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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十一章 薔薇の麗人
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幻惑



 加賀城は、あともう少しで、フォーカスモンスターの正体が掴めると思っていた。

 掴めるといっても、鹿津絵里の方ではなく、あのトンネルで出会った方のフォーカスモンスターである。

 諸見沢勇士が殺されたあの日に、フォーカスモンスターもまた死にかけているのは、ここまでの情報を総合してもあきらかだったので、その日に緊急搬送された人とかがいないかを、都内の病院をまわったりして、調べたのだ。


 あのディレクターが死んだのが赤橋市内だったので、東京高匡総合病院が、加賀城にとっての大本命だった。

 そう、あのディレクターを殺したあとに、近くの東京高匡総合病院へと、傷の治療のために行った可能性である。

 複雑骨折とはいかなくても全身打撲、それにくわえ、頭に大きなケガを負った患者が運ばれてきていないかどうかを聞いた。まあ、鼻を折ってもそこから出血はするので、その部分もキチンと付け加える事も忘れなかった。

 でも、ヒットしなかった。


 「………………………」


 加賀城は浮き沈みの激しい性格ではないので、やたらめったらショックを受けたりはしないが、これに関しては、ただ大きく首を傾げ、解せないといった表情を浮かべた。

 

 はたして、これはいったいどういう事なのか。


 もしかして、出血はしたが、たいした怪我ではなかったという事なのだろうか。

 だからこそ病院に行く必要もなかった。それなら説明がつくが………。

 

 でも、だったらなぜ、死んだはずの人間が消えたなんて話が出たのか。

 そもそも、たいしたケガじゃなかったら、その場で気を失う事もなかったはず。重体といっていいレベルの大出血をしたからこそ、死んだと誤解した人間が出たのではないだろうか。


 だから、フォーカスモンスターが大怪我をしたのはたしかである。

 となると、またもや“例の現象”が起こったのかもしれない。そう、諸見沢勇士のアシスタントの事を、みんななぜか忘れてしまったあの“例の現象”である。


 

 この現象、思った以上にやっかいである。



 ようやくにしてボロを出し始めたのかと思ったのに、全然だった。

 鹿津絵里に比べて行動に狡猾さがないのはたしかだが、その短所を完璧といっていいくらいにカバーしているのが、この例の現象である。


 どちらを優先して逮捕すべきかははっきりとは言えない。

 鹿津絵里を放っておいたままだと、品川かなめはずっとマズイ立場のままである。ヤマトテレビの事件の影響で、夕桐高等学校への世間の関心こそ薄れたものの、遺族の深い悲しみが癒える事なんて決してないのだから、品川かなめに対しての憎しみも消えたりはしないはずだ。

 だからといって、こちらのフォーカスモンスターの方を放っておいていい理由にはならない。

 実際、あのディレクターがああいった形で殺されてしまっているわけだから。


 

 今回の件で特に思ったのは、こっちの方のフォーカスモンスターは、積極的に悪人を探しまわって殺しているわけではなく、そういった運命の人に引き寄せられているのだという事。

 これはこれで厄介な存在だった。


 つついてみるべきは、よくよく考えるまでもなく、福富神子のはず。

 彼女は何かを隠している。

 でも、フォーカスモンスターの血の痕跡を消した人物とは関係ないようにも思える。

 福富神子もバカじゃない。

 あんな場所でフォーカスモンスターが死にかけるとわかっていたならば、もっと他の手を考えていたはずだ。

 

  

 ネットの情報によると、もうじき死ぬ予定の人に限っては、フォーカスモンスターの正体を知るような事になっても、忘れるといった現象は起こらないらしい。


 「………………………」


 やはり、鹿津絵里を先に調べるべきか。

 鹿津絵里は、フォーカスモンスターの正体を知ったうえで、あのカメラを奪っているので、知らないはずがないからだ。

 鹿津絵里を優先してしまうと、また別の場所で誰かが死ぬのを放っておく事になってしまうが、こう手詰まりだと、そうせざるを得なかった。


 

 でも、不安があった。

 自分にも“例の現象”がすでに起きてしまっている可能性である。

 なんだか、フォーカスモンスターへとつながる最重要人物に、もう会っているような気がしてならないのだが、それが誰だかわからないのである。


 違和感……というべきか。


 この違和感を感じ始めたのは、そう、21日の夕方頃に、東京高匡総合病院へと行った時だ。

 この病院では、緊急搬送された人がいないかどうかをちゃんと調べているので、その点に関しての記憶は、完璧である。

 だったらいったい、何について忘れてしまったのか。





 

 すると、トモイからスマホに電話がかかってきて、猿手川義信を逮捕したと報告してきた。




 猿手川といえば、財務省で審議官をしていた男である。

 でも、わざわざそれを、このトモイが報告してくる意味は何なのだろうと加賀城は思った。馬瀬の冤罪が晴れた時点で、赤佐内建設関連は捜査2課に任せるべき案件である。

 


 でも、トモイはこんな事を言った。



 『俺……なにか大切な事を忘れてしまったような気がするんですよ。しゃらくせぇ話だけど』


 「ほう………その大切な事とは?」

 

 『よけいな人間が3人、猿手川が潜伏していた建物の中にいた。さらに、猿手川の部下が何者かによって何人か殺されているし、壁に穴が空いた部屋に、第3者が囚われていた痕跡もあった。そう、液体のようなもので痕跡を消し去ったような跡が残っていた。あと、ご丁寧にも、俺が欲しかったUSBが何者かに持ち去られている』


 「その猿手川の部下の死因は?」


 『ナイフによる近距離での刺殺に加え、首の骨を折られた事による頸椎損傷(けいついそんしょう)のショック死。あと、殺傷能力の高いエアタッカーで、俺の手がぶち抜かれた』


 「つまり、フォーカスモンスターとは別人」


 『そう♪フォーカスモンスターにそんなよけいな武器はいらないからね。地震を起こして壁に穴を開けられるくらいだし』


 「囚われていたのは、フォーカスモンスターとは別の人間。犯罪心理から考えても、部屋に閉じ込める前に、カメラやスマホなんかは特に、早々に取り上げるはず。だから、フォーカスモンスターが外からやって来て、壁に穴をあけた」


 『なるほどね……。でも、やっぱりまだ、何か忘れているような気がしてならないんだよね』


 「私達がフォーカスモンスターの正体を探ろうとするとよけいに“例の現象”は働くみたいなので、フォーカスモンスターの顔を間近で見たか、あるいは、顔は見てはいないけれど、フォーカスモンスターの正体に、あなたが感づいてしまったかでしょうね」


 『というと?』


 「あなたの知り合いの中に“いる”という事です…………」


 『……………』



 電話越しに、トモイの深いため息が聞こえた。

 


 

 

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