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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十章 歪の女優
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確実に誰かいる


 同日4月20日 PM16時32分。独身寮。


 アラキが“かなり長い買い物”に出かけている中、加賀城のスマホに1本の電話がかかってくる。

 赤橋署の刑事からだった。

 加賀城は赤橋署の中では腫れ物扱いだったはずなのだが、ここ最近の、刑事達の加賀城を見る目は変わりつつある。

 いまだに財務省職員の逮捕を止めようとしてくる上層部の汚い権力に、振り回されっぱなしだからなのかもしれない。

 


 電話口から車の走行音が聞こえてくる。

 赤橋署の刑事は加賀城に、ヤマトテレビの防犯カメラの映像について、こう報告した。



 『諸見沢勇士のここ最近の活動については、さっきアンタのスマホに送ったデータの通りだよ。警備室が1階だったおかげで、防犯カメラの映像はそれほど苦労せず手には入った』


 「ありがとうございます。データの方はさっそくさきほど読ませてもらいました。あと、こんな状況の最中、防犯カメラの映像のチェック、本当に助かります。で、あの日、あのディレクターは建物の中にいたんですね」

 

 『ああ、そうだ。防犯カメラにしっかり映っていたよ。歩容認証も一致している。だけど、鹿津絵里はいなかった』


 「そうですか………」


 『変装してても歩き方が一致していたらすぐにわかるんだが………』


 「……………あと、諸見沢勇士の仇を取りそうな人間については何かわかりましたか?」


 『彼には姉がいるけれど、彼女には無理だな。ディレクターが犯人だとニュースで流れるまでに12時間以上はかかっているし、その時点ですでにあのディレクターは死んでしまっているわけだからね。しかも事故で』


 「でしょうね。でも、私はそれでも知りたいんです。彼の死を間近で見る事が出来た人物について……」


 『悪いが、防犯カメラにはそれらしい人は映っていなかった。それに諸見沢勇士は“アシスタントすら雇わずに”1人でいくつもの収録に臨んでいたらしい。で、その収録に参加したメンバーの話によると、彼に好意的な人は1人もいなかったらしいよ。彼のために復讐しそうな人も、1人もね』


 「そうですか………」

 

 『……じゃあ、また何かあれば遠慮せず言ってくれ。いいかげん、警察上層部の“膿”にもうんざりしてきたし………』


 「わかりました」


 『じゃあな』



 そして電話が切れた。

 

 加賀城は、首を右へ左へと傾けて首周りの筋肉をほぐし、コーヒーをマグカップへと注いだ。


 そして彼女は、諸見沢勇士の事件について、こう思考を張り巡らせた。


 「…………………」


 諸見沢勇士の死の原因は、ディレクターサイドが、ありもしないいじめの事実をでっちあげたためだ。そのため、視覚障害者の女の子の日常が脅かされようしていたから、そこでトラブルが起こってしまった。そしてこの時、諸見沢勇士はボコボコにされ、この女の子は1度東京へ…………。



 東京へ…………。


 いったいどうやって?



 諸見沢勇士はこの時、この女の子と一緒には同行していない。

 それはなぜかというと、ほかのスタッフ達を引きつける役に徹していたからだ。だからこそ、この女の子は逃げる事が出来た。

 でも、彼1人だけではスタッフ全員をその場に留めさせるのは無理だった。結局、女の子の後を追ったスタッフが、数名ほどいたらしい。

 加賀城はその場にいたわけではないので、正確な詳細については100%掴めるわけではないが、これだけはわかる。


 目の見えない女の子が数人の追っ手から確実に逃げるためにはやはり同行者が必要だ。走って逃げていた場合はなおさらだ。

 それなのに、同行者についてはみんな覚えていないらしい。


 「…………………」


 加賀城はさっそく、青森に住んでいる女の子の自宅へと電話し、母親から女の子へと電話を代わってもらった。

 ディレクターの死に関しては簡潔に事故と説明し、あの日、どういう手段で東京に行ったのかについてを尋ねると『運送会社のトラックに乗せてもらった』と答えてくれた。

 同行者についても尋ねたのだが、案の定、『よく覚えていない』と返されてしまった。


 加賀城は女の子に礼をきちんと言ってから電話を切った。


 

 「…………………」



 これでもう決まりである。

 ほんの3日前の出来事を覚えていないわけがないのだ。

 フォーカスモンスターは、3日前のロケにも参加していた。

 そしてその翌日に彼が死んだ。


 さらに言うならば、このフォーカスモンスターが鹿津絵里かどうか、かなり疑わしい。









 翌日、同じ刑事からこんな電話がかかってきた。



 “死んだはずの人間が消えた”と言い張る複数名のヤマトテレビのスタッフがいるという話だ。

 昨日や一昨日の段階で、すでに耳に入っていた話ではあったが、あまりにもバカげた内容だったので、加賀城にはその事を伝えずスルーしていたそうだ。

 それがなぜ今日になって言おうと思ったのかというと、ヤマトテレビの上の階まで調べにいっていいという許しが出たかららしい。


 耐久性にはまだ問題はあるが、強い地震さえ起きなければ崩れる事はないという判断が下されたからだった。


 だから問題の階へと、のぼってみたのだという。

 すると、何者かによって血液を消されたような痕跡があった。


 どうやら、みんなが避難したタイミングを見計らって、血液を消すための液体を撒いたらしい。

 

 防犯カメラのチェックをした結果、その時間帯、明らかに怪しい人物こそカメラには映っていなかったが、階段エリアのある方へと歩いていく清掃員の姿があった。

 その清掃員は帽子を目深にかぶっており、大きめのマスクをしていた。

 その清掃員が映っている映像を、加賀城は刑事からスマホへと送ってもらって確認したが、背が高い割には、とても不自然なふくよかな体系をしていた。

 その人物は、清掃道具の載ったワゴンを押しながら、例の階段エリアのある角をゆっくりと曲がっていったのである。


 「……………………」


 肉襦袢(にくじゅばん)を着込んだ福富神子にしては、背丈が違いすぎるような気がした。


 

 もしかしたら、物事を複雑に考えすぎていたのかもしれない。

 あの時福富神子は、協力者が鹿津絵里であると口を滑らせたフリをしたと考えるべきなのだろう。


 捜査を攪乱(かくらん)させるためである。


 この清掃員は、“死んだはずの人間の痕跡”を消すために、あの時点ですでにヤマトテレビの中に潜り込んでいるので、あの階段エリアにて“誰かが死にかける”事をすでに想定していたと考えるべきだろう。


 死にかけるとわかっているのなら、鹿津絵里はあえてそんな選択肢を選んだりはしない。


 つまり、この清掃員と、“死にかけた謎の人物”は、鹿津絵里とはいっさい関係ない。




 もしかしたら、あのトンネルの中で会った人物と同一人物の可能性すらあった。



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