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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第一章 はじまり
11/487

幕間




 冷え切った1月の昼の土曜日。



 

 家電量販店の店頭では大型テレビが横一列にびっしりと並び、画質の良さをアピールするために、音楽番組を今、流している。

 その音楽番組とは、夜の22時まで放送予定の長時間スペシャルである。

 

 なんと、この音楽番組を皮切りに、TOUTUBEで話題になっていたミチ&ワカがいよいよ顔出しでデビューとなった。

 4か月前、ワカの方が死んだとネットでは話題になったが、それは誤りだったとSNSで訂正された。


 作詞作曲は、ワカコが引き継いでする事になった。

 ミチルの遺品を譲り受けたからである。

 あの段ボールの中には、未完成の音源がたくさん入ったUSB数点と、アイディアノートが50冊ほどあったのだ。


 もちろん、ただの素人がそれを引き継いで曲を作るなんて、普通なら無理だろう。でも、ワカコはそれを成し遂げて、ここにいる。



 テレビ越しに見るワカコの瞳は、どんな悪意の持ち主でも壊せないほどの強い意志があった。



 寒空の中、誰もがワカコの声に足を止めた。


 

 加賀城密季(かがしろみつき)もまた、例外ではなかった。


 加賀城密季。黒のロングコートを靡かせてる黒づくめの女刑事だ。

 髪は茶色でロングヘア。

 顔は整っているが目つきが鋭く、眼光がやたら強いのが特徴である。 

 無表情がこの加賀城のデフォルトなのか、よっぽどの人でない限りは、彼女が何を考えているのか察するのは不可能だろう。

 ちなみに捜査一課の刑事…………ではない。



 「…………………………おっと」



 加賀城は、スマホを取り出し、いま何分か確認した。なんと、思った以上に足を止めてしまっていたのに気づいたので、心残りではあるが、その場をあとにしたのだった。



 でも…………。




 「とっとと車手配しろゴラアアアアアアアアっ!!」




 なんと、待ち合わせ相手の1人である女子高生が、銀行前で人質に取られてしまっているではないか。


 そう、銀行強盗である。犯人は1人だ。

 片手にはアタッシュケース。もう片方の手にはナイフを持っていて、このままだと彼女の首が掻っ切られる危険があった。


 警察はすでに来ていた。 


 犯人を囲うようにしてできた人だかりの1番前の方に、その刑事達はいた。

 加賀城の顔見知りの刑事も数名いる。

 赤橋署の強行犯係のいかつい刑事達だ。



 加賀城は特別驚いたような表情はしていなかった。

 いくら無表情がデフォルトであっても、もう少し焦った様子を見せてもいいものなのだが………。


 それでも加賀城は女子高生を放っておく事はせず、人だかりの間を縫うようにして掻き分け、前へと進んでいく。

 そして、刑事達のいる1番前の方へと出たのだった。


 加賀城の姿を見た刑事の1人が、げんなりとした表情を浮かべた。

 もしかしたら赤橋署では、加賀城は腫れ物扱いされてる可能性すらあった。

 でも、加賀城は構わず、犯人にこう言った。



 「すいません。その人を開放してはもらえないでしょうか?これからパーティーの予定が入っているんです。推薦合格おめでとうパーティーです。15人ほどの中規模のパーティーです。ケンタのお店にはすでに宅配を予約済みです。だからこのままだとその子だけ冷め切ったケンタを食べる羽目になります」



 「はいぃぃぃ?」



 犯人は、なんとも間抜けな声をあげてしまった。

 こんな緊張下で、ケンタがどうのこうの言い出したものだから、『こいつ頭おかしいんじゃね』と思ったわけである。



 

 赤橋署の刑事達も同様の事を加賀城に対し思った。

 でも加賀城は構わずこう続けた。



 「できれば今日のところはお引き取りしてもらって、後日改めて強盗に挑戦してもらえるとありがたいんですけど」




 「バカかてめええええええええええ!!!!!!」




 今度は、犯人と刑事達が同時に叫んだ。

 後日改めてだと?

 もうこの銀行強盗は、お金を頂戴した段階まで踏んでしまったわけである。ここで『じゃあ、また明日来るわ』と言ったとしても、無事に家に帰れるわけがない。

 

 加賀城はさらにこう続ける。



 「そもそも、なんで銀行強盗なんてしたんですか?店の中は防犯カメラだらけだし、どの時間帯に来ようが少なくとも客は5人以上はいるだろうから、人質を取るリスクもあると容易に想定できる。それに、支店長が金庫からお金を持ってくるまでの時間を足すと、とてもではないですが、スムーズに事なんて運びようがない。だからこそあなたは警察を呼ばれてしまって逃げられないわけですよね。つまり、あなたはバカです」




 「んだとゴラアアアアアアアアああああああ!!!」




 犯人の、ナイフを握る手に、さらに強い力が入る。

 それでもこの女子高生の首を掻っ切ろうとしなかったのは、自分がここから逃げ出すための駒を、自らの手で捨てるわけにはいかなかったからだ。



 普通、このような場所で、犯人を怒らせるような発言ばかり言うのは、逆効果を通り越して、愚かでしかない。


 でも、ほかの刑事達はわかっていた。

 この加賀城は、わざと怒らせている。

 もちろん、あの女子高生を死なせるつもりも毛頭ない事もわかっていた。



 すると、チャンスはようやく訪れた。



 気分でも急に悪くなったのか、犯人の顔が一気に青ざめ、一瞬だけ頭をがくんとさせたのである。

 それでも犯人はなんとか意識を保とうとするが、チェックメイトだった。




 ナイフが犯人の手から離れ、一直線に空へと飛んだ。

 加賀城の蹴りがヒットしたためである。



 そして、加賀城の鋭い瞳は確実に犯人の顔を捉えていて………。



 加賀城は、女子高生の手首を掴み、犯人からその体を引き剥がした。


 犯人はまだ、状況が理解できていないといった感じだった。



 しかし、もうおしまいである。


 

 足をすばやく加賀城にひっかけられたせいで体のバランスを崩し、犯人は派手に地面へと転がった。



 

 「かっ、確保だあああああ!!!」




 刑事達がいっせいに動き、犯人の自由を拘束する。




 そして最後に、加賀城は女子高生に対してこう言った。




 

 「さあ、ケンタを食べに行きましょう」





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