御影テンマの事情2
そしてテンマと碧は、児童養護施設跡前に到着する。
相変わらずこの場所は、背の高い塀と門だけは残ったままだった。もう敷地内の建物はすべて焼けてしまったというのに。
その脇を時々、近隣の住民達が何事もなかったかのように素通りしていく。
なんだか、無理やり無関係を装っているといった感じだった。きっと、そうする事で、罪悪感に苦しまなくて済むからだろう。
テンマと碧は、門の前にお花を供え、両手を合わせて目をつぶり、亡くなった子供達の魂が安らげるようにしばらく祈った。
そして……………。
叫び声が聞こえた。
この世のものとは思えない叫び声である。
まるで、無理やり喉をねじ切って絞り出しているかのような、聞くに堪えない声だった。
いったい何事かと思いながらテンマと碧は、叫び声が聞こえた方角へと顔を向ける。
すると、高校生ぐらいの背丈の男子が、目を血走りにさせながら、向こう側から駆けてきたのである。
周辺を歩いていた通行人達は、当然彼を見て驚いた。
彼はあきらかに気が触れていた。
だから、このまま彼が走り去ってくれたなら関わらないでいられたのだが……。
だが、彼は足を止めた。
そして、周りの人達を次々と指さしてこう言ったのである。
「ギャーハッハッハっ!!お前も、お前も、そしてそこのお前もっ!!呪い殺されて死ぬんだぁぁぁぁぁっ!!そうっ、フォーカスモンスターは絶対にお前らを許さないっ!!!マスコミに踊らされて子供達を苦しめたお前らをっ!!!1人残らず、フォーカスモンスターは絶対に殺すっ!!!」
彼に指を差された人達は全員、2年前、いやそれ以前からずっとこの近所に暮らしている近隣住民達だった。
なので、それ以外のただの通りすがりや、碧は指を差されなかった。
大きな風が吹く。
警察を呼ぼうかどうか碧が迷っていると、なんと、児童養護施設の敷地内の方から、高い塀を越えて、ある1本のでかい棒がクルクルと空高く飛んできた。
そしてその棒は、急に垂直に動きを止めたかと思うと、高校生の脳天へとそのまま直撃したのだった。
さらに、棒の先端が鋭利だったためか、その棒はそのまま頭部を深く抉った。
それを最後に、その高校生がこれ以上叫ぶ事はなくなったが、通行人達の悲鳴が、重なるようにしてあたりへと響いたのだった。
テンマは逃げ惑う事はせずそのまま留まってはいたが………。
その高校生には見覚えがあった。
2年前、児童養護施設の事を、犯罪者生産工場呼ばわりしたその人だった。