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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十二章 遅咲きの桜の真ん中で
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よけいなこと


 加賀城はいったん精神科警課へと戻った。

 そして奥の部屋へと、城士松と一緒に入った。

 城士松は、懐から謎のリモコンを取り出し、ボタンを押した。そして次に、壁に設置されたエアコンのボタンをピッと押した。


 すると、ゴォォというクーラーの音に加え、床から伝わってくる振動音がひとつに重なった。

 

 

 「これで外からの立ち聞きはいっさい不可能になりました。この部屋にはもちろん、盗聴器の類はありません」


 「この音、私はそんなに好きじゃないんですけどね。酔うし」


 

 とはいえ、しかたがなかった。今の時期なんかは特に、どこで誰が何を聞いているのか、わからないからだ。


 

 「それでは課長、真剣な話をしましょうか。最初の別荘の方で出た遺体については、元科捜研の私の友人にムチを打ってまで、調べてもらいました。もちろん、現時点でこの事については、ごく少数しか知りません」


 「ありがとうございます」


 「で、最初の別荘で見つかったあの遺体についてですが、すべてが男性でした。というより、少年といった方が正解でしょうね」


 「……………」


 「衣服から見て、中学、高校に通っている生徒。夕桐高等学校の制服に似ています。遺体の腐敗具合は半年未満」


 「そういえば、行方不明になっている高校生が何名かいましたよね。いなくなったのは2月くらいですね」

 

 「腐敗による遺体の劣化以外で、目立った損傷は見られませんでした。骨にもね。ただ、体内からはわずかに毒物が」


 「…………なら、女性でも彼らを殺すのは可能、のようにも思えるけれど、彼らに毒を呑ますにせよ、注射器で注入するにせよ、ある程度心を許せる相手でない限りは、出された毒入りの飲み物を飲もうとしないし、近づいただけで警戒されて、距離を取られてしまう」


 「鹿津絵里は夕桐高等学校にかつて勤めてはいましたが、当時は、田端翔を守る側のはずだった。彼らが気を許すはずがない」


 「でも、この時にはすでに、鹿津絵里には何人かの“仲間”がいた可能性は高いので、彼らにやらせる事はできます。でもその場合は、取り押さえる際に、かなりのもみ合いになるはずなので、遺体には打撲痕が残ってもいいはず」


 「だけど、そういった痕もない」


 「ほかに考えられるとしたら……警察。警官相手なら、よっぽどのことがない限りは、彼らは警戒はしない」


 「いずれにせよ気になるのは、なんであの場所から遺体が出てきたという事で……」





 ガチャ。





 近衛孝三郎が外から入ってくる。



 「ガッハッハ。こんばんわ、お2人さん。まだまだ真夏でもないのに、なんでクーラーなんか♪」


 「……………これはこれは。監察官殿がわざわざこんな場所に何用で?」


 「ハハハ、ずいぶんなごあいさつで♪」


 「……………」


 「お2人にご報告♪鹿津絵里を、本日をもって重要指名手配犯に認定しました」


 「えっ」


 「ガッハッハ。何を驚いていらっしゃる。だって彼女は、夕桐高等学校の硫化水素テロを企て、風椿碧を殺すと殺害予告まで出し、人を使って実行させようとした」


 「でも、彼女へとつながる直接的証拠は出てませんよね?」


 「いいえ、実行犯の1人が自白しました」


 「それでも、その証言が、虚実か真実かという証拠はあるんですか?」


 「出てませんよ♪でもね、彼女が潜伏していたとされる別荘から、死体が出てきたそうじゃないですか」


 「………………」


 「あなた方、こっそり動いたつもりなんでしょうけど、全然ダメですね。人間って、大嫌いな相手に対しては、何気に、つねにアンテナを張っていたりするんですよ。相手を陥れるための追及材料をいち早く手に入れるためにね。だから、隠密に動こうとしても、どうしてもほころびが出てしまいます」


 「で、あなたは、その告発者と友達だったからこそ、この件を知る事ができたとか?」


 「さあ?どうでしょうね。ガッハッハ」


 「………よりにもよってこのタイミングで指名手配なんてしたら、すべて水の泡になってしまいます」


 「なぜ?指名手配になれば、彼女はもう終わりです。どこかへ身を隠しても、貯蓄している食料もいずれ無くなるはずです。そうしたら、リスクを負ってでも、スーパーやコンビニへと行かないと、食べ物も手に入らない」


 「人を使って買い物に行かせるといった手段もあるじゃないですか。もしそうなったら、彼女を捕まえるのにもっと時間がかかってしまう」


 「でも、埋まっている死体を見つけたのなら、こんな事はせず、遺族のもとに返してあげるべきです」


 「………くっ」


 「加賀城さん。そして城士松さん。こんな事で精神科警課がなくなってもいいんですか?あなた達がしている行為は、本当ならばもうアウトなんです。監察官として、うえに報告すべき案件でもあります」

 


 正論ではあった。

 重罪人を逮捕するためだからといって、踏み越えていいラインなんてない。

 親子の仲がどうだったであれ、いまだに行方不明の息子の事が、気にならない遺族はいないのだから、遺体として見つかったとはいえ、こちらの事情で報告を後回しにするなんて、エゴでしかない。


 だけど加賀城は食い下がった。

 解せない事があったからだ。



 「あなた、急に、鹿津絵里を捕まえる事に対し、ヤル気を出し始めましたけど、なぜですか?」


 「………………」


 

 近衛孝三郎の右眉が、若干ピクリと動いた。



 「ELSAとなにか関係が?」


 「さあ、何の事でしょうか?」


 「私たちが隠れて勝手な事をしてしまったのは、たしかに間違いだったのかもしれません。ですが、いまあなたが言った言葉のすべては、ただの建前で、本当の狙いは別のところにあるように思えますけど?」


 「ガッハッハ、知りませんねぇ」


 「あなたがクズだって事はたしかですよ………」


 

 加賀城は近衛の横を通り過ぎ、赤橋署を出た。でも、そのすぐあとに、城士松が追ってきて、猿手川義信が死んだ事と、あと、トモイが行方不明である事も告げた。

 猿手川が収容されていた留置場は、極秘中の極秘の場所に建っており、セキュリティも一般の留置場の何倍も高かったのだが、その中で猿手川は額を撃たれ、死んだ。



 「そしてトモイが、彼を殺した事になっています。カメラにはしっかりと、トモイが撃った瞬間が映っていたそうです」

  

 「………トモイさんが犯人なら、わざわざその留置場で殺さなくても、彼を確保した直後に殺せたはずです」


 「ええ」


 「トモイさんに罪をなすりつけたのは、本当の真犯人から目をそらさせるため。でないと、捜査の目は、ほかの警察関係者へと向くから」


 「しかし、トモイの冤罪を調べようにも、監視カメラの映像が手に入らない。さきほどの近衛監察官の言葉ではないですが、精神科警課の身では、権限に限界があるという事ですね」


 「それでも、彼が生きているのならまだ希望はあります。なので今は、ほかの手を考えないといけないですが、鹿津絵里の事もなんとかしないと……」



 すると、加賀城達のもとへと福富神子がやってくる。

 彼女は、帽子を目深にかぶっていて、ウィッグまでつけて別人を装っていた。かなり近距離まで近づかなければ、ぱっと見、誰だかわからないといった感じである。 



 「福富さん、なにか御用ですか?」


 「手なら他にあるわよ」


 「というと?」


 

 福富神子は懐からボイスレコーダーを取り出し、加賀城へと渡した。

 


 「これは?」


 「猿手川の口から、マカベという名前が出た証拠の音声が入ってる。あと、BECKというナイトクラブの名前も出てる」


 「そんな音声、いったいどうやって手に入れたんですか?」


 「私もあの場にいたの。そう、猿手川が潜伏していたあの建物にね」


 

 嘘だ。

 本当は、あの場にいたのはまといだ。

 でも、こんな時だからこそ、バカ正直に何でもかんでも言うわけにはいかなかった。

 


 「で、ほかにどんな手が?」


 「昨日の風椿碧の殺人未遂の件、知ってる?」


 「あの事件の犯人が、1人だけ撮影スタジオの外へと逃亡し、躓いた拍子に、割れた瓶の先っぽで額を貫いてしまって、死んだのは知ってます。でも、今大事なのは、その事件の真相ではなく、鹿津絵里をどうやって確実に捕らえるかで……」


 「あの男が死んだのは撮影スタジオの外だった。しかも、鹿津絵里にとって、これは想定外だった。もしも警察の遺留品置き場の中にカメラがあるならば、鹿津絵里は必ず取りに来る。指名手配の情報が全国へと本格的に広まる前にね」


 「カメラ??カメラなんて知りませんし、そんな情報、入ってきていませんよ。だから、カメラは彼女が持って行ったのでは?」


 「そう、これは賭けでもある。あの男が撮影スタジオの外に出る前、彼女がどれだけ彼の近距離にいたかによっては、カメラの回収には間に合っていたかもしれない。でも、そうでないのなら、カメラは彼女の手元にはない」



 「………わかりました。遺留品を調べてみます」



 近衛孝三郎にあんな事を言われたあとではあるが、遺留品くらい調べても、大した影響は出ないだろう。

 加賀城は、城士松や福富神子のもとから離れ、警視庁にある、遺留品置き場と書かれた部屋へと向かった。

 部屋の中にいた鑑識の男性にも尋ねて、遺留品リストを見せてもらったが、カメラはなかった。

 加賀城は深いため息をついた。

 だが………。




 電話がかかってきた。 

 非通知からだった。



 加賀城は電話に出た。すると、電話越しの相手は、加賀城に対し、こう言った。





 

 「交換条件と行きましょうか。品川かなめを預かってる。死んでほしくなければ、カメラを渡しなさい」





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