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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十一章 薔薇の麗人
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蒼野まといの現在1




 とあるカラオケショップの1室にて、歌も歌わずに2人の女が、テーブル越しに向かい合って座っている。

 テーブルのうえには、体に悪そうなアイスソーダや、チキンバスケットが並べられている。


 女の1人は、花房聖だ。


 もう1人の女は、チェックの七分袖のシャツにジーンズ。あと、帽子を目深にかぶり、サングラスまでしている。

 髪は、やたらとウェーブがかっていた。



 「花房さん、お招きどうも」


 「二野前さんこそどうも♪とても50手前には見えませんよ」


 「ありがとう、ちっともうれしくないけど」


 「ハッハッハッ。いやみじゃないですよ」


 「年齢云々を口にしている時点で嫌味だって事を学んだ方がいいわね。女性に対しては特にね」


 「それは失礼しました。学ばせていただきます♪」


 「まあ、待ち合わせ場所をカラオケ店にしたってのは、感心したけどね。料亭を指定してたら来なかったわ。聞き耳立て放題だしね。それに、たまには、パリッパリのスーツ以外も着たいしね。肩が凝るから……」


 「でも、総理になったら、毎日着るようですよ、スーツ」


 「総理ね……。あんまり魅力は感じないかな。日本を変えたいって意識はあるけれど、永田町は頭でっかちの仙人が多いじゃない?」


 「という事は、やはりまずは都知事選って事ですか?」


 「そうね。そして、国民のみんなに、政治について関心を持ってもらわないと」


 「言うのは簡単ですが、歴代の都知事の人達は、成功した試しがないですよね」


 「そうね。国民っていうか人間って、100%の成功のみを求めがちだから、50%、60%程度だと、満足しないどころか、簡単に非難する。そして、ダメ人間の烙印を押す。でもね、それでも、誰かが先頭になって、前に進まないといけないの。でないといいかげん手遅れになってしまう。あなただって、それがわかっているから、戸土間一帯の権利を強引に買い占めたんじゃないの?」


 「……そうです。このまま現状維持を続けてたら、日本はそう遠くない未来、食い物にされます。だからいいかげん、日本は“準備”をしないといけません」


 「他国だってバカじゃないからね。アメリカがかろうじて日本の抑止力にはなってくれているけれど、他国は、そんなアメリカを無視して、日本への挑発を繰り返している。アメリカという盾を、どうやってかいくぐるかばかり考えている」


 「戸土間の悲劇も………そんな他国が用意したジョーカーだった」


 「そうね、失敗に終わってしまったけどね。でも、今度は成功するかもしれない。だからあなたは準備しているのよね」


 「私にも恋人ができたので、その人のためにも、平和な未来を作っておいてあげたいんです」


 「そのために、わたしと仲良くしたいと?」


 「そうです。だからまずは、くだらない話でもして、体に悪そうなジュースや脂っこいカラアゲでも一緒に食べようかなって。友達として」


 「……………別にいいけど、だからといって仲良くなれる保証はできないかな」


 「ええ、構いませんよ。友達になるのにも、合う合わないがありますので」



 花房聖はニッコリと笑みを浮かべた。


 


 





 そして、ホテルの最上階へとエレベーターで移動し、ずっと連泊している部屋番号の扉の鍵を開け、中へと入った。そして、細長い廊下を歩いて、ベッドが置いてある空間へと出た。


 「おかえりなさい」


 まといはベッドに腰を下ろしている。

 七分袖の白いシャツにジーンズ、あとエプロンを身に着けている。

 指は、白い絵の具に塗れている。


 まといの近くには、ビリヤード台のような作業台が置いてあり、そのうえには、めいっぱい新聞紙が敷かれている。

 さらに、その新聞紙のうえには、白く塗られた手のひらサイズの、それぞれ形の違う小さな薄い木の板が、規則正しく並べられている。



 「おかえりなさい、聖さん」


 「呼び捨てでいいよ、まとい。それに聖さんだと、ちょっとしたニュアンスの違いで“生産”にもなっちゃうし、“凄惨”にもなっちゃう」


 「でも、こっぱずかしいし…………」


 「こっぱずかしくても言わないと慣れないよ??」


 「……………そうだね。わかった」


 「頭の傷口の方は、ようやく固まってきたって感じ?」 


 「うん。体力もそれなりに戻ってきた。だから、私としては、いま働きたくてしかたがないんだけど」

 

 「まあ、あとちょっとだけ我慢してね。私があのUFOトンネルの中からまといを見つけていなければ、衰弱死していたかもしれなかったんだから。それくらいにまといは弱り切ってたの。だから、あとちょっとだけね♪」


 「うん…。聖、ありがとね。あっ、そだ。手ぇ洗わないと」


 「私が洗ってあげようか?優しく、丁寧に、1本ずつ……」


 「なっ?えっ、いいよ。子供じゃないしね」


 


 まといは照れながらも立ち上がり、流しの方へと歩いて行ったのだった。




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