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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十二章 遅咲きの桜の真ん中で
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死体の隠し場所3



 5月5日 13時40分過ぎ。



 加賀城は戸土間市に来ていた。

 

 戸土間市は、23区内と比べると、田舎…というよりも、平成初期の発展途上といった雰囲気が強かった。だから、ビルが建っているエリアもあるけれど、黄ばんだ団地ばかり建っているエリアや、シャッター街もいくつかあった。

 


 広大な森が広がっているエリアもあった。

 そして、このエリアには、放棄されたロッジが点々としている。1つ、2つ、3つ、8つ。

 加賀城が訪れたのはまさに、このロッジ周辺のエリアだった。


 ロッジ自体はまだ新しいが、ここをキャンプスポットにしても流行らなかったため、責任者はとっくのとうに管理を放棄している。なので、ロッジの中を覗いても当然、誰もいない。


 まだここが取り壊されていない理由は、“利用価値”があると土地開発の責任者が判断したからだった。いつになるかはわからないが、この場所も改築の予定があるという事である。

 ロッジは8つも点在しているので、今からすべてを調べるのに、時間がかかりそうだった。


 それでも加賀城は足を動かし、1つ、2つ、3つ、8つと調べたが、特に何も出てきたりはしなかった。


 「………はあ」


 空がオレンジ色へと変わり、懐中電灯をつけないと、足元すらおぼつかなくなりそうだった。

 加賀城は懐からハンディタイプの懐中電灯を取り出し、足元を照らした。

 

 すると、後ろの方から足音が聞こえた。

 

 ザッザッザッザ……。疲れを一切知らない、機械のように等間隔のリズムの、そんな足音だった。

 後ろを振り向くと、まず目についたのが、彼女がかぶっていた真っ白いヘルメットだった。

 30代くらいの女性だった。

 黒いスーツに、青っぽいワイシャツを着ている。いや、もしかしたら水色なのかもしれない。夕方で薄暗いせいか、どっちかはわからなかった。

 

 いったい何者なのか……。

 彼女、爽快な笑みは浮かべてはいるものの、何を考えているのか、よくわからなかった。

 そんな彼女は、加賀城に対してこんな事を言った。



 「許可、取ってませんよね?」


 「えっ?」


 「前に自殺目的でこの森の中に入った男女がいたので、6時間ごとに、サーモグラフィカメラで、遠くの建物から、侵入者がいないか、自動で森全体をチェックしてるんですよ。かなり遠くの建物からの撮影なので、お気づきにならなかったみたいですね」


 「……………ああ、もしかしてあの塔みたいな建物にカメラが?」


 「ええ、そうです。便利でしょう?」


 

 サーモグラフィ。

 人体から発せられる熱を、高温なら赤、赤よりも低い温度は黄色、低温なら青と、色別に撮影してくれるので、森の中にいても、よっぽど加賀城の体内の熱が低温でない限りは、赤っぽい人型のシルエットとしてカメラには映る。 


 今回のように、遠くにカメラが仕掛けられていた場合、今はスマホやパソコンが当たり前の世の中なので、カメラを探知するためにチカラを使っても、光回線やらWi-Fiやらがやたらと邪魔してくるので、体力の消耗が激しかったりもする。


 なんにせよ、サーモグラフィカメラをそのように使っていたとは、驚きである。

 という事は、これ以上調べても無駄だろう。

 鹿津絵里がこの場所を潜伏場所に使っていたならば、すでにバレていただろうから、ちょっとした騒ぎにもなっているはずだ。

 まあ、鹿津絵里が、あそこの塔に仕掛けられたカメラに気づいてこの場所を選ばなかったのかは定かではないが。



 「許可を取らなかったのは謝ります。少々事情がありましてね」 


 

 加賀城は彼女に警察手帳を見せた。

 その警察手帳にはもちろん、加賀城の名前があった。



 「へえ、加賀城密季さんね。テレビに出てた人ですよね」


 「ああ、覚えていましたか」


 

 もうそろそろ、みんな忘れてくれるとありがたかった。いつまでも自宅のマンション前で“あの連中達”に待ち伏せしてほしくもないし。昨日も、茂みの中に隠れているのを見つけたので、取りに行きたいものがあったのだが、渋々あきらめたのだ。



 「捜査ですか?」


 「ええ、そうです。できれば、この事を内緒にしてくれるとありがたいです」


 「なんか大変そうですしね。いいですよ」


 「……ありがとうございます」


 「戸土間はいわくつきの場所でもあるから、調べたくなる気持ちもわかります」


 「………戸土間の悲劇というやつですね。地震さえ起きなければ、あの工場も爆発しなかった。地盤が崩れる事もなかった。たくさんの人が生き埋めになる事も、餓死する事もなかった」


 「いまだに見つかっていない遺体もあるみたいです。そのせいで、ここが市として、また機能するまでに、相当の年月がかかってしまいました」


 「もしかしてあなたは、戸土間の出身者ですか?」


 「いいえ、まったく。全然♪」


 「……あなたお名前は?」


 「花房聖です。ここの土地開発にかかわっています」


 「ああ、聞いた事があります。“企業家”の人ですよね。土地開発、技術開発、企業経営を一気にこなせるプロ。デベロッパーとの横のつながりも強い。あなたのことをトップと慕う者は多く、あなたと横のつながりがある者達を含め、花房グループと総称するモノは多い」


 「まあ、いつまでもトップに居座る気もないですけどね。いずれ別の人間に席を譲ります」

 

 「ならお聞きしたい。この戸土間の地に、ベイクELSA、またはELSA銀行が関わっていた別荘か建物があれば、教えてくれないでしょうか?」


 「ELSA?昔はあったけど、いまはないですね。昔、この戸土間の地には、あの“例の工場”がありました。そして、その工場を建てる際に、多額のお金をELSAが融資したのは記録に残ってます。まあでも、その建物も、今はただの道路になってしまいましたけど」


 「なるほどね……」


 「なので、あの事件以降、ELSAは1度も戸土間に関わってはいないんです」


 「そうですか……」


 「お役に立てなくてすみません」


 「いいえ。充分興味深い話でした。どうもありがとうございます」


 「こちらこそ、どうも」


 

 そして加賀城は、聖と一緒に森の外へと出た。

 すると聖がこんな事を加賀城に言った。



 「なんなら電話で聞いてあげましょうか?私と一緒に組んでるデベロッパーの仲間なら、どの建物にELSAが融資してるかについて、なにかわかるかもしれません。業界の事は業界に聞けってね♪」


 「手間でなければお願いします」


 「わかりました。ちょっと待っててくださいね」



 聖はスマホを取り出し、さっそく電話をした。すると10分ほどで通話は終了する。



 「加賀城さん。ELSAが関わっている情報の載ったリストを私のスマホに送ってもらったので、あなたのスマホに送ってもいいですか?」


 「わかりました、いいですよ」



 さっそく加賀城は、聖にメールアドレスを教えた。すると、間もなくして、データが送られてくる。



 「ありがとうございます。ほんとうに助かりました」


 「いいえ。まだ夕方ですが、帰る際は転ばないようにお気をつけて」




 そして聖は去っていった。

 加賀城も、いったん帰ろうとしたが、リストのトップに載ってた別荘が、戸土間と隣接した市にあったので、夜になるかもしれないが、行ってみたのだった。


 1時間後……。


 その別荘の前には、水の入っていない噴水があった。

 でも、別荘自体はきれいなブラウン色で、高級感があふれていた。周りは森で囲まれている。さきほどの戸土間市よりかは、広さ的には狭い森だった。

 

 ビンゴだった。

 この別荘には屋根裏があって、そこには、誰かが最近住んでいた、そんな形跡があった。

 だけど、それ以上にすごい発見もあった。




 また森に埋まっていたのだ。

 今度は白骨遺体だった。





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