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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二章 御影テンマと稲辺頼宏
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悪循環



 深夜。


 閑静な住宅街の中を、男子高校生数名がやたらと甲高い声をあげながら歩いている。

 彼らの中央には、気弱そうな同級生の男の子がいた。その男の子は、あきらかに怯えた表情をしていた。

 どうやら無理やり歩かされているらしい。


 彼らの目的の場所は、例の児童養護施設跡前である。


 そう、背の高い塀と門だけが残っている、1年と11ヶ月前に大火事が起きて27人も死んだ、あの児童養護施設跡前だった。



 「よしお前、いまからあの敷地内に入って死んで来いよ」



 気弱そうな男の子の背中が蹴飛ばされる。

 その男の子の転がるさまを見て、他の男子高校生達は、気が狂ったように笑い声をあげていた。



 そう、この男の子は、彼らに毎日のようにいじめられて、つらい日々を送っていた。

 そしてついに、彼らの思い付きで死ぬ事を強要されているといったわけだ。


 男子高校生達は、さらにこんな事まで言った。



 「お前みたいなウジウジした気持ち悪い生物は、犯罪統計的に見ても、無差別の通り魔になる可能性が高いんだよ。つまり、犯罪者予備軍ってわけ。だからさ、自主的に死んでくれた方が、世の中のためになるってわけ」



 「そっ、そんな…………」




 根拠などいっさいないあまりにもひどすぎる暴論だった。

 でも、いじめとはそういうものである。どんな暴論でもまかり通ってしまうものだ。

 そして、そんな彼らを、進んで止めようとする者などよほどの事でない限りは現れない。だって、次のターゲットにされたくはないからだ。


 だからこそ、この男の子はいつまでも解放されないまま、いじめられ続けている。



 

 「ほらっ、死ねよっ!!!!!!」



 「でっ、でも、でも門は閉まってるから入れないよっ!!!」



 「だったら無理やりよじ登れやゴラアアアアアアアアっ!!!」



 「ひっ、ひいっ」




 男子高校生達は、男の子の体を軽く、そして執拗に小突きながら、よじ登る事を強要する。




 「さっさと、この犯罪者生産工場(・・・・・・・)の中で死んで来いやあああああっ!!!!」



 「やっ、やめてよっ、痛いよっ」



 「ここはな、お前みたいなゴミを、投棄する場所なんだよっ!!!ほらっ、お前のために縄用意してやったから」





 男の子の体へと縄がぶつけられる。その縄には、かぎづめが取り付けてあった。

 だからといって、無理難題なのは変わりなかった。だって、しょせんはただの高校生だから。


 それでも、男子高校生達は、男の子を小突くのをやめようとはしない。




 


 「ねえ」

 


 

 でも、そんな時だった。

 蒼野まといが現れたのだった。



 男子高校生達は驚愕する。

 なぜなら、人がやって来る気配なんてなかったからだ。それに足音もしなかった。それなのに今、蒼野まといは、かなりの近距離に立っている。


 もちろん彼女は、いつもの大きなカメラを手にしていた。




 「なっ、なんだお前はっ」



 「ねえ、その男の子を小突く行為は、犯罪じゃないの?」



 「は?何言ってんだてめえ」



 

 せっかくの楽しみ(・・・)を邪魔されたその男子高校生達は、まといに敵意を向けるだけしかしようとしない。




 「わかりやすく言いましょうか?自殺を強要するのは、自殺教唆罪だと思うんだけど?」



 「はあ?何言ってんの?こいつはね、将来犯罪を犯す予定なの。だからね、今から自主的に死んでもらおうってわけ。これのいったいどこが罪なわけ?」



 「どんな理由を並べ立てようと、あなた達がやっている事は自殺教唆。犯罪者はあなた達の方」




 「だーかーらー、てか、高校生相手にお姉さん、なにマジになっちゃってるわけ?こんなのただのおふざけじゃん。うざ」



 「…………おふざけか。たまにいるよね。人を死に追いやっておきながら、おふざけとか言う人。きっと、罪悪感なんてないから言えるんでしょうね」



 「はーん、だーかーらー、俺たち、ただここで遊んでるだけだってばぁ。あんた、頭おかしいんじゃないの?」



 「じゃあ、あなた達の頭の中は普通なの?相手の気持ちになって物事を考えられないの?小突かれたら痛いって事くらい、あなた達の歳になれば、わかるはずなんだけど?」



 「は?うざ?てか、俺ら、小突かれるような立場には絶対ならないから心配しなくても大丈夫っすっすー。あーゆー、おーけー?」



 「……………………………………」



 「あれ、だまっちゃった。俺たち論破しちゃった?ギャーハッハッハッ!!!」



 

 「…………………たいするだけ無駄か」



 「はい?」



 「………………改心なんて、期待するだけ無駄か…………」



 「そうそう、期待するだけ無駄無駄。ギャーハッハッハッ!!!」



 「………あなた達の事は覚えてるわ。あなた達が、犯罪者生産工場(・・・・・・・)なんて口にしなければ、いやがらせがより加速したりはしなかった。まあ………それでも結局は同じだったかもしれないけれど」



 「は?」



 「…………少しは真っ当になってれば、見逃してあげようかとは思ってたけど、無駄だったみたいね」



 

 まといは、カメラのシャッターに指を添えた。




 「はい?さっきからお前、何言って……………」




 そしてまといは、最後にこう言ったのだった。








 「あなた達みたいな人間は、死ねばいいわ……………」







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