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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第十章 歪の女優
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加賀城密季の現在


 同日4月19日 PM15:43。


 

 加賀城はいま独身寮に住んでいた。

 それはなぜかというと、警視正への昇進式の際に全国ネットを使ってネット民やらなにやらに勢いよくタンカを切ったのだが、それを気に入ったドМ集団が、彼女のマンションの前で待ち伏せをするようになったからである。だから逃げるようにしてこの独身寮に転がり込んだのだが、このマンションはエレベーターがあるし、築5年以内のマンションの一室なので、部屋もきれいで、特に不便はなかった。

 もちろんテレビも備え付けだ。


 まあ相変わらず、車いす生活は続いてはいるが……。


 有給をむりやり取らされてからもう1週間なので、もうそろそろ精神科警課に復帰してもいいだろうと思い、城士松にさっき電話をしたのだが、『あなたはバカですか』と言われ、電話を切られてしまった。


 まあたしかに、小指と薬指だけとはいえ骨折してしまったので、1週間そこいらじゃ治らない。ここで調子に乗ってブレイクダンスでも踊ろうものなら、せっかくくっつき始めている骨も、パキッと折れてしまう事だろう。


 だからといって、このまま何もせずだと、体がなまってしかたがないのである。

 ちなみに、あれから毎日この部屋で、アラキと一緒に過ごしている。



 「アラキさん………ダンベル買ってきてもらえませんか?」

 

 「お前なぁ……肩甲骨にもヒビが入ってたろ?ダンベルなんか、もってのほかだ」


 

 アラキは加賀城にコーヒー入りのマグカップを渡した。



 「でもですよ、昨日の医者の話によると、ヒビに関しては、85パーセントほど治ったと言っていました」


 「100パーセントじゃない限りだめだ。俺の経験上、アンタみたいなことを言って戦場に再び赴いた兵士は、みんな帰らぬ人になってるよ」


 「なら私はどうしたらいいのでしょうか?」


 「おとなしくしてろって事だな。まあ、ヤマトテレビがいまあんな状態になってるから、落ち着けって方が無理な話かもしれないが」


 「諸見沢勇士が殺され、雷まで落ちて、ヤマトテレビは散々といったかんじですね。でもなんとかようやくにして、旧本社ビルを使っての放送が再開されるらしいですが………」


 「ふん、どうせどのチャンネルも似たようなバラエティしかやってないんだから、ひとつくらいテレビ局が潰れようが、俺はどうだっていいがな」


 「そうはいきません。1000人以上が無職になってしまいます。暴動が起きてしまいますよ」


 「ふん、そうだな。こりゃ失礼」



 とはいえ、旧本社ビルは1000人も人が入りきらないようなので、3分の1の社員が今、自宅待機状態である。このままだと、あれこれ理由をつけられて、待機要員がクビにされてしまう勢いだった。

 さっきやっていたニュースによると、諸見沢勇士を殺した犯人は、同日、タクシーの乗車中に、不審な事故に遭って死んでしまったそうだ。


 こんな偶然、滅多にない事だろう。


 事故が起きたのは赤橋市内という点も気になる。

 諸見沢勇士を殺しておいて、いったい赤橋市に何の用があったというのか。

 身を隠すにしても、もっと別の町でもよかったはずなのである。


 気になるのでこっそり調べたいところだが、こんな状態の体では無理そうだった。

 



 「トモイは、センシビリティ・アタッカーのチカラなんてなくても、気配を消す事ができる」




 突然アラキが加賀城にそんな事を言った。



 「…………というと?」


 「アンタがトモイの事を信用できないのはそういうところがあるからだろ?喜怒哀楽の感情が見えにくいどころか、いっさい見えない事もあるからだ。だからこそ、アンタのチカラでも、トモイの気配を掴めない瞬間も存在する」


 「……行動にはつねに感情が伴うものですが、彼はそうじゃない。よっぽどつらい経験をしない限りは、あんな風にはなったりしないでしょうね」


 「でも、あんたはヤツの事、信用していないんだよな?」


 「耐え難い過去の持ち主ほど、秩序とはなにかを、独自の解釈で考える傾向にあります。トモイさんの事を完全に悪だと思っているわけではありませんが、彼もまた、私に気を許していないのはたしかですよ」


 「……………そうか」


 「でも、彼には学ぶべきところもあると今気づきました。彼のように自分自身の感情の抑制をコントロールする事が出来れば、センシビリティ・アタッカーによる体力の消耗も、少しは防げるかもしれません」


 「なら、どうする?修行のためとはいえ、へたに体を動かしたら、また骨に響くぞ」


 「いいえ、この辺を散歩するだけで結構です。私は心を無にした状態のまま、聴力に集中します。色んな音を聞き分けられるよう、訓練をするんです。それだけでも効果はあるかと……」


 「そうか、わかったよ。ならつきあおう」



 さっそくアラキは、加賀城の車いすを押し、外へと出たのだった。



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