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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十三章 くすんだはずの炎
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蔵本ワカコの場合4


 七王子駅周辺にて、ワカコに手首を掴まれたまといだったが、逃げる事はせず、ワカコを、聖と一緒に住んでいるマンションへとあがらせた。

 ワカコが傘すら差していなかったので、風邪をひいたらアレかなと思ったのだ。

 

 まといはワカコに、シャワーを浴びるように言ったが、断られた。でも、替えのスウェットを渡したら、すんなりと着替えてくれた。

 さすがに、びしょ濡れのまま人様の部屋の中を歩き回るのは失礼だと思ったらしい。

 まといは、大きめのタオルをワカコへと渡し、レモンティーと和菓子を彼女にふるまったのだった。


 「…………………」


 まといは、深いため息をつきながら、彼女の対面のリビングテーブルの席へと座った。


 「…………………」


 まさか、また彼女と出会う事になるとは……。

 

 「あなたが、フォーカスモンスター……ですよね?」


 「…………………」


 はいと答える必要はなかった。

 彼女の目の前ではカメラを使った事は1度たりともないからだ。

 いずれ警察には自首するつもりなので、捕まっても本当は構わないのだが、先ほど彼女は、頼みたい事があると言っていた。


 いやな予感がする。


 「人を……殺してほしいんです」


 「…………………」


 「津島葉菜加って知ってますか?いま、彼女のマネージャーの人が、とんでもない事になっていて」


 

 まといは、あえて自分からは何も言わないまま、彼女の言葉を聞き続けた。

 そして、事情を知った。

 どこかの誰かが言い始めた殺人説のせいで、津島葉菜加のマネージャーが、精神的に追い詰められてしまっている事を。


 だからワカコは言った。その犯人を殺してほしいと………。



 「…………………」


 

 まといは深いため息をついた。

 そしてワカコにこんな事を言った。


 「なら、あなたが殺せば?」


 「えっ…………」


 「殺す事が正しい事だと思っているんでしょ?だったらあなたが殺せば?」


 

 ワカコは、目を見開いて、驚きの表情を浮かべた。

 まといはさらに、こう言葉を続ける。



 「そもそも、なんで人に頼もうとするの?殺す事が正しいと思っているのなら、人に頼む必要なんてないじゃない?それに、仮にあなたのお願いを聞いたとして、私はいったい何人殺せばいいの?たぶんだけど、何人殺そうが、この負の連鎖は終わらないと思う」


 「でもっ」


 「それどころか、よけいにこじれる。口封じのために殺されたとか言い出す人も出てくるかもしれない。だって、殺人説なんてバカなものが出てきたくらいだからね。面白がって、さらによけいな事を言う人だって、出てくるんじゃないの?」


 「だっ、だけど」


 「本当はわかってるんじゃないの?こんなの間違ってるって」


 「……………」


 「でもあなたは、それをあろうことか、私に押しつけようとしてる」


 「でっ、でも、あなたはフォーカスモンスターで………」


 「フォーカスモンスターかどうかなんて関係ない。結果、私がヒトを殺したとして、あなたの心が痛まないようなら、あなたは、私が殺した人達と同レベル。心が痛むようなら、あなたはそこでようやく、自分が誤った選択肢を選んでしまった事に気づく」


 「………………」


 「どちらにしても、あなたはろくな事にならない」


 「でっ、でも…………」


 

 ワカコは涙目になった。

 だけど、まといが言っている事は正しかった。

 だから、これ以上は何も言えなくなってしまった。

 


 そして失意のまま、ワカコはそのマンションを後にした。

 

 まといがくれた傘を差しながら、ふと、加賀城の事を思い出した。

 精神科警課の人間なら、この事態を何とかしてくれるかもしれないと思った。

 というより、なんでもっと早く思いつかなかったのだろうか。

 こんなに適任の人物はいないというのに………。

 以前に、加賀城の携帯の電話番号は教えてもらっていたので、ワカコはさっそく電話をかけたのだった。





 でも、でなかった。




 赤橋署を直接訪ねたが、そこにも加賀城の姿はなく、近くにいた人に相談しても、『そういった相談は扱ってはおりません』とまともに取り合ってはくれなかった。

 

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