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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第一章 はじまり
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はじまり

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)










 本当ならそのまま夜が更けるはずだった。


 しかし、木の床の隙間から漏れた熱気が頬をかすり、その異常さに、蒼野(あおの)まといは目を覚ましたのだった。



 蒼野まとい。ゆるふわロングヘアが似合う18歳である。



 まといは上半身を起こし、あたりを見渡した。


 今、まといがいるこの場所は、電気すらついてない屋根裏の物置の中だ。

 唯一の明かりといえば、小さな突き出し窓から差し込んでいる月明かりくらいだろう。



 もう2月の上旬だ。風邪を引いてしまうくらいに夜は寒い。



 でも、ここは蒼野まといの自宅の屋根裏ではない。

 昔お世話になっていた児童養護施設の建物の中だ。

 この施設は、洋館を思わせるほどの大きさで、3階建ての建物でもある。まあ、この屋根裏のスペースを入れるなら、4階建てといえるかもしれないが……。


 なぜまといがこんなところにいるかというと、親友の遺品の整理をしていて、疲れて眠ってしまったからだった。

 

 そう、親友は最近死んでしまった。

 この親友もここの児童養護施設育ちだったので、遺影用の写真は、蒼野まといが以前に撮影していたものを使った。

 でも葬式の際、まといのカメラが、親友の遺品の入った段ボールの中へと紛れてしまった。だからこうして探していたわけである。



 カメラは数時間前に見つかった。


 

 見つかって安心したせいか、こうして眠ってしまったわけだが………。



 それにしても………なんだか床が熱い。

 このままの体勢だと太ももが焦げてしまいそうだったので、まといは立ち上がり、カメラを持って、屋根裏を出ることにした。

 続けてすぐそばの階段を下り、3階の廊下へと移動する。



 

 

 そして…………………。




 オレンジ色の惨劇が、まといの瞳を一色に変えた。



 竜のような形をしたいくつもの炎が、暴れるようにして屋敷の中をうごめいており、足元には、小さな女の子の刺殺体が転がっていた。



 「…………………………」



 その刺殺体すら炎が焼き尽くしており、まともに残っている皮膚は見当たらなかった。



 まといはカメラを手にしながら、向かい側の扉を開けた。

 確か、この扉の奥にも子供が眠っていたはずだ。



 だが……………。



 扉が勢いよく吹き飛ぶとともに炎が一気に流れだし、さらなる火の手が3階に拡がった。

 幸いにもまといは、すんでのところで避けたおかげで難を逃れたが、右手に深い火傷を負ってしまった。



 この部屋に入るのは、もう不可能だろう。

 


 「ねえっ!!!まだ誰か寝てるっ!!!」


 

 ためしに炎越しから呼びかけてみるも、応答はなかった。

 まといが屋根裏で目を覚ましたあの時点でもう、ここまで火が回ってしまっていたわけである。無事に逃げたとかでない限りは、もう死んでしまっているだろう。


 それに、あの刺殺体の女の子………。



 いったい誰の仕業なのか………。



 

 「ねえっ!!!!誰かっ!!!!まだ生きているなら返事してっ!!!」





 こんな状況の中でも、まだ誰か生き残っているのなら、脱出する事よりも、助ける事を優先したかった。

 しかし、大声を出すのは大きなリスクも伴う。

 煙がのどの奥へと入り込んでしまうからである。


 

 それでもまといは炎の中を歩き、時には走りながら、扉を叩いたりして、みんなの安否を確かめるために動き回ったのだった。



 もうこれ以上、誰かが死ぬのはたくさんだった。

 すべては、親友の自殺から始まった。

 しかも、あんなくだらない理由で、なんで子供達の人生までめちゃくちゃにされなければならないのか。


 一生分の苦しみは味わったはずだ。

 だから…………だからどうか………。

 


 まといは眉間に深くしわを刻み、親友の無念の死に、胸を痛めた。

 


 のどが、焼けてしまいそうである。

 

 お願いだ。

 ひとりだけでもいいから助けたい…。ひとりだけでいいから、この目の前の惨劇の中から、生き残りという形で希望を見つけ出したかった。



 すると廊下の奥から男の子がやって来て、まといの目の前で足を止めた。


 そう、ようやくにしてまといの望みはかなったのである。



 でも、その男の子は血まみれだった。

 いや、男の子というより、青年というべきか。

 彼は推薦入試に早めに合格していたので、来年からは大学生……のはずだった。


 だがその合格を、あろうことか、ある理由で取り消されてしまったのだ。



 彼は笑っていた。

 そして、彼の足元には、小さな男の子の死体が転がっている。

 

 オレンジ色の炎があたりの景色を覆い隠してしまっていて、その男の子の死体以外に確認できるものは、もう見えなかった。



 「まといさん………生きてたんだ」


 

 ナイフの切っ先がまといへと向けられる。

 その刃から、ポタリ、ポタリと血が滴り落ちた。



 


 「あとはまといさんだけだよ………。ククク、ねえみんなで一緒に死のうよ。火葬代もいらないよぉ。アハハハハハハハっ!!!!」



 「……………………………イツキくん」



 まといは涙を流した。

 イツキくんは、本当ならこんな事をする子ではなかったからだ。


 すべては、モラルなきマスコミによる報道と、それに便乗した不特定多数の人達が元凶である。

 そう……アイツラは、幸せになるべき人間から、人生を奪ったのだ。




 こんな事、絶対に間違ってる。



 「ねえイツキくん、こんな事間違ってるよ。今からでも遅くない。真っ当に生きられる道を探そう?」



 そう説得する裏腹で、もう無理だとまといは心の中で思っていた。でも、このままだと彼まで死んでしまう。




 「本気?」




 「……………たしかにつらい事はあった。でも、耐えるべきだったんだよ。時が経てば沈静化するんだよ」





 違う。時が経っても沈静化しない事だってある。

 イツキくんは、ここまでの事をしでかしてしまった。だから長い刑期を経て釈放されたとしても、死ぬまでこう言われ続けるだろう。『人殺し』と。




 「ククク、アーハッハッハっ!!!ねえ、近所の人達になんて言われるようになったかわかるっ!!!犯罪者生産工場だってさっ!!!ギャハハっ!!笑えるっ!!!実際僕がその通りになっちゃったわけだしっ」



 「イツキくん…………お願いだから、お願いだから正気に戻って………」



 

 だめだ。彼は正気に戻ってはいけない。

 もしそんな事になってしまったら、彼は深い絶望に押しつぶされ、どのみちまた壊れてしまう。


 


 そう…………もうどうあがいても、ジ・エンドだった。



 誰も救えない。


 


 それに喉が………もう焼けてしまいそうなくらいに痛かった。

 

 炎の海が、とっくのとうに天井まで到達しており、もう、逃げる事なんてできそうになかった。




 「わかった………じゃあイツキくん、一緒に死のうか」




 自分だけ助かっても意味がないと思った。

 だからまといは観念した。


 

 そこでイツキくんはようやく少しだけ穏やかな表情に戻り、ゆっくりとまといへと近づいてくる。

 

 それでも切っ先は向けられたままだ。




 「ありがとう、まといさん。もう………僕つらかったんだ」


 


 そしてその刃がまといへと突き刺さろうとした。



 だが………………………。



 少し離れた場所で、爆発が起きた。

 そしてその爆発は連鎖的に爆風を生み出し、まといと、そしてイツキの体を右へと吹き飛ばしたのだった。



 炎の壁を突き破って2人は、散らばった窓ガラスとともに外へと飛ばされてしまった。

 だから、2階分の高さに今、2人はいるというわけである。

 

 下には木々が広がっていた。

 二人はそのまま下へと落下し、木の枝をバキボキと折りながら、無数の葉を宙へと散らせたのだった。




 そして…………、まといの体は地面へと勢いよく叩きつけられる。

 肋骨がぐしゃりと変形し、その痛みは一気に全身へと響いた。

 頭も、枝で切ってしまったせいで血が流れている。

 火傷もたくさんした。


 もう…………動けない。




 だが……だが、助かったのだ。


 そう、助かったのである。



 大きな満月がまといを照らしていた………。


 


 ここからの位置だと、満月を背にして大きな木が、切り絵のようなくっきりとしたシルエットみたいになっている。



 

 「………………………あれ?」




 そこでまといは気がついた。

 その木に、なにか刺さっているではないか。


 妙だ………。

 なんで木から、赤い液体が流れ出ているのか。

 それに………あのシルエット……………まさか………。



 いや、違う。認めたくない。でも、あれはどう見ても…………。



 

 ポタリ………ポタリ………。

 まといの頬を、空から降ってきた赤い液体が濡らした。



 

 どうして…………、どうしてこんな事になってしまったのだろう。

 

 親友が死んだ理由だって、ただの冤罪なのだ。それなのに、施設の子達まで犯罪者呼ばわりされ、精神的に追い詰められた。



 まだ5歳の子だっていたのだ。罪だって犯してない。

 もしも正当な理由があってこんな目に遭わせたのなら教えてほしい。

 いくら何でも、これはあまりにも(むご)すぎる…………。

 



 でも、もう…………これ以上の罰はないはずだ。これ以上の罰なんて、あってはならないのだ。

 だから今度は、今度こそは、アイツラが苦しむ番だろう。


 神様はきっと見ている。



 

 


 それでももし、いくら待ってもアイツラに裁きが訪れないようなら………。



 


 

 呪い殺してやる。一人残らず呪ってやる。どんなに逃げようが、絶対に逃がさない。自らの手で裁きを下してやる。



 自分だけは大丈夫だと思うな?

 どんなに言い訳しようが、誰かの想いを踏みにじった罪は消えたりはしない。

 


 罪がある限り、目の前に現れる。

 

 許さない、許さない、許さない………絶対に…………。




 そして……………………。


 

 

 蒼野まといの意識はそこで途切れた。

 かなりの火傷と出血を伴ったので、眠っただけなのか、死んでしまったのかはわからない。


 


 

 まといのそばには、彼女の持ち物であるカメラが転がっていた。



 


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