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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十三章 くすんだはずの炎
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アリバイ



 5月7日 AM9:00




 そしてトモイは、目を覚ましたのだった。




 湿気の混じった畳のにおいが、彼の鼻の奥へと、ゆっくりと入っていった。

 どうやら今日は曇りらしい。

 

 上半身を起こすと右には窓が見え、窓から見える空の色は、排気ガスでとことん汚れた、そんな白さだった。


 「………………」


 肩がまだまだズキズキと痛い。

 

 アラキ(・・・)に撃たれたのが5月3日の午後の16時過ぎくらいである。

 猿手川義信が鉄格子の向こう側で、額から血を流して死んでいるのをトモイが発見したその1分もしないうちに、アラキを含む複数名の公安の人間がやって来て、こんな事になった。

 

 猿手川の額の傷口からは、乾ききっていない赤い液体がポタポタと床に垂れていたので、撃たれてそんなに間もないのは確かだった。だからこそ誰もが、その場にいたトモイを犯人と決めつけたというわけだった。


 そしてアラキも………。


 公安警察の情報収集を統括する者として名が知られているコードネーム・チヨダから派生したのが、アラキとトモイだった。

 アラキとトモイは、チヨダからの指示に縛られる事なくスパイ活動をする、裏方の工作員のようなものである。

 チヨダもチヨダで、情報屋や協力者を雇ったりして彼らにスパイをさせたりもしているが、あくまで、表舞台の存在ゆえ、警察上層部の指示によっては、活動を中断せざるを得ない判断に迫られる事がある。

 その点、アラキとトモイは、自由に動けるというわけだった。

 

 アラキとは別に、友達というわけではなかったが、あんな形でためらいもなく撃たれるとは思わなかった。


 「………………」


 気になるのは、あれから何日くらい時間が経過したかだった。

 猿手川が死んでしまったのを機に、戸土間の事を含め、停滞していた時の流れは、急速に変わりつつあるような予感がする。

 ここでのんびりなんてしていたら、取り返しがつかなくなってしまうかもしれない。



 「………………」



 近くにはテレビがあった。

 電子レンジみたいな無骨な形の、昭和っぽい古めかしいタイプのものが、床に(じか)に置かれてある。


 トモイはテレビのスイッチを入れた。

 するとニュース番組が映り、赤佐内建設の社長が逮捕されたというニュースが流れた。


 逮捕の理由は、ヤマトテレビの手抜き工事の件で、証拠が出たとの事だった。

 あと、それに伴なって、赤佐内建設に対し、集団訴訟まで起こっているらしい。

 

 集団訴訟については、ある程度は、こうなる事は予想していた。

 旧ヤマトテレビの建物には社員全員が入り切らないのはあきらかだったし、テレワークに切り替えてでも社員をまわしていく的な事は言ってはいたが、そっちに切り替えるよりかは、これを機に、適当な理由をつけて不要な社員を切り捨てていった方が安上がりだった。



 でも、なんで今になって赤佐内建設の社長を逮捕する気になったのかが気になった。


 「…………きなくせぇな………」


 どうせろくでもない理由のような気がする。


 「………………」


 

 


 すると、部屋の中に炭弥が入ってきた。

 

 「なんや、起きとったんかいな……」


 炭弥は、トモイの横に、包帯と消毒液を乱暴に放った。



 「何が悲しゅうて男の快方なんか、せなあかんのや。元気になったんなら、さっさと出ていきや」


 「と言いつつ、ここまで運んでくれたよね」


 「枕元に立たれたら面倒だからや。あんた、幽霊になったら、さらにタチが悪そうに見える」


 「でも助けてくれた。血も涙もない人間だったら、こうはいかない」


 「…………あんたにうちの何がわかんねん」


 「わからないよ。でも興味はある。そして、止めたいとも思ってる」


 「………………」


 「職業柄わかってしまうんだよね。服の上からでも。相手がどれだけ鍛えているかを……」


 「………………」


 「蕪山浩が殺されたのは朝の8時過ぎ。宅配業者を装った何者かによって彼は殺されたらしいけど、キミにその時のアリバイがあったかどうかを知りたいね。喫茶店CAMELが9時からはじまるし」


 「………………口を閉じる気がないんだったら、とっとと出ていけや」




 そして炭弥は部屋から出ていった。



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