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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十一章 薔薇の麗人
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蒼野まといの現在3


 そしてまといは、またこのホテルへと戻ってきた。


 本当は福神出版からの帰り道に、充電器を買いたかったのだが、急に、貧血にも似ためまいを覚えたので、寄り道せず戻ったのだ。


 聖はいなかった。まだ仕事中なのだろう。

 

 本当はすぐに横になるべきだったが、福神出版であんな話を聞いたあとでは、そんな気分にはなれなかった。なので、作業台のうえに置きっぱなしだった木の板を組み上げ、お城を作り始めたのだった。


 安静にするにしても、ずっとベッドのうえだと腰も痛くなってしまうので、暇つぶしにドールハウス的なものでも組み立てたいと聖に言ったら、作業台ごと用意してくれたのである。だから、木の板をイチから切って、お城を作る事にした。


 それに、完成したお城を写真で撮ったら、素敵だと思ったのだ。

 お城が完成したら、この作業台の地面にそのままリアルな砂を敷き、レプリカの木を植える予定だ。




 「………………………」




 やはり碧の事が気になる。

 無理をしてでも充電器を買ってくればよかったといまさらながら後悔した。

 スマホなら、ネットのニュースも見れるから、どんな風にいま騒ぎが起こっているのか、実際に確認する事だってできる。


 確認しないままだと、安心する事だって永遠にできやしない。

 もう2人の関係が修復不可能だったとしても。


 「…………………」


 すると、聖が帰ってきた。

 いつのまにか23時になっているではないか。



 「まとい、まだ起きてたんだ?」


 「うん…………」


 「ご飯は食べたの?」


 「ううん?まだだよ」


 「じゃあなにか頼もうか。このサーモンのカルパッチョとかおいしいよ」


 

 聖はまといにメニュー表を渡した。



 「私は、焼きおにぎりとかでいいんだけど……。で、ほうれん草の胡麻和えと、あと、イカの輪切りを適当に炒めて、副菜として食べるの」


 「それいいね。わたし、いい居酒屋知ってるよ。甘タレで焼いたおいしい焼きおにぎりがメニューにあるの。今から出かけようか♪」


 「でも私、安静にしてないと……」


 「私がそばにいるし、安心して寄りかかっていいよ♪それに、ずっと閉じこもったままだと息が詰まるだろうし。だから、外の空気を一緒に楽しもう♪」


 「…………うん、わかった」


 まといは、聖へといったんメニュー表を返し、外へ出かける準備をした。




 その居酒屋の近くまでは車で行った。

 車はコインパーキングに停めた。あとは歩きである。そして居酒屋の中へと入った。

 

 お通しとして出されたほうれん草の胡麻和えは、いい感じの甘さがあっておいしかった。

 もちろん、焼きおにぎりも最後までおいしく完食した。お酒は体に悪いので呑まなかったが…。

 気になる事があるとすれば、この居酒屋の近くに、喫茶店CAMELがあるという事だ。

 碧が元気かどうか、聞きに行きたい気分だったが、以前炭弥に、いちいち間に人を経由するなと怒られた事があるので、正直に答えてくれないかもしれない。

 碧を傷つけてしまった今となっては、炭弥に敵認定されてしまった可能性も無きにしも非ずなわけで……。


 いや、考えすぎだろうか。

 自粛ウォーカーからわざわざ庇ってくれたくらいだから、もしかしたら答えてくれるかもしれない。



 

 「上の空だね」



 空になったお皿を前に、聖はイタズラな笑みを浮かべている。

 


 「あっ、ごめん」

 

 「私の知り合いにね、ようやくソシャゲ断ちが出来た人がいるんだけど、まずね、思い切ってアプリをスマホから削除してみたんだって。でも、最初の1週間の頃は、本当に苦しかったって言ってた。だって、せっかく課金して揃えたキャラをドブに捨ててしまったわけだからね。で、結局、すぐにまた同じソシャゲを最初からやり直したんだけど、でも、以前のような“熱”は起きなかった………」


 「またやり直してしまうくらいに好きだったのに?」


 「そう。でも、また同じような状態に戻すためには、一生懸命イチからレベルを上げ直さないといけないし、メインストーリーもイチからプレイしないといけない。武器だって集めなおさないと、強くはなれない。そして、そのSS武器を集めるためには、同じレイドボスを何度も何度も倒してポイントを集めないといけない。だからね、面倒くさくなっちゃったの」


 「……………そうなんだ」


 「そして気づいたの。自分は、なんてくだらない事に情熱を注いでいたんだってね。で、いつの間にか、プレイをしない日々の方が当たり前になっていった」


 「なんで、急にそんな話を私に?」


 「人間関係も同じだと思うんだよね。過去にはもう戻れないよ?」


 「………………………」


 「だから、いまは上の空でもいいよ。でもいつか、私と一緒の方が当たり前になる」


 「………………………」


 「それに、私は強い。心も、体もね。だから、まといにストレスを与える事だってしないよ」


 「うん………そうだね。ごめんね、上の空で」


 「いいよ別に。まだ始まったばっかだしね」


 「うん」


 「じゃあ、帰ろう」


 

 聖はカードでお会計を済ませ、まといの肩を抱いて店を出た。

 

 「…………………」




 

 喫茶店CAMELに寄りたいと、結局言えずじまいになってしまった。



 


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