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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十二章 遅咲きの桜の真ん中で
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フタタビの出会い


 5月5日 12:10分過ぎ。



 福富神子からウィッグを借りたまといは、次に、赤橋町内にあるショッピングモールへと向かって、洋服売り場の前で足を止めた。

 いつも着ている七分袖のシャツにジーンズだと、少し不安があったので服を買いに来たのだ。

 碧は、まといが着そうな服は把握しているわけだし……。


 洋服売り場の店頭には、シルバーの網目状のカートが置いてあって、そのカゴにはSALEと張り紙がしてあった。そして、そのカゴの中には、SALE品の服が雑に積まれてあった。どれも500円だ。


 「うーん」


 でも、そのSALE品はどれも無地ばかりで、これだと、またおんなじような服装になりそうだった。

 


 「うーん」


 「お悩みですか?」


 「えっ?」



 いつの間にか隣には、茶髪でやたらと眼光の鋭い、黒スーツの女性が立っていた。

 そう、加賀城である。



 「お悩みですよね?」


 「えっ、えっと……お手頃な値段で、イメチェンできるタイプの服はないかなって思って」


 「ああ、このカゴの中に入っているのって、どれも無地ですしね。これだと、イメチェンしようにも限界がありますね」


 「そうなんです。いま着てるのだって、七分袖のただのシャツだし」


 「もう5月に入ってしまったので、重ね着でごまかそうにも、少し蒸し暑いので、ガーリーかフェミニンを目指すのだったら、やはり、シャツではなく、もっとゆったりとしたラインのワンピースの方がいいかと」


 「うーん、ワンピースには手を出したくないです。私服のまま仕事することが多いので、汚れても目立たない格好がいいかな」


 「ああ、ワンピースだと、醤油のシミひとつだけでも、滑稽に見えてしまいますからね。それなら、サロペットパンツに、ゆったりタイプのドルマンTシャツでボーイッシュに決めてはどうでしょうか?」


 「ボーイッシュですか」


 「今のあなたの格好だと、七分袖のシャツにしろ、ジーパンにしろ、体にフィットしたタイプのものなので、ゆったりとしたラインに変えるだけでも、違うかもしれませんね」


 「なるほど」


 「なので、サロペットのほかにも、サルエルパンツか、裾口が大きめのガウチョパンツもいいかもしれませんね。その場合は、ロゴの入ったシャツと合わせれば、よりボーイッシュさが際立ちますよ」


 「そうですね。それがいいかもしれないです」



 まといは、ドルマンタイプの七分袖のシャツ数点と、サロペットパンツ、あとガウチョパンツも購入した。

 まといは加賀城に対し、お礼を言った。



 「ありがとうございました。参考になりました」


 「それはよかったです」


 「そういえば、あなたはどんな服を買う予定で?」


 「いいえ。服には用はありません。興味があるのはキャスケットタイプの帽子です。目元まで隠れるタイプの帽子ですね。あとサングラス。レンズの部分が、淡いオレンジのタイプです。真っ黒いサングラスにするよりかは、そんなに怪しまれないかなと思って」


 「変装でもする気ですか?」


 「ええ………。外の空気を吸わせてあげたいんです。でも、人の目があるから……」


 「?」


 「おっと、すみません。関係のない話でしたね」


 「いえ、別に……。とにかく、アドバイスしてくれてありがとうございました。それじゃあ、いきますね」


 

 そしてまといは加賀城にお辞儀をし、去っていったのだった。



 「……………」



 加賀城は懐から革製のメモ帳を取り出し、7ページ目を開いて、こう書き込んだ。



 頭の傷。質素な服。痩せ型。性格・控えめで真面目寄り。



 蔵本ワカコの証言と一致しているし、こんな時間帯にこのような場所にやって来れるのは、主婦か、ただ偶然会社がその日だけ休みだったか、それか、仕事場に長時間缶詰にされるタイプの職についていないかのどれかだろう。


 まあ、昼休みに、仕事場の近くにあるコンビニに昼食を買いに行くサラリーマンやOLはいるかもしれないが、でも、彼女は私服だった。

 それに、腰のポーチには、やたらとズッシリとしたものが入っているように見えたし…。


 もちろん断定はできない。質素な服を好む人は多いし、ポーチの中にやたらとゴチャゴチャとものを入れてしまうタイプもいるので、それでパンパンに見えてしまっただけかもしれない。

 だからといって、中身を見せろと言うわけにもいかない。

 カメラが入っていたところで、被害者を撮ったとされる写真のデータが残っていなければ、証拠にはならない。


 でも、この赤橋町のショッピングモールに来たということは、この近辺に住んでいるのかもしれない。それか、隣町か。



 こうやってメモに記しても、また“例の現象”が起きてしまったら、もうどうしようもないが…。



 「……………」


  

 ほかに手立てを考えるにしても、今はとにかく鹿津絵里に集中したい。

 品川かなめにも、いい兆候が出始めたので、ようやくにして彼女を救う事ができるかもしれないから。




 大丈夫、きっとうまくいく。


 



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