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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十三章 くすんだはずの炎
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修羅場


 5月7日 引き続き、碧の自宅。



 まといは、冷凍保存してあったアジの干物を焼き、ほうれん草のおひたしをサッと作って、味噌汁と一緒に碧に提供した。

 もちろん、おひたしには醤油をドバっとかけさせない。ただでさえ、たった1日の間に、あんなにもおつまみを食してしまっているわけである。これ以上の塩分の取りすぎはさせたくなかった。

 そういった不摂生の積み重ねが、やがてガンにもつながるから。

 


 「まどかちゃんは一緒に食べないの?」


 「お腹空いてないし………」



 またおとといのように、お腹の音が鳴ってしまわないように、ご飯は多めに食べてきた。

 碧は、最近のスケジュールについてこう語った。


 「でね、私。しばらくはそんなに忙しくはないの。ちょいちょい仕事は入ってるけど、3時間くらいで終わっちゃう」


 「そうですか……」


 「薔薇の麗人をもっと多くの人達に見てもらうために、いくつかバラエティに出て宣伝したりするけどね。でも今日は、作者の人と対談インタビューだけの予定」


 「………………宣伝も俳優の仕事のうちってわけですね」



 女優の仕事をもうすぐ辞めるような事を前に言っていたのは覚えている。という事は、もうドラマの仕事はやらないのだろうか。

 テレビをめったに観ない身でこんな事を言うのはアレだが、とても残念だった。

 瀬戸際太郎の事件簿に出てた彼女は、けっこうコメディ色が強くて面白かったのだが……。


 女優業には情熱を持っていないとも、前に言っていたので、これはもう、しかたがないのかもしれないが。



 「だからさ、まどかちゃんには、近くで待っててもらいたいんだよね。私が寂しくないように」


 「……別にいいですけど」



 どうせ今日は写真の仕事は入っていない。

 なのでまといは、マンションの地下駐車場に止まったまま放っておかれていたあの車を使って、碧を京王赤橋プラザホテルへと連れて行ったのだった。


 そのホテルは、隅々まで赤い絨毯一色だった。

 天井も高くて、照明も、黄金のシャンデリアのものまであった。

 ホテルという名前ではあるものの、会議用の広いフロアもいくつかあった。

 今日はそのフロアの1つを貸し切って、対談インタビューは行われる。


 薔薇の麗人の出演者で、碧以外の人は来ないらしい。この作品においての重要な役どころは碧だからだそうだ。


 スタッフ達と合流した碧は、まどかを付き人として紹介した。


 このフロア内の奥の方に立っていたパーテーションの裏側は、スタッフ達の荷物置き場になっていたので、まといは、いったん碧から離れ、そこへと移動し、終わるまで待ってる事にした。

 

 碧は、カメラの前に置かれた椅子に、深く腰を下ろした。

 その椅子の後ろの方には、カメラ映えするために、色とりどりの花が飾られている。


 なんだか碧が思いつめた顔をしているように見えたので、まといは彼女の方へと近づき、調子を尋ねた。



 「もしかして二日酔い?」


 「それもあるけど………心細いかな。まだ作者の人が来てないし、始まるまで近くにいて」


 「…………うん、いいよ」




 突然、遠くからスタッフの声で「花房さん入られましたー」と聞こえてきたので、まといはスタッフの方へと顔を向けた。

 すると、入り口の方から、黒スーツに水色のシャツを着た黒髪の女性が、こちらへとやって来るのが見えた。


 「……………」


 最初、見間違いかと思った。

 だって、こんな場所に彼女が来るわけないと思ったから。

 でも、何度瞬きしても、彼女の顔は決して別人へと変化はしなかった。


 「こんにちわ、風椿碧さん」


 そして花房聖は、碧の目の前で足を止めた。

 

 まといは当然驚いたが、碧もまた驚いていた。

 それとは対照的に、聖は余裕のある笑みを浮かべている。

 聖は、もう1度碧に挨拶をした。


 「こんにちわ、風椿碧さん。私が花房聖です。薔薇の麗人の作者です」


 「なっ」


 まといはそっと、2人の近くから1歩、また1歩と遠ざかり、パーテーションの裏に隠れて、近くの椅子に置いてあった台本の1番後ろのページをパラパラとめくって開いた。

 

 すると確かに、原作者の欄に、花房聖の文字があった。

 近くにいたスタッフの人が言うには、『企業家なうえに物語も作れるだなんてすごい』との事。


 「………………」


 知らなかった。

 もっと世間の事に目を向けていれば気づけていたかもしれないが、いかに自分が、流行から遠ざかっているかを思い知る。


 まといは、パーテーションの陰から二人の様子を覗いた。

 まといの距離からだと、碧の声は若干聞こえるが、聖の声は聞こえなかった。

 

 

 2人の話の内容については、次の通りである。



 「あなたって、占い師じゃなかったの???」


 「もちろん占い師だよ。企業家が占いしちゃダメな理由もないしね。そして、私の占いはよく当たる」


 「……でもあなたは、まといちゃんの事、知っている風だったよね?」


 「そうね。私、占い師だから。フフフっ」

 

 「胡散臭いのよ」


 「胡散臭い?大好きな人に睡眠薬盛る方が、胡散臭いんじゃないの?」


 「なっ!!!」


 「私の占いの結果でね、蒼野まといがそのせいで死ぬって出たから、助けてあげたの。ありがたく思ってね。フフフフフフっ」

 

 「あなた………あなたって、いったい何者なの???」


 「占い師」


 「ふざけないでよっ!!!」


 「ふざけてないけど?私は1度だってふざけた事はない」


 「くっ」


 「とにかく、蒼野まといの事はもう忘れていいよ。私の恋人(・・・・)になったから」


 「…………えっ?」


 


 私の恋人になったから?

 えっ?


 最初、この花房聖が何を言っているのか、理解するのに、相当の時間を要した。

 もちろん聖は、難しい事は何1つ言ってない。

 でも、女の人が女の人と付き合うのは、世間的にはまだまだ理解が薄いというか、差別的な考え方をする人はまだまだ多いので、よりにもよって、まといが別の女の人と付き合っているだなんて、すんなり受け入れる事はできなかったのだ。 



 「だってさ、女同士って、けっこういいと思わない?妊娠のリスクもなく楽しめるし、彼女、美人なのにホームレスだったんだよ。手なずけるのにちょうどいいでしょ?」


 「は?」


 「ほらっ、ペットを飼うみたいなもんだよ。彼女、()が強くないタイプだから、主導権を握れるしね」


 「……………」


 「そのうち首輪でもつけてみようかなっ♪」



 

 ブチっ。

 碧の堪忍袋の緒が切れた。

 右掌をパーの状態に広げ、勢いよく花房聖の頬へとフルスイングしようとした。


 だがっ……。


 まといが勢いよく碧へと体当たりしたおかげで、花房聖へとダメージを与える事なく、まといと一緒に碧は、床へと倒れたのだった。



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