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誰にも言わない

作者: チャーリー大野

 今年8歳になるタンポポちゃんは生き物が大好きだ。


 動物図鑑なら一日中見ていても飽きない。


 たんぽぽちゃんは生き物についていつも考える。

 

 「いろいろな生物が居て、それぞれ個性的な形をしているなあ。体が大きかったり、翼が生えていたり。中には武器になる角や牙、あるいは毒を持っている生き物までいる。


 カエルは飛び跳ねたり水中を泳いだりして、いろんな虫を食べ放題。けれど蛇には弱く、見つかると直ぐ食べられてしまう。蛇はトンビや鷹に見つかれば、捕まり、やはり食べられてしまう。鷹でさえ雛や卵は他の生き物にとってはごちそうだし、いずれ死んでしまえば虫の栄養になる。


 不思議だ。どんなヘンテコな進化を遂げたとしても、やはりそしてそれは他の生き物と繋がっている。食物連鎖という形で。どんな自由な進化も、結局は神様の掌の上からは出られないってこと?」


 そんな風にたんぽぽちゃんは思うのだ。

生物は進化してきたという。初め単細胞生物が生まれ、そこからどんどん変化して、その過程で幾つもに枝分かれして、様々にその形を変えて来た。


 なぜ、そうなりたいと思うと角が生えたり、牙が伸びたりするのか。そうなるには始めからそうなる仕組みがあったはずだ。誰がそんな仕組みを用意していたのか、不思議でならない。進化は行きつく先が既に決まっているのだろうか?


 子供の中にはそのくらいのことは思う子がいるかも知れない、タンポポちゃんも、そこまでは普通だったのかもしれない。けれど8歳のある日、彼女は普通の子供たちと枝分かれした。


 一人、たった一人、こつこつと、「進化」というものを研究しだした。誰にも言わずひそかに研究した。言えばきっと馬鹿にされるからだ。


 そして、32年の月日が過ぎた時、ついに、その謎を突き止めた。40歳になっていた。


 彼女は自作の顕微鏡を使って、進化の秘密を解き明かしたのだ。


 その発見に至るには、たんぽぽちゃんのおじいさんの存在が大きい。


 おじいさんはとあるガラス工場に勤めていて、ガラスからレンズを作るのが彼の仕事だった。出来上がったそのレンズでおじいさんはたんぽぽちゃんに小さな世界を良く見せてくれた。たんぽぽちゃんは、その小さな世界が大好きだった。


 おじいさんがまだ若かったころは、ヨーロッパに比べ、その分野の技術で日本は大分遅れていた。そこで、オランダへおじいちゃんは旅立った。顕微鏡を作る会社で1年間研修を受けるためだ。

 おじいさんはオランダへ渡ると、そこで同じように顕微鏡の制作のためにやって来たアメリカ人の医学博士と友達になった。彼は細菌やバクテリアの研究のために必要な、超高倍率の顕微鏡の開発をするためにやってきていたのだった。


 彼の名はロイヤル・レイモンド・ライフと言った。


 彼がそこでの研修を終え、アメリカに帰る日、おじいちゃんにプレゼントをくれた。


 「ミスター野原、これは私が書いた超高倍率の顕微鏡の設計図だ。これで、どんな小さなものでも見ることが出来るだろう。私はこの技術を独り占めしたくはない、世界の医学の発展のために、これを広めたい。だからぜひ、きみもこの設計図を日本に持って帰って、この顕微鏡を造ってみてくれ」

 そう言って、おじいちゃんと固い握手をして、アメリカへと帰っていったのだ。


 おじいちゃんが、改めてその設計図を見ると、あまりに複雑で、当時の日本では到底、組み上げられそうになかった。


 やがて、おじいちゃんも日本に帰る日が来た。長い船の旅をして、日本に帰ってくると、時代は「電子顕微鏡」という、全く新しい技術の驚くべき高倍率の顕微鏡が作られるようになっていた。それを知ってか知らずか、ドクター・ロイヤル・レイモンド・ライフも翌年には亡くなってしまったらしい。


 会社でも、その博士の顕微鏡は複雑すぎるし、時代に合わないからと取り上げられなかった。


 こうして、その設計図はおじいちゃんの机の引き出しの中で、しばらく眠ることになってしまったのだ。


 タンポポちゃんがその設計図を見つけたのはおじいちゃんが亡くなって、その部屋の整理を手伝っている、16歳の時だった。


 「お母さん、おじいちゃんの形見分け、アタシこれが欲しい。このオランダ時代の日記。いいかな?」

 そうして、たんぽぽちゃんはその設計図を読むための基礎勉強から始めた。


 学校では地味で、あまり目立たないタイプのたんぽぽちゃんであるが。家では独学で、化学、生物学、電子工学、物理学、機械工学、必要な研究を何でもこなした。


 お年玉は全て、顕微鏡を作るための工作機械に消えた。


 タンポポちゃん24歳の時、それは完成した。その拡大率は驚異の21万倍だ。


電子顕微鏡ではそれ以上の倍率で物を視ることが出来るが、電磁波を照射しないと視えない、金属などは問題ないが生き物は死んでしまう。しかし、彼女の造った顕微鏡は電磁波を当てないので、生きたままの細胞が見える。


 そこで彼女は手始めに、培養液の中の自分の口内粘膜の欠片を見てみた。


 規則正しく並んだ細胞が見える。拡大して行き、一つの細胞の中を見てみる。ミトコンドリア、リソソーム、小胞体、ゴルジ装置などが見える。


その中心にある核を拡大して行く。染色体が見えた。これをほどいていくと2重らせんのDNAが見えるという事だ。?、何かうごめいている。


 23対ある染色体の内の一対だけが、まるで踊りを踊っているように動いているのだ。

 「小人を発見してしまった」そう思った。


 それは染色体であればそうであるはずの、Ⅹの形でなく、棒人間の形をしていたのだ。


それはしばらく踊った後、疲れたように動かなくなり、それをもっと拡大してみると、何のことは無いただのDNAだったと知れた。不思議だな、とは思ったが、何しろ初めての世界、そんなものかと思っただけだ。それから毎日いろいろなものを見た。その内、いつの間にか、その小人と意思の疎通が図れるようになった。彼女は自分の細胞からいろいろなことを学んだ。



 32歳でたんぽぽちゃんは結婚した。旦那様は海外出張が多く、なかなか子供に恵まれなかったが、その分、自分の研究は進められたので、それはありがたい事だった。


 40歳間近、子供のころからの疑問、そのの最終結論を出すべく、人体実験を自分の身体で試みる決断をした。


 旦那様は、半年ぶりに帰国し、しばらくは日本に滞在することが決まっていた。


 その晩、久しぶりにたんぽぽはピンク色のシースルーのネグリジェを着て、甘い匂いの香水をちょっとだけ付けて、旦那様の待つベッドへ入った。


 2か月後、やっと妊娠が確認できた。けれど、あの疑問点の最終結論はまだ分からない。


彼女の疑問、それは他でもない、「生物は何故進化出来るのか」と言う一点だ。


 彼女は生まれつき、一重の小さな眼をしている。旦那様もそのメガネの下は一重の小さな眼だ。当然生まれてくる子もそうなるはずだ。


しかし、二重のぱっちりした眼の子供が欲しいと思った時、神に祈るのではなく、自分のたんぱく質でできた小人にお願いしてみたらどうなのだ。


そうして、生まれてきた子供が、二重のぱっちりお目眼の子供だったら、生物の進化とはDNAがねじれてできた小人の力によるものだと断言できる。


 あれから自分のいろいろな細胞を自作の顕微鏡を通して観た、そして語り掛けた。小人たちは分かってくれたはずだ。


 やがて、産まれた女の子は、二重のぱっちりお目眼のかわいい子だった。


 80歳の今となっても、その研究の成果はいかなる形でも発表はしていない。


 言えば馬鹿にされるだけだ。


 ただ、40歳になる美しい娘と二人、小人たちが他にはどんな魔法を使うのか、その研究に余念がない。


                    終わり


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