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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十二章 遅咲きの桜の真ん中で
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お金も貯めないといけないけど・・・。



 5月5日 10時20分。



 ひさしぶりに写真の仕事を再開したまといは、コンビニを撮影しに、家を出たのだった。

 コンビニの店内はもちろんのこと、外観を含む様々な角度のものを撮影し、データを送って本日の仕事を終了した。


 本当にひさしぶりだったので、もしかしてもう仕事をくれないのではと思っていたのだが、全然平気だった。

 今回の仕事をくれた漫画家さんが言うには、気の合わない人に仕事を頼むとトラブルになるリスクは高くなるし、足元を見られて撮影料を釣りあげてくる人とかもいるので、まといがまた仕事をできるようになったのなら、これからも贔屓にしていきたいらしい。実にありがたかった。


 でも、自首してしまったら、今度は永遠に写真の仕事ができなくなってしまうわけで、せっかく贔屓にしてくれたのに、気持ちを踏みにじっているようで、胸が苦しくなってくる。




 お墓を27人分建てるためには、墓石の値段だけではなく、土地の使用料も年間でかかってしまう。自首した場合、年間で払うのは困難になってしまうので、永代供養込みの契約料を一括で払えば、多少は割高になってしまっても、何十年経とうが、お墓も撤去されないし、管理もしてくれる。


 もう10人以上殺してしまった身なので、自己満足のために27人分建てるのはもうやめ、広めの場所に、大きめのお墓を建てる方を検討し、サラも一緒にその中にいれてあげるのもいいのかもしれないと、最近では思ったりもしている。その方が、自首する時期を早められそうだからだ。そうすれば、500万は超えても1000万以内に抑える事はできるだろう。


 いずれにせよ、まだまだお金が必要だった。

 

 「…………………」


 とりあえずまといは、いったん帰る事にした。バイトを探すためである。あの家にもノートパソコンがあるので、ネット検索が捗りそうだった。




 でも、その帰りの途中で呼び止められた。

 振り返るとそこには、御影テンマがいた。



 

 「あっ……」


 「おひさしぶりね、蒼野さん」


 「あっ、本当におひさしぶりですね。あと、歩けるようになったんですね」


 「ええ。おかげさまでね」


 

 テンマは、おっとりとした笑みを浮かべている。

 


 「で、蒼野さん。同年代の女性とうまく話せるようになったの?」


 「えっ?」


 「ほらっ、病院で会った時に、悩みを話してくれたじゃない。同年代の女性と話すのが苦手って」


 「ああ、たしかにそんな話しましたね」


 

 碧とどう接していいか悩んでいた時期に、あの病院でテンマと会って、悩みを打ち明けたのだ。



 「で、少しはうまく話せるようになったの?」


 「うーん、人間関係に対しては、相変わらず神経質になりすぎちゃうっていうか」


 「というと?」


 「この縁を大事にしたいなって思えば思うほど、逆に自分をさらけ出せないっていうか」


 「……………」


 「自分の嫌な部分や劣っている部分を知ってほしくないんです」


 「なるほどね。で、結局うまくいかないと……」


 「………………ええ」


 「相手に嫌われないために偽りの自分を演じてしまうのは、誰だってしている事でもあるから、それ自体は悪い事ではないけど、いつかはボロが出る。だって、嘘をつき続けるのは疲れるしね」

 

 「…………そう、ですね。ボロが出てしまったからこそ、うまくいかなかったのかも」


 「違うわ」


 「えっ」


 「ボロが出てしまったのに、いつまでも本当の自分をひた隠しにしようとしたから、うまくいかなかったんじゃないの?」


 「…………………」


 「もしも私が“その人”だったら、悲しいわよ。悲しくて仕方がない。大切な人ならなおさらね」


 「…………………」


 「で、蒼野さんはこんなところで何をやっているの?」


 「えっ、あっ、写真の仕事です。マンガで使う背景用の写真を撮ってたんです」


 「ふうん。じゃあ、忙しいの?」


 「いえ。今から帰るところです。仕事を探したいんです。体調に負担がかからない仕事を」


 「そういえばうっすらと額のすみのところに傷がみえるわね。髪の毛で隠れてて見えにくいけど……」


 「ええ。ケガをしてしまったんです。カサブタは取れてきたけど」



 同じところを2回もケガしてしまったので、傷が塞がるのにもっと時間がかかるのではと思ったが、このままいけばもっと早く痕もなくなりそうだ。



 「なら、バイトしてみない?」


 「えっ?花屋のですか?」


 「ううん。家政婦みたいな仕事かな」


 「えっ?」


 「私の友達がね、いまふさぎ込んでて、家事も掃除もしないどころか、朝食もまともに取ろうとしないの」


 「そっ、そうなんですか……」


 「ほっといたら大変だと思わない?」


 「まっ、まあ……」


 「よかったぁ。じゃあ、引き受けてくれるのね」


 「そのふさぎ込んでいる人は、この事については、了承しているんですか?」


 「ううん。でも大丈夫。嫌とは言わせないから」


 「そっ、そうですか」


 「じゃあ、今日からお願いね。で、その人の家の住所はね……ちょっと、スマホ貸してくれない」


 「えっ、はい」


 

 まといは懐からスマホを出して、テンマに渡した。するとテンマは、スマホの中にすでにあったメモ帳の機能を使って、住所を打ち込んだ。

 そしてスマホをまといに返した。

 

 そのスマホに打ち込まれた住所を見て、まといは驚愕した。



 「じゃあ私、花屋の仕事があるから………」


 「ちょっ………あの………」


 「お金はその人に支払わせるから安心して。じゃあね」


 「ちょっ、待って、ちょっと………」




 そしてテンマは、足早に去っていった。



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