トモイの片鱗
翌日の4月20日。PM13:30過ぎ。
昨日の福神砲の影響で、今日はとんでもない事になった。
なんと、ヤマトテレビのCEOと執行役員専務、あとゼネラルプロデューサーが逮捕されたのだ。
そして、赤佐内建設にもようやく東京国税局の調査が入ったが、それに関しては今さらといった感じである。
財務省職員との癒着が報じられた際も、さんざん国税局側は二の足を踏んでしまっているので、もうあの建物の中をくまなく探し回ったところで、塵ひとつ出て来やしないだろう。
いや、それがあえてわかっているからこそ、ようやく国税局も動き出したのかもしれないが……。
猿手川義信の方はどうなったのかというと、いずこへと行方をくらませてしまった。
そして今、ビルとビルの隙間にて、トモイが何者かと電話をしている。
「ええ、空港にはわかりやすいように人を配置しておきました。えっ、なんのためかって??猿手川を泳がせるためですよ」
トモイは、ふところからUSBを取り出し、片手でポンポンとキャッチをくり返す。
「あなたもわかっていると思いますが、猿手川は他にもヤバい事に関わってる。だから、飛行機ですんなり脱出なんてさせない。赤佐内建設が彼に提供したアジトがどれか特定し、そのアジトからさらなる情報を入手する」
『…なるほどな』
「人身売買していたのも彼だ。“商品番号”までご丁寧につけてね」
『で、キミの探し人はそのリストの中にいたのかな?』
「………いや。写真付きのものは3年前のものまでしかなかったから、これじゃあ、どれが彼だかわからない」
『そうか………』
「だけど、相変わらず男色の顧客はいるようだから、調べてみる価値はあるかもしれないけど…」
『………………』
「もちろんあなたに損はさせませんよ。そして、あなたもわかっているはずだ。ゴキブリに情なんてかけても無駄。根絶やしにしないとこの日本が変わる事はない」
『……………そうだな。だが気をつけたまえ。タイミングを見誤ったら君も死ぬかもしれない。ヤツラが招いた“悲劇”はたくさんの怪物をすでに生んでしまったのやもしれないのだから』
「そうですね………。たしかにあんだけ人が目の前で死んだら、怪物にもなりますよね?」
『……………………』
「気を抜いたら僕だっていつ殺されてしまうかわからない。だけど、僕自身をルアーにするくらいの覚悟で誘い出さないと、いつまで経っても終わりなどきませんよ。しゃらくせえ話だけど」
『わかってる。私もとっくのとうに覚悟はできている』
「それを聞けただけでも充分です」
トモイはそこで電話を切った。
「さ・て・と。どうするかね………」
今の状況、少々やっかいだった。
福富神子を侮りすぎていたのかもしれない。
こうならないために、こちらの方で情報をストップさせていたというのに……。
そう、彼女をルアーにすべきタイミングは今じゃない。
あまり多くの人間をルアーにしすぎると、ほかのルアーに獲物がかかっても気づけない可能性は高くなってしまうし、獲物にルアーを“食いちぎられてしまう”ケースも出てくる。
だからこそ、“処理すべき順番”を誤ってはいけないのだ。
「猿手川を張るべきかもね……彼女には悪いけど」
トモイは、物陰から喫茶店CAMELの様子を窺った。
昨日と同じく、今日も通常営業といった感じだった。
朝方、風椿碧が入店するのを見かけたが、それ以外でおかしな様子は見られなかった。
「俺の勘も外れたのかもしれないね………」
そしてトモイは去っていった。