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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十四章 サラを殺したヒト
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とある彼女の災難


 5月24日 PM13時34分。



 クローゼット付きの真っ白い個室の中で1人、彼女はようやくにして目を覚ましたのだった。


 「…………………………」


 やたらと消毒の匂いが鼻についたので、ここが自分の家じゃないのだけは、すぐにわかった。


 上半身を起こし、サイドテーブルのうえに置かれた花束を手に取る。


 「この花は……カーネーション。あとこれはバーベナ。ビオラまである。どれも食べられる花ですね」


 だからといって、これらをそのまま食べるのは勇気がいる。

 こういったお花はたいてい、ケーキの上に花びらを散らしたり、サラダにかけたりしないと、とてもではないが、食欲は湧かない。


 まあ別に、食べずに普通に飾ってもいいのだが……。

 胸焼けがするし、胃が鉛のように重たく感じる。まだ体もダルいし……。


 「………………」


 そういえば、だんだん思い出してきた。

 自分の名前はたしか、加賀城密季。

 窓の外に映る景色から見て、ここは東京高匡総合病院。

 

 「………そう。私は毒を呑んだはずですが………」


 品川かなめを助けるために毒を呑んだのだ。遅効性ではあったが、確実に死に至るものだった。解毒剤がなければ………。


 なら、解毒剤を投与され助かったと考えた方が普通だが、だけど、警察がいつあの場所に駆けつけたかによっては、話が違ってくる。

 

 鹿津絵里を制圧した時にはもう、感覚的にほとんど毒がまわっていた気がするので、気を失ってから直後に、解毒剤を持った誰かが駆けつけたとかではない限りは、どう考えても間に合わない。


 あの場には品川かなめもいて、加賀城が何の毒を呑んだのか知ってはいたので、警察に駆け込んだ際に、解毒剤を用意するように頼む事はできただろうが、それだって、秒で用意する事はできないはずだ。


 

 鹿津絵里には最初から、加賀城に解毒剤を渡す気はなかった。



 「…………こうなる事が最初から分かっていた別の人間が、あの場所にすでにいた?」



 実は鹿津絵里は解毒剤を持っていて、気を失っている彼女の懐からそれを入手して、呑ませるか打つかすれば、間に合うは間に合う。


 「………………………」


 わからない………。彼女の体を確認する前に力尽きてしまったから。


 とにかく、この病院から出ない事には何も始まらない。

 解毒剤の件もそうだが、まだまだ明らかになっていない謎がたくさんあった。

 だから加賀城は着替えようとした………。

 しかし………。


 「そういえば私の着替えは………?」


 パッと見渡す限りでは、それらしきものはどこにも置いてはいなかった。

 クローゼットの中を見ても、ポールには何もかけられてはいなかった。


 「………………………」


 加賀城は少しだけセンシビリティ・アタッカーの力をオンにしてみる。

 すると、邪な感情のモヤが、消えかかってはいるものの、このクローゼットにうっすらと残っているのが見えた。


 「ああ、なるほど………」


 












 誰だドロボウしたやつ。












 まあ取られてしまったものはしかたがない。

 まだこの病院内に犯人がいるならば、センシビリティ・アタッカーのチカラを使って自分の意識を病院全体へとレーダーのように拡げれば、特定は可能だが、そこまでして探すべきかどうかを考えると、疲れるのであまり使いたくないのが本音だ。


 それに、微妙に寿命も縮まってしまうので。


 気になるのは、スマホと財布も洋服の中に入っていた場合、クレジットの利用停止の手続きまでしないといけないので面倒だという事。

 スマホは、2重パスワードに指紋認証でロックがかかっているはずなので、よっぽどの玄人でない限りは、中のデータを見る事はできないはず。



 なので加賀城は花束だけ持って、そのまま病院の外へと出たのだった。

 



 人とすれ違うたびに変な目で見られたが、恥ずかしくはなかった。


 でも、体が重い。

 スマホがないので、今日が何日かわからない。

 まだ5月6日とかだったら体が重いのは納得ができるが、10日とか余裕で経過していた場合、思った以上に重態だったという事にもなる。


 あの病室、テレビが何気にあったので、つけて確認すればよかった。

 

 「……………………」


 こんな事にも頭がまわらなくなっているとは………。


 

 どうしようか。

 あの独身寮に戻るべきか。それとも、前から住んでいたあのマンションに戻るべきか。


 財布を持っていないので、タクシーに乗れないのが辛かった。


 どちらにせよ、徒歩だと、着くまで余裕で50分強はかかりそうだった。


 「やれやれ…………」



 すると、メガネにリュックサック姿の、オタク風の男性が近づいてきた。



 「みつきゅんっ♪」


 「…………………」


 加賀城は歩き続ける。

 この男性を避けたいからとかではなく、さっきから面白がってスマホを向けてくる若者が増えはじめてきたからである。



 「私をみつきゅんと呼ぶという事は………あなた、私のマンション前で出待ちしてた人ですか」



 男性は加賀城の右に並列して、同じ速さでついてきた。



 「そうっす。覚えててくれたんですか」


 「いや、あの、個人個人の顔は覚えてないです。もうしわけないですが……」


 「いえいえ、お気になさらずに♪みつきゅんが患者っぽい服着ながら歩いている姿がネットにあがってたんで、今日は会いに来てしまいました」


 「そうですか………」


 

 まあ、端から見たら変な女に見えるかもしれないが、だからといって、なぜ平然とスマホで撮り、それをネットにあげるのか。

 逆の立場だったら、そういった人達はどう感じるのか。知らない人が勝手に自分の写真を撮り、ネットにあげても、憤慨しないのか。



 


 「みつきゅんさん。あの、俺達もう出待ち、止めました」


 「えっ………」

 

 「メガネの、やたらと眼光の鋭い人に怒られたんです。出入り口前でずっと立たれたら、子供が怖がるし、マンションに住む人達の怒りがあなたに向いて、あなたの立場が悪くなってしまうと」


 「…………………」


 「俺達、みんなであなたの事を応援すればあなたが喜ぶと思って、ああいった形で大勢で出待ちを続けたけれど、それは勘違いでした。ごめんなさい。もっと早くに気づくべきでした」


 「……………べつに、わかってくれれば、私はそれ以上は怒りません」


 「そうですか、ありがとうございます。それにしても顔色悪いですね。大丈夫ですか?救急車呼びますけど」


 「いいえ。病院へは戻りたくないですね。そだ。タクシー代を貸してくれませんか。あのマンションに帰りたいんですよ。お金は必ず返します」


 「ええ、わかりました」


 「ありがとうございます」



 加賀城は、男性の名前と連絡先を聞いてから5千円ほど借り、マンションへと帰ったのだった。




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