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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二章 御影テンマと稲辺頼宏
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御影テンマの事情1



 ミチ&ワカがテレビデビューしてからそう日にちも経過していない1月の終わり。

 


 とある花屋の店先では、赤い椿の花が凍てつく寒さの中でも、煌々(こうこう)と輝いていた。

 


 ここはそう、花屋ペイズリーである。

 ここの花屋は、閑静な住宅街に面した歩道沿いにあるため、駅近の花屋よりかは客足は悪いようにも思えるが、お花の品質もよく、宅配サービスもやっているので、そこそこ儲かっている。


 というより、今はネット注文の時代なので、宅配をやっていなければ、とっくにここの花屋は潰れていただろう。


 

 店長の名は、御影テンマである。20代前半のおっとりとした女性だ。


 店内にはいま、彼女しかいない。

 テンマは、人があまり来ない時間帯などはいつも、レジ横のパイプ椅子に座っている。体質的に貧血な事が多いからだ。



 すると店の中に、ボーイッシュな格好をした女性が入ってきた。

 この彼女、つばが広めのキャップを目深(まぶか)に被っているため、目は帽子の影で隠れている。

 髪はイエローブラウンでセミロングだ。


 


 「あら、風椿(かぜつばき)さん、いらっしゃい」




 テンマはゆっくりと腰を上げ、風椿と呼んだ女性の方へと歩いていく。

 風椿碧(かぜつばきみどり)。それがこの女性の名前だ。

 実は女優である。



 

 「んー、あいかわらずここはいい匂いだね」




 (みどり)はゆっくりと伸びをしながら、店内の空気をたんと味わった。





 「風椿さん、今日はどんな御用で?」




 2人は昔、高校で同級生だった。まあ、昔と言っても、卒業してからまだ5年も経っていないが。

 そんなテンマの問いに対し、碧はこう答えた。



 「えーとね、ふと思い出したのよ。私と同じ時期にデビューした女の子の事をね」



 「その子がどうしたの?」



 「自殺したの」



 「まあ…………」



 「でもね……自殺するような感じにも見えなかったし、ましてや、麻薬に手を出すような子でもなかったんだよね」


 

 「じゃあ、冤罪か何かなの?」



 「それはわからない。ただね……たった1人だけ冤罪の線で調べてた記者の人がいてね………あ、そうそう。福神出版の人。あの人、なにか知っているふうだったな」


 

 碧は、頭からキャップを取り、髪を軽く整えた。

 すると、蛍光灯のもとに彼女の瞳がはっきりと晒される。

 とても意志の強そうな眼だった。



 福神出版というワードを聞いたテンマは、ハッとした表情を浮かべ、こんな事を言った。



 「私もその人の事は知ってる。福富(ふくとみ)神子(みこ)さんよね?スラリとした背の高い美人の人。前にここへお花を買いに来たことがあるわ。ほらっ、2年前、正確にはまだ2年経ってないけれど、あそこの児童養護施設が大火事になったでしょ?彼女、そこへお花を手向けるためにここへ寄ったのよ」



 「ああ、ここから近いもんね。そっかー。やっぱりあの事件、なんか裏があるのか……。悲惨な事件だったもんね」



 「中学生か高校生くらいの子供達がニヤニヤと笑いながら、あそこは犯罪者生産工場だって言ってたわ。あんまりよね。私はどちらかというと、その子達にゾッとした」


 

 村八分(むらはちぶ)という言葉があるが、あの火事が起きる直前までは、近隣住民全体で、誹謗中傷、いやがらせ、スーパー、コンビニでの入店拒否を、あの施設の子供達に対し(おこな)っていたのである。



 御影テンマは、積極的な参加こそはしなかったが、あまりにも当時の住民達が恐ろしくて、声を大にして意見する事がどうしてもできなかった。


 

 そして………27人もあの児童養護施設で死んでしまった。



 だから、罪滅ぼしにはならないかもしれないが、毎年この時期にはお花を供える事にしてる。


 

 碧がこの花屋へやって来たのも、同じ目的だった。

 冤罪で死んでしまった同期の子の分と、あと、児童養護施設の子達へのせめてもの慰めとして、あの門の前にお花を供えたかったのである。



 なので碧は、テンマと2人で行く事にした。

 すると、ちょうどいいタイミングで、住み込みの頼宏(よりひろ)が帰ってきてくれたので、テンマは彼に店番を頼んだ。

 

 稲辺頼宏(いなべよりひろ)。とても背の高い筋肉質の男性だった。

 テンマの話によると、7ヵ月くらい前からこの花屋で働き始めたらしい。



 テンマは、スノードロップという名の白い花を花束にして、碧とともに児童養護施設跡へと向かったのだった。





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