表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二章 御影テンマと稲辺頼宏
20/487

稲辺頼宏の事情4


 

 ここは赤橋署である。


 加賀城の所属する精神科警課のフロアも、この建物の中に存在する。

 陸の孤島扱いされているので、進んでこの課に異動届を出すものはゼロに近い。

 なので、所属人数はわずか4名しかいなかった。



 「課長。加賀城密季課長」



 暴力犯係のフロアを歩いていた加賀城密季を呼び止める人がいた。

 その人物とは、加賀城密季のお目付け役でもある城士松和麿(じょうしまつかずまろ)である。


 

 いったん2人は廊下へと移動した。



 

 「課長……。今回もまた精神科警課の職務から逸脱しようとしてませんか?」




 城士松は、目をきらりと光らせながら加賀城に尋ねた。

 加賀城は、そんな城士松に対し、こう答えた。


 

 「逸脱はギリギリしてません。だからこうして、暴力犯係の人達に情報を流しにきたわけで………」



 「これはお世辞ではないですが、あなたは1人で20人分くらい働ける人間ではあります。しかし、キリがないとは思いませんか?」



 「………………あなたが何を言いたいのか、理解してるつもりです」



 「でも、やめるつもりもないんでしょう?」



 「……………………………」


 

 「あなたの特殊能力(・・・・)はひどく限定的なものです。それに、体力の消耗もしやすい。だから、つねに遠くから見守る事はできない。それに、1人に対して時間を割きすぎてしまうと、また別の場所で、誰かが手遅れなんて事になる」



 「…………深入りする回数を減らせば、その分、他の人に時間を割く事ができる。わかってます。でも……でもそれだと、見殺しにするかどうかの決断にも迫られる」



 「あなたがどんなに頑張っても、すべての人は救えないですよ」


 

 「………………それでも、私が守りたいのは命じゃない。人の心ですから」



 

 加賀城は城士松の横を通り過ぎ、赤橋署の外へと出た。


 すると、目の前に停まっていたパトカーから、無線の内容が聞こえてきた。






 『花屋ペイズリーにて、大型トラックが突っ込む事故が発生!!繰り返しますっ!!! 花屋ペイズリーにてっ………』






 

 加賀城はすぐに花屋ペイズリーへと向かった。

 空はすっかり黒一色になってしまっていて、パトカーの赤色灯が、現場をよりいっそう凄惨に照らしていた。


 

 事件の内容はこうである。

 大型トラックが無理な角度から花屋へと衝突した事が原因で、建物自体が抉れた状態になり、雪崩のように粉々に崩れてしまっている。



 でも、問題はそこじゃない。

 生き残っている()がいるかどうかだった。



 「………………………」



 加賀城の姿を見つけた暴力犯係の男性刑事が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいてきて、『おやおや、警視の身分である御方が、なぜこのような場所に?』と皮肉を言ったが、彼はすぐに後悔した。




 恐怖、といった方が正解だろうか。

 今の加賀城には、人の心臓をたやすく抉ってしまいそうな凄みがあった。

 

 大気が揺らいでいる。


 早く、早くこの加賀城(ばけもの)から距離を取った方がいい。

 でないと心が壊されてしまう。



 

 「おーいっ、生きてるぞーっ!!!」


 

 瓦礫を掻き分けると、空洞になっていた部分から、御影テンマが発見される。



 

 加賀城の姿はもうどこにもなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ