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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第九章 ウロボロス
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諸見沢勇士の価値1


 4月14日。PM14:34。


 バラエティ番組の打ち合わせの関係でいったん碧は、まといの運転でテレビ局へと入った。

 このテレビ局の番組は、4チャンネルを押せば見られる。ヤマトテレビという名のテレビ局だ。


 打ち合わせは2時間ほどかかると言われたので、まといはテレビ局の中をぶらつく事にした。

 とは言っても、ヨソモノがふらつける場所はさほど多くはないが。

 

 ちょっとでもヘタな行動を取ったら、即警備員が飛んでくるだろう。

 防犯カメラも、廊下だけでも端の方まで等間隔に設置されているので、監視されている気分である。




 「君さ、風椿さんの付き人なんだって?」




 廊下の向かい側から、仮面ラ○ダーのドラマに出て来そうなスラリとしたイケメンがやって来た。

 



 「あっ、あなたは………どちら様ですか?」


 「えっ?あらぁ……俺の事、知らないのか……。そっか。俺はね、諸見沢勇士っていうんだよ」




 仮面ラ○ダーに出て来そうなイケメンこと諸見沢勇士はまといに自己紹介をした。

 まといも、彼に自分の名前を教える。



 「私は蒼野まといです。あの……なんか、すみません。芸能人にはあまり詳しくなくて……」


 「いいって、いいって。たぶん、こういう思いあがったところが、碧ちゃんはキライなんだなって思うし」


 「んっ?碧ちゃん???仲がいいんですか??」


 「ああ、俺……彼女と付き合いたいなって思ってたんだけど、まったく見向きもされなくてね、で、最近はあきらめてる」


 「そういえば、イケメンには興味がないような事、言ってた気がします」


 「えっ、うわっ、まじかー」


 「碧さんなら、2時間くらい待てば打ち合わせ室から出てくると思うんですけど……会いますか?」


 「いや、そんなに待ってる時間はないし、なんか、いまさら悪いなって感じもするし」


 「そうですか」


 「うちのねーちゃんには、何事も諦めない事が肝心だと常日頃から教えられてきたけど、人間関係に対してはもっと慎重になるべきだったと反省してる。きっとうざかっただろうな、俺の事」


 「ただ性格的に合わなかっただけかもしれませんよ。私みたいに何事もやたらと神経質に捉えてしまうよりかは、明るくてひた向きな人の方がいいなって思います」


 「ううっ、まといちゃんは……優しいねぇ……」

 

 

 諸見沢は目をウルウルとさせた。

 


 「で、まといちゃんはなんで付き人なんかやってんの?そのかわいさならモデルでもやっていけるでしょ?」


 「いいえ、とんでもないっ。私みたいな地味な女……」


 「うーん、そうかなぁ」


 「それに碧さんには恩があって……タダで一緒のマンションに住まわせてもらってるんです。だから、彼女がわざわざタクシー乗り場を探さなくていいように、今は運転手みたいな事やってるんです」


 「へぇ、なるほどね~。でも、送り迎えの分の時給は出るの?」


 「とんでもないっ、そんなの私は求めてませんっ」


 「そっか、じゃあ、ほかにやりたい仕事はないの?モデルをする気がないならなおさら、付き人をこのまま続けても意味がないと思うけど?」


 「仕事はしてます。マンガの背景用の写真を撮る仕事です。場合によっては、1日短期の派遣よりも稼げます。1万とか」


 「いっ、1万っ!!??少なっ!!!」


 「ごめんなさい。私、ろくに大学も行ってないので、就職は思いのほか難しくて……1万稼げるだけでもバンバンザイなんですけど……」


 「ごめん、まといちゃん、謝らなくていいから。おれ、こんな仕事してるからさ、1万円とか少ないなぁって思っちゃったんだけど、失礼だったよ」


 「いいえ、大丈夫ですよ」


 「よくネットでも、諸見沢勇士は思いあがってるだの、お前が見ている世間はせまいだの言われるけど、ほんと、その通りだと思うよ。演技にも深みがないって言われてるし、やっぱり俺、もっといろんな事、知るべきなんだろうな」


 「あなたならできると思いますよ」


 「そっかー。じゃあ、今度の仕事も頑張ってみようかな」


 「ドラマですか?」


 「ううん、23時間テレビの仕事。今日も打ち合わせをしないといけなくて、ここに来たんだけど……。ちょうどこの廊下を進んで右へと曲がった奥の方に23時間テレビ専用のフロアがある。会議室も隣にある。まあ、23時間テレビ自体は7月の終わりにやるんだけど、タレントさんにもスケジュールがあるし、いまから必要な映像を撮りに行くところもある」


 毎年、人と人との繋がりをテーマに、募金を募りながら23時間ぶっ続けで色んな企画を放送する。今年は台風の被害が多かったので、ボランティア活動も当日、ライブ中継でおこなうらしい。

 あと、車いす生活を余儀なくされた子供や、視覚障害者の女の子のための企画もあるらしい。


 「そうですか。そっち方面の仕事は詳しくないから素人意見しか言えないけれど、やっぱり、その日に撮って、その日にテレビで流す……とかじゃないんですね」


 「そういう事♪映像を編集するのだって時間がかかるし、23時間テレビにはたくさんの人も出るから、よけいに、それをひとつの形にするのって大変なんだよね。でも、たくさんの募金が集まればそれだけ助かる人もいるし、意味のある事だと思う」


 「そうですねぇ。募金か……。私、そんなにお金がないから、頑張っても千円単位しか出せないけど」


 「いや、そんなに頑張らなくていいんだよ。10円、1円からでも、1000万の人が募金してくれたら、1000万集まるわけだし、まといちゃんだって、お金がないから、碧ちゃんのところで世話になってるんでしょ?」


 「私、知り合いのために立派なお墓を建ててあげたくて。だからお金貯めてるんですけど、でも、子供は好きだから、報われない子達の助けとかいつかしたいなって。あと、体が不自由な子達の助けとかもしたいです」


 「あっ、そうだ。だったらさ、俺のアシスタント、期間付きでやってみない?碧ちゃんの事2時間も待ってるなんてヒマでしょ?今日からじゃなくてもいいけど、お金も前払いで20万だす。せいぜい1週間程度だと思うし、俺、報われない子達のためにマジックも披露する予定だから、気心知れた子がバックアップにあたってくれると嬉しい。ねえ、ちょうどいいお値段だと思うんだけど。高すぎず、安すぎず………」


 「ホントですか?1週間で20万は結構助かります♪碧さんにも許しを得ないといけないけど……、じゃあ、明日からでいいですか?」


 「OK♪」


 

 そして諸見沢はまといのもとから去っていった。

 


 





 

 2時間ほどして碧がまといのもとに戻って来たので、まといは、次なる撮影場所へ車を走らせた。

 まといは車の中で、例の、諸見沢の件を話した。


 諸見沢の名が出たとたん、碧は、ギョッとした表情を浮かべた。

 諸見沢といえば、ずっとつきまとわれて鬱陶しいと思っていた相手だ。

 最近は会う機会が減ったので安心しきっていたのに………。


 「諸見沢さんはいい人ですよ♪」


 まといはニコニコと笑っている。


 現在PM17時14分。

 空は、どす黒い夕暮れ色といった感じだ。ライトをつけて走らないと結構危ない暗さだった。

 この後は、真っ暗闇の夜のシーンを撮る予定だ。

 取り壊し予定の廃ビルを特別に使わせてもらっての、アクションシーンである。

 登場人物の顔が暗闇でぼやけてしまわないよう、スタッフさんがクレーンのうえに乗って、窓の外から光を当ててもらっての撮影だ。


 「まといちゃんはさ、イケメンには興味ないんじゃないの?」


 「うん。顔はあまり重要視しない方だから」


 「じゃっ、じゃあさっ、なんでアシスタントなんか受けたの?」


 「ボランティアにも興味があるんだよね。まあ、私ができる事なんて限られているけれど、子供の世話とかは好きだし」


 「じゃあ、保育士の資格取りなよ」


 「保育士の人材不足はニュースにもなってるし、早いうちに取った方がいいのかもしれないけど、まだ未来の方向性が定まっていないっていうか……。保育園で子供の面倒を見るよりかは、体が不自由な子供達のサポートとかしたいなって気持ちもあって」


 「そっか………」


 「ごめんね。だからしばらくは、碧さんに甘える事になっちゃう。本当は、自分のしたい事なんて関係なしに、さっさと仕事を選ぶべきだとは思っているんだけど……」


 「いいよ、気にしないで。たしかに、世間一般の意見としては、『満足した人生なんて早々ないんだからアレコレわがまま言わず仕事を選べ…』かもしれないけど、私はね、まといちゃんには、人生の意味を見出せなくなるような選択はしてほしくないし」


 「………ありがとう」


 「アハハ、まあしょうがないか。明日から送り迎えはしなくていいよ。まといちゃんが相変わらずイケメンに興味がないって言うんだったら、私もとりあえずは安心だし」


 

 それに、諸見沢と一緒なら、1人になる事はないわけだから、安全面から考えても、そんなに心配は必要ないのかもしれない。

 本当は、こんな風に、彼女の時間を縛るような真似はすべきではないのだ。


 




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