表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二章 御影テンマと稲辺頼宏
15/487

御影テンマの事情3



 御影(みかげ)テンマは、実は心臓に大きな爆弾を抱えていた。



 でも、生まれながらにして心臓が悪かったわけではない。

 10歳の時、実父(じっぷ)による徹底的なまでのネグレクトが原因で、心筋梗塞で死にかけたのだ。

 

 実父は男の子が欲しかった。だから女の子が生まれた事が気に入らなかった。そして、その不満を歪んだ形でテンマへとぶつけた。

 

 母が近くでテンマを見ている普段などは、口下手を言い訳にしてテンマを徹底的に無視し、一緒に遊んであげようとは決してしなかった。

 母が出かけている時などは、偶然を装って回転イスを遠くからテンマへと何度もぶつけたり、舌打ちを聞こえるようにしたり、遠回しなやり方で、テンマの存在を強く否定し続けたのである。


 そしてテンマは心筋梗塞になり、ネグレクトが発覚した。

 もちろん母は、実父をいっさい許そうとはせず、テンマを引き取って離婚した。



 それから1年間、母はいくつものバイトを掛け持ちしながら、テンマを養った。

 そしてテンマが11歳のある日、母は優しい男性と出会い、再婚した。

 その男性というのが、この花屋ペイズリーの店長だった。



 母と義父との暮らしは、裕福とは決していえないものではあったが、何1つ不満のない幸せな生活だった。


 でも、その3年後に彼は死んだ。心不全だ。不健康な食生活などいっさいしていないというのに、彼の人生は早く終わってしまった。


 母が亡くなったのは去年である。同じく心不全である。もともと健康なタイプではなかった事と、過酷なバイトの掛け持ちが原因で、心臓の循環機能が少しずつ悪くなってしまっていたらしい。

 

 

 だから花屋は、そのままテンマが継ぐ事になった。




 花屋は週休2日制ではあるが、心臓の事があるので、その休みの日を使って週1で大学病院まで通わなければいけない。

 循環器内科と、あと心療内科である。

 なぜ心療内科にも通わなければいけないのかというと、心臓はストレスが原因でも悪くなるからだ。根性でなんとかしようにも、誰かにバカと言われたら簡単にムカついてしまうように、ストレスの種はどこにでも存在している。

 それが積もりに積もれば、体に不調がきたしてしまうというわけだ。



 診察の予約はいつも、土曜の午前中に入れている。

 


 今通っている病院は、とてもいい病院である。

 加賀城密季(・・・・・)という女性にここの病院を紹介される前は、病院ではなく診療所に通っていた。そこの診療所の医師がとても感じが悪く、やたらと副作用の強い薬ばかり出すので、苦手でしかたなかった。


 でも、今は体の調子はとてもいい。

 血液の循環も問題なし。過度なストレスさえなければ、日常生活にも支障はないと主治医からのお墨付きである。



 「……………………」



 だけどあの高校生の死は、予言のような気がしてならない。

 

 あの火事で大勢亡くなってからというもの、テンマの心の奥にずっと引っかかっていたものがあった。

 

 もっと自分があの時、勇気を持って行動に出ていれば、少しは違った未来があったのではと思うのである。


 でも、怖くてできなかった。

 

 それを罪だというのなら、やはり、いつかフォーカスモンスターに殺されるのかもしれない。




 そして2時間後。




 診察が終わったのでテンマは会計フロアの方へと向かった。すると、加賀城密季を見つけた。


 加賀城密季。

 刑事ではあるが、彼女は少々特殊な課に所属している。

 たしか、自殺対策専門の、精神科警課という名の課だ。

 日本は、毎年約2万人の自殺者がでるほどの、世界でも上位クラスの自殺大国と呼ばれているので、その対策のために作られたのが、加賀城が所属している精神科警課だ。

 被害者遺族の心のケアをしたり、自殺未遂の人が、再び自分で自分を傷つけてしまわないように、親身になって相談にのるのが彼女の仕事だ。


 その関係で、テンマは加賀城に出会った。



 「こんにちわ、御影さん」


 

 加賀城はテンマの方へと体を向け、近づいてくる。

 テンマはそんな加賀城に対し、平静を装おうとした。でも、どうしてもあの高校生の顔が頭によぎってしまって、不安がにじみ出た表情になってしまう。



 それを察してか、加賀城は「どうかしましたか?」と尋ねたのだった。

 するとテンマは…………。






 「死にたくない」






 「えっ?」



 「もしも私が取返しのつかない事をしでかしたとして、それでも死にたくないって思ってしまうのって、図々しい事なのかなって?」


 


 フォーカスモンスターに狙われてますなんて言っても信じてはもらえないかもしれない。そんな気持ちからか、妙に遠回しな言い方になってしまった。

 でも加賀城は茶化したりはしなかった。



 「間違わない人間なんているんでしょうか?」



 「えっ?」


 

 「どんどん間違えとは言いません。そのせいで誰かを傷つけてしまうのならよけいにね。でも、自分の犯した間違いに気づけたのなら、今後はそのような事が無いよう正す事だってできるでしょう?」



 「でも…………」



 「それでも、あなたに死ねと簡単に言える人がいたとしたら、その人は妄執に囚われた哀れな人かもしれないですね」



 「じゃあ………」



 「私は、あなたがとてもやさしい人だと知ってます。誰もあなたの事など恨んではいないですよ」



 

 テンマは、加賀城の目が少しだけ光ったように見えた。

 だけど、すぐに勘違いだと思うようにした。

 


  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ