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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十二章 遅咲きの桜の真ん中で
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夢のあとで・・・。



 碧は夢を見ていた………。



 やたらとリアルな夢である。




 そう、この夢は、最近見た“あの夢”とまったく一緒だった。

 ツルツルとした幅広の白い廊下に、壁にはやたらと張り紙が貼ってある。


 地域清掃活動のお知らせや、ココロの相談室のお知らせ、弁護士の無料相談といったモノまで貼ってあった。


 人の通りは少ない。


 スーツにネクタイ姿のいかつい男性達が、なにやら隅でこんな話をしていた。



 「なんで毒なんか………」




 だけどすぐに、テレビ画面でいうところの砂嵐現象が起こり、プツンと一旦夢の中が真っ暗になってから、桜の花びらが舞う展望台へと場面は移ったのだった。


 その展望台には、たくさんの人達が倒れている。

 やたらと無精ひげの男達もその中に含まれていて、彼らのそばには、拳銃が転がっていた。


 女性も2人いた。

 その内の1人は、後ろ手に両手首をまわされ、手錠をかけられた状態のまま、うつぶせになっている。目は瞑っているが、気を失っているだけみたいだ。

 

 もう1人の女性は見た事があった。

 東京高匡総合病院前で出会った、あの彼女だった。

 たしか名前は、加賀城密季だったはず。


 彼女は、顔がもう真っ白だった。 

 唇がかすかに動いているが、このままだともう時間の問題だった。



 すると、そんな彼女へと近づく、もう1人の人物が登場する。

 例の占い師の彼女だった。

 彼女は、手に注射器を持っていた。

 

 



 そして、そこでこの夢は終了した。




 でも、目を開けても、部屋は真っ暗のままだった。

 どうやら、いつの間にか夜になってしまったらしい。

 碧は、ベッドの脇に置いてあったリモコンで電気をつけ、ナイトテーブルの上にあったデジタル時計へと目をやった。


 23時だった。


 額には冷えピタが貼ってある。

 まだカピカピにはなっていない。つまり、額に貼られてから、そんなに時間が経っていないという事なのだろう。

 

 部屋を出ると、リビングチェアに座りながら、メガネの高さを調節している“例のマスク姿の家政婦”がいた。

 テーブルには、碧が渡したお金のお釣りが置かれている。

 どうやら買い物は2万円以内に済んだらしい。1万円札が8枚も、テーブルの上にあった。

 赤毛の家政婦は、すぐに碧の方へと顔を向けた。


 「……………………」


 この家政婦、よく見ると、とてもきれいな、大きな目をしている。


 

 「体調はよくなりました?」


 「えっ……ああ……まあ、大分(だいぶ)


 「本当は、こんな時間まで長居するのは失礼に値するんですけど、もし悪化したら、救急車を呼ぶにも、1人じゃ苦労するだろうなって思って。様子見で残ったんです」


 「……そうですか。ありがとうございます」


 「おかゆ、今から作りますね。おかゆ用の出汁はもうできてるから、あとはご飯を入れてサッと煮るだけ」



 リビングチェアから立ち上がった赤毛の家政婦は、鍋に火をつけ、中の出汁が煮立ったタイミングで、炊飯器の中の1人分のご飯を鍋に投入した。



 「ねえ、家政婦さん。あなた、名前は?」


 「………えっと……あか……アカサカ・マドカ。赤坂(あかさか)(まどか)です」


 「まどかちゃんね」


 「テンマさんが作ってくれたレンコンのキンピラ炒めと一緒に、食べてくださいね」


 

 まどかことまといは、ミニサイズの土鍋におかゆを注ぎ、小皿に、レンコンのキンピラ炒めを入れた。

 そしてそれらをリビングテーブルの上にのせた。



 「まどかちゃんは?まどかちゃんは夜ご飯は食べたの?」


 「ええ、食べましたよ」



 ギュルルルルル。



 「………………」


 「………………」


 「本当に食べたの?」


 「いや、いっ、今の音は、ほらっ、胃が活発に動いている音っていうか……」


 「小腹が空いてるんなら一緒に食べてよ」


 「だっ、大丈夫です。家に帰って食べますから」



 一緒に食べるわけにはいかなかった。

 だって、食べるとなると、マスクを外さないといけなくなるからだ。



 「じゃあ、私もう帰りますね」


 

 まといはそそくさと玄関へと急いだ。

 でも、碧はすぐあとを追ってくる。



 「待ってよ。できれば、また来てくれるとうれしいんだけど」


 「え………」


 「最近は特に、家事とか私、しなくなっちゃったし、面倒くさいなとすら思うようになっちゃったから、だから、家政婦さんがいてくれると助かるっていうか」


 「…………」


 「できればあなたを雇いたい。だって、態度が悪い家政婦に来てもらってもあれだし、チャラチャラした人とかもカンベンって感じだから、毎日じゃなくてもいいから、週に何回か来てほしいっていうか」


 「…………」


 「もちろん、お金には色をつける。ほかのところで働くよりかは得だなって思えるような金額でね」


 「…………」


 「だから、電話番号とか教えてくれると………」


 「だめです。スマホとか持ってないし」



 そう、こんな事、今日限りにすべきだった。

 碧の事が心配じゃないわけではない。時期的に考えても、碧がこんなになるまで追い詰められてしまったのは、あきらかに自分のせいだったからだ。

 

 でも、警察に自首するという未来しかない自分が、これ以上は関わってはいけない。



 「じゃあ、私のスマホ、貸してあげる。3つ持ってるから。仕事用に、プライベート用。あと、どっちか壊れた時の予備で、もう1本」

 

 「そんな事しないで、ほかの家政婦雇ってください」


 「やだ」


 「………」


 「あなたがいい。あなた以外は雇わない。だったら1人でいいや。徹底的にこの部屋をゴミ屋敷にするから。朝、昼、晩、ずっとカップラーメンでいいし」


 「………………」


 

 どうしよう。

 彼女は本気だ。

 実際、あの冷蔵庫はスッカスカだった。

 御影テンマだって、毎日は碧の様子を見れないからこそ、まといにあんな形で家政婦を頼んできたのだ。



 「……………わかりました」


 「やったぁ。じゃあ決まりね」


 

 いったん碧は、奥の部屋へとスマホを取りに行き、すぐに戻ってきてまといへと渡した。

 あと、このマンションへ入るためのカードキーと、この家の鍵もまといに渡した。

 


 「じゃあ、今度こそ私、もう帰ります」


 「うん、じゃあね、まどかちゃん」



 そしてまといは出ていき、玄関のドアが、ゆっくりとガシャンと音を立てた。





 

 「じゃあね。まといちゃん……」 






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