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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十章 歪の女優
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不幸にする事しかできない


 同日4月22日。PM20:00。



 あの建物からの脱出に成功したまといは、ふたたび森を抜けてバスへと乗った。

 その時点で疲労がピークに達していたが、もうじき復讐のすべてが終わると思うと、家にそのまま帰る事が出来ず、バスを乗り継いで福神出版へと向かったのだった。


 福神出版の出入り口から出てきた福富神子は、さすがに心配の色をその顔ににじませたが、まといは『大丈夫です』と言ってUSBを渡した。



 「あと、このボイスレコーダーにも音声が録ってあるので渡しますね。BECKがどうのこうのって言ってました。あと、真壁って人と電話してたみたいです」


 「真壁っ!!真壁ですって???」


 「知ってるんですか??」


 「……………私の夫になるはずだった人がフリーのライターだったのだけど、彼に“戸土間の件”について情報を流していたのが真壁だったはず………。それなのにどうして」


 「……………そうですか。なら、この件は福富さんに任せます。その真壁って人に罪を償わせるための記事が書けるのなら、私はそれでいいです」


 「でっ、でも、あなたは?あなただって、なにか目的があったから私のところに来たんじゃないの?自分の手で成し遂げたいとは思わないの???」


 「いいえ。私はあなたを信じてますから、わざわざ自分の手で成し遂げようとは思いません」


 「……………あなたは………あなたは本当は何者なの?」


 「えっ?」


 「最初、戸土間関連の復讐目的かと思ったけれど、蒼野なんて苗字、聞いた事がないの。苗字が変わった可能性も考えたうえで、当時の死亡者リストから親戚筋を辿っては見たけれど………蒼野という苗字はやっぱり見当たらなかった」


 「…………………」


 「あなたは上辺美鈴と友達だった。上辺美鈴は、円城寺サラと同じ学校に通っていた。円城寺サラは、あの児童養護施設育ちだった」


 「…………………」


 「だから、上辺美鈴が通っていた学校も調べたんだけど………あなたの名前も、そして写真すらも卒業アルバムにはなかった」


 「…………………」


 「フォーカスモンスターの正体を探ろうとするとね、“そういった現象”が起こるみたい。どんなに根気強く調べても、あなたへとつながる痕跡が消えてしまう」


 「………………そうですか………」


 「いずれにせよ、あなたの事は誰にも言わないわ。あなたは私の事を信じてこのUSBを渡してくれた。だから………私もあなたを信じてる」


 「…………ありがとうございます」


 「じゃあ、なにかわかったら電話で連絡する。だから、あなたはしばらく休んでちょうだい」


 「わかりました」


 

 という事で、まといはそのまま家に帰宅したのだった。

 本当ならそのままベッドのうえで眠りたかったのだが、碧が玄関前でスマホを片手に持ちながら立っていたので、無理そうだった。



 「うそつき…………」


 「……………………」



 彼女の目には、いっさいの感情が感じられなかった。

 そんな彼女の顔を見て、まといの胸にひそかに空いていた小さい穴から、ゴロゴロとナニカが転げ落ち、バウンドする。

 そのナニカを拾い上げる気力は、もうまといにはなかった。

 疲れていたとかは関係なく、積もりに積もった罪悪感が、ここに来てプツリと糸となって千切れてしまったからだった。

 


 「ねえ、どこにも行かないって言ったじゃない」


 「……………………」


 「体調が回復するまで安静にする。そんな簡単な事がなんでできないの?」


 「……………………」


 「いいかげんにしてよ……………いつもいつも…………」


 「……………………」


 「私を気遣うような事言っておきながら、まといちゃんは嘘ばっかだよね」


 「……………………」


 「なんで………なんで何も言わないの???」


 「………もう無理だよ」


 「……………えっ??」


 「本当は最初からわかってた。私はあなたを不幸にする事しかできない」


 「は?なに言って…………」


 「あなたが悪いわけじゃない。全部私のせい。そして、あなたのそばに居続ける限り、それは変わらない」


 「もしかして出ていくの?どこにも行かないって言ったよね?」


 「言ったよっ。でも、よりにもよって私が、あなたの笑顔を奪ってるっ。そんなの友達って言えるの???だから、これ以上一緒にいちゃいけないんだよ」


 「……………住むところないのに?」


 「構わない。荷物はすぐにまとめる。大きめのリュックに入れれば、全部入ると思うから」


 

 まといは、クローゼットの奥から登山用の大きいリュックを取り出し、下着やら着替えやらを全部その中に詰めこんだ。

 質屋の娘がクレーンゲームで取ってくれた“もっちりひげクマくん”はさすがにリュックの中に入らなかったので、脇に抱えてなんとか持って行く事にした。



 「じゃあね、碧さん」


 「……………………」


 

 そしてそのマンションから出て行ったのだった。




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