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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十二章 遅咲きの桜の真ん中で
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幕間12



 5月6日。14:00。



 警察上層部の幹部達が集まるフロアにて、近衛孝三郎は称賛の嵐を受けていた。



 「いやはや、すばらしいよ、近衛くん。君のおかげで夕桐高等学校の事件はこれにて解決したわけだからな」


 「いえいえ、それほどでも♪」


 「これで警察の威信は守られたよ。国民に対して、示しがつく」


 

 実際は、加賀城が自分の身を犠牲にしたからこそ解決したわけだが、彼らにとってはそんな事、どうだってよかった。

 加賀城や“下々の者達”を含む、搾取される側が立てた手柄を、搾取する者達が、甘い蜜としてススるというわけである。

 だから、搾取される側の事情なんて、彼らにとってはどうだってよかったのだ。


 そして、近衛孝三郎も、搾取する側だったという事だ。

 さらに彼らは、次々とこんな事を言った。



 「それにしても、マカベはもうおしまいだな。ELSAも赤佐内建設も一緒に道連れかなぁ」


 「まあ、いいじゃないですか。これで、目の上のたんこぶが取れるのだから」


 「赤佐内建設なんかは、最近は特に、お調子にのっていた部分もありましたからね」


 「でかい顔ばかりする“オトモダチ”は、どこの世界でも嫌われるものだしね」


 「そうだな」


 「ああ、その通りだ」


 「ハハハハハハハハッ!」



 近衛孝三郎は、そんな彼らを見て、ずっと笑みを絶やさなかったが、心の底から笑っているかどうかについては、誰にもわかりそうになかった。



 近衛は、部屋から退出した。

 さらに、こんな事を彼はつぶやいたのだった。




 「そう………不要なオトモダチは要らない」



 彼の表情から、スッと笑顔が消えた。

 そして彼は歩き出し、目の前の通路を、先へ先へと進んでいく。

 人の流れは、そんなに多くはなかった。

 

 左の通路から、ヌッと近衛の前へと出てきた人物がいた。



 城士松だった。




 「おや、ガッハッハ。城士松さんじゃあないですかぁ」


 「………………テメエ……」


 「おやおや、口の利き方がなってませんねぇ」


 「お前のあの判断は………出さなくてもいい被害者をより生んだだけだ。わかってるはずだよな?」


 「でも、守るべきルールは守るべきなんですよ。あなたが親だったらどう思いますか。もうすでに息子の遺体は見つかっていたはずなのに、警察はその事を黙ってたら……。到底理解なんてできませんし、したくはないかと……」


 「………………」


 「それとも、生きている犯罪者を捕まえるためなら、死んでしまった被害者の遺体なんて後回しにしていいと?」


 「ごちゃごちゃ言うのはやめろ。場合によっては、品川かなめは死んでいたかもしれないんだぞ。それについてはどう言い訳する?」


 「結局は同じですよ。ルールは守るべきだ。ルールを守ったうえで誰かが死んでしまったとしても、それはしかたのない事ですよ。加賀城さんだって、私の言っている言葉の意味を理解したからこそ、あの時、あれ以上は喰ってかかってこなかったんですよ」


 「ルールのために、死んでいい人なんていない」


 「いいえ、ルールは絶対です。でないと日本は無法地帯になりますよ」


 「それでも、俺はあんたを認めない。あんたは、ルールという武器を振りかざしながら、人の心を踏みにじるという行為をおこなっているだけ。そこにモラルなんて存在しない」


 「ククク、そう思いたいのなら結構。あなたは、あなたの頭の中だけの常識に囚われていればいい」


 「…………………」



 城士松は近衛をキッと睨みつけたが、それ以上は何も言おうとはせず、背中を向け、左の通路の奥へと引っ込もうとした。

 だが、そんな城士松の背中に向かって、近衛はこんな事を言った。




 「私ね、加賀城さんの事、割と応援していたんですよ。だから、死んでほしいなんてこれっぽっちも思ってはいなかったんです」




 ピタリと、城士松は足を止めた。

 さらに、近衛はこう言葉を続けた。



 「だってそうでしょう?彼女のような人間こそ上に立つべきだ。だから私は、彼女をテレビの前に立たせた。彼女にはカリスマがあったから……」


 「黙れ」


 「私を責める前に、自分を責めてはどうでしょうか?だって、24時間ずっと監視しなかったからこそ、あんな事に………」


 「黙れ」


 「いつかはこんな事になると思ってましたよ。あなた、彼女のそばにずっといたわりには、彼女をよく理解してなかったから、こうなる事を予期できなかった」


 「黙れっ!!!」



 城士松は、近衛の方へと、もう1度体を向けた。

 そして、勢いよく飛びかかり、彼の頬を思いきり拳で殴ったのだった。




 本当は、こんな事すべきでないのはわかってた。

 加賀城だって、きっと望まないだろう。

 

 それに、近衛の言う事は、あながち間違いでもなかった。

 彼女が大切なら、もっと気をつけるべきだったのだ。

 





 1番大切な人なら、なおさらの事だった。





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