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【妖精の瞳】を発動したセリアーナは、ソファに座り目を閉じている。
彼女の持つスキル、【範囲識別】との併用を試しているんだろう。
何となくそのスキルの事はゲームのマップ画面の様な物を想像しているが、範囲がちょっと桁違いだ。
俺が攫われた時は、その範囲を王都全域にまで広げたらしい。
アカメと【妖精の瞳】の併用が出来たからこれも出来そうな気はするが、本来自分に備わっていない感覚を使っているからか、長時間連続使用をすると、寄り目をする時の様な何とも言えない違和感がある。
目に見える範囲だけでそれなのに、大丈夫なんだろうか?
「あれ大丈夫なの?」
「流石に範囲は絞るはずだし、そう無理はしないはずだよ。昔何度か倒れた事があるからね」
「ぉぅ…」
心配になって小声でエレナに聞いてみたが…それは大丈夫なのか?
「駄目ね」
しばらく見守っていたが、目を開くなりそう言い放った。
駄目なのか?
「加護との併用はできたけれど、負担が大きすぎるわ。屋敷だけに絞っても動けそうもないし、そもそも魔力にせよ身体能力にせよ飛びぬけた者の情報なら入って来るし、私がわざわざ調べる必要は無いのよね。…これはお前が持っておきなさい」
まぁ、そりゃ道理だ。
本来一番奥で守られる立場のこのねーちゃんが、直接誰かと戦うってことは無いし、敵がいるかだけ分かればいい。
エレナが持つのが本当はいいんだろうけど、見た目が酷すぎるしな…。
それなら一人で行動する俺が持つ方が役に立つ。
納得し【妖精の瞳】を受け取ろうと近づいたのだが、何故か俺を見て驚いている。
いつの間にかアカメが頭の上に来ているが、それだけだ。
別にとぐろを巻いたりもしていないし…。
「どうかした?」
「セラ、アカメを…そうね、右手の上に移動させなさい」
なんだそれ?
エレナを見るが、彼女もわからない様で、首を振っている。
「はい」
何の意味があるのかはわからないが、言われた通りに移動させた。
セリアーナは、驚きでは無く今度は…なんというか、哀れみ?
そんな顔をしている。
「お前…」
そこで一息つき、俺の目を見る。
「身体能力、アカメより弱いわよ?」
「…は?」
◇
前世では、小学校から高校まではサッカーを。
大学、社会人ではフットサルをやっていた。
別にプロを目指したり、全国大会に出たりとかしたわけでは無い。
ただ、本格的なトレーニングなんかはしていないが、子供の頃から体を動かすのは好きだった。
だからだろうか?
ある程度の運動能力は勝手につくもんだって…。
筋肉をつけたりはともかく、子供のうちに鍛えたりとかそんなことは考えていなかった。
孤児院にいた頃はともかく、今は全く困ったりもしなかったし、必要性を感じていなかった。
……そりゃそうだ。
重いものは持たないし、そもそもいつも浮いていて、歩くこと自体あまりない。
周りに同年代の子供がいないことも気づくことが遅れた理由かもしれない。
別に困ってはいないんだ。
だからいいんだ。
でも、アカメより弱いってのはちょっと傷ついた。
そんなわけで、ひとまず体力をつけようと屋敷の内周を走っている。
恐らく1周400メートルくらいあると思う。
昨日2周しようと思ったけれど、途中で力尽きてしまったから今日は1周半を目標にしている。
「ほっほっほっほ…ぉぇっ」
玄関からスタートし、たったか快調に走っていたのだが、丁度1周したところで門の外に立っている警備兵に呼び止められた。
「どうしました?」
「セリアーナお嬢様宛の手紙を受け取ったんだ。確か冒険者地区の宿の子だったかな?お嬢様にセラちゃんから渡しておいてもらえるかい?」
「はーい。お部屋に届けておきます」
仕方ない、手紙持ったまま走る訳にもいかないし、今日はこれ位にしてやろう。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・1枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚