ちながらポットの中を開けると、ムワンとした湯気が立ち上って来て、加賀城の瞼を一瞬にして湿らせたのだった。
でも、1か月以上も中に入れっぱなしのこのお湯でコーヒーを入れるのは抵抗があったので、いったん全部出して、新しくお湯を沸かした。
そしてインスタントコーヒーを淹れ、ソファに深く腰を下ろした。
リモコンでチャンネルをいくつかまわし、いま、どんなニュースがやっているのかを確認する。
すると、とあるワイドショーで、フォーカスモンスター特集がやっているのを見つけた。
なんでも、フォーカスモンスター自身がネット上で殺人予告を書き込んだらしく、実名を書かれてしまったターゲットが次々と本当に“不慮の事故”に遭って死んだそうだ。
そのせいで、今、ネットはもちろんの事、こうしてテレビでも取り上げられるレベルの騒ぎになってしまったというわけだ。
「……………………」
どうやら、19日間も悠長に寝ている暇はやはり、なかったようだ。
こんな形で、第3のフォーカスモンスターが動き出してしまうとは………。
この犯人が、1番目のフォーカスモンスターでないのだけはたしかだろう。
現時点でのプロファイリングから考えても、この1番目は、殺しに関してはそれほど積極的ではないからだ。
それに、ネットに実名を書き込みした時点で、この犯人は、事前にターゲットの名前、あと、ある程度の行動範囲、もしかしたら住所すら把握していた可能性がある。
殺しに積極的ではない人間が、ここまで下調べするとは考えづらい。
1番目は1番目で、3番目とはまた違った意味ではあるが、やっかいではある。
この1番目のフォーカスモンスターに関しては、正体を知ってしまった者、あるいはその正体へと結びつきそうな鍵を握ってしまった者の記憶から、すっぽりとその人物の情報だけが抜け落ちてしまうといった例の現象が起こってしまうからだ。
となるとこの3番目は、いったいどうやってターゲット達の情報を得る事が出来たのか。
たまたまこのターゲットの人達が、意図せず3番目の近くで、マネージャーに対しての殺人説について盛り上がっていたりすれば、後をつけたりする事も可能ではあるが、そんな偶然、めったに起こったりはしないはず。
写真の背景から住所を特定する事ができる鬼女といった女性達が、SNSでは何気に暗躍もしているらしいが、仮にその鬼女がこの主婦達を殺した犯人だとして、あの日、あの大型撮影スタジオ周辺に、この鬼女もいたからこそ、カメラを持ち去る事ができたと考えるべきか。
いや、だとすると、事前に、あのカメラが、フォーカスモンスターのモノだとわかっていなければ、持ち去ろうとは思わないだろう。
だって、遺体の近くに転がっていたカメラだ。触りたいと思うだろうか。血なんてついていたりしたらなおさら、気味が悪くてしかたがないはず。
それにいまはスマホの時代だ。スマホ1つで、それなりの解像度の高い写真は撮れる。
カメラなんてかさばるだけ。
あといくつか、鬼女が犯人とした場合に、気になる事がある。
写真から住所を特定するにしても、限界があるという事。
また、このターゲットだった主婦達も、マネージャーに対しての誹謗中傷をするような人達である。アンチ対策のために、なるべくブログ上に載せる写真は、自宅の住所がばれないように、気をつけていたのではないかといった点だ。
それを調べるためには、この主婦達のブログをすべて確認しなければならないが。
「……………………」
加賀城は、サイドテーブルに置かれた固定電話でサイバー犯罪対策課へとかけ、ターゲットの実名付きの殺害予告を、誰がどこで書き込んだのかを調べるように頼んだが、『海外のサーバーを経由していたようで特定できませんでした』と言われてしまった。
「………………海外のサーバーね……」
鬼女レベルになれば、海外のサーバーを経由するなんてお手の物なのか……。
でも………鬼女ではないような気がしてならない。
ひっかかるのだ。なんで風椿碧を狙ったのか………。
すると、テレビのワイドショーで、またフォーカスモンスターと名乗る人達がネット上に増え始めているといった情報まで流れてくる。
以前、フォーカスモンスターの代弁者を名乗る6人組が出てから、ようやくそれなりに落ち着いてきたというのに………。
このままだとまずい。
とんでもない事になる。




