903 セリアーナ・side
「奥様、セラ様。お客様がお帰りになりました」
客の見送りに部屋を出ていたイザベラが戻ってきた。
加護で外の様子を軽く見てみると、馬車はもう大分離れたところを走っている。
位置でいうなら、そろそろミュラー家の屋敷を超える所だ。
街の外を走るような速度ならともかく、この近所を走る馬車は、人が歩く速さと大差ない速度で走る事になっている。
イザベラは馬車が敷地を出るまで見送っていたのだろう。
「ええ、ご苦労様。今の分で朝の面会予定は終わりね。貴女も下がっていいわ」
午前に入っていた面会の予定は全て消化した。
王都に滞在するのも、もうあと1週間も無いし、最近は面会の申請もさらに増えてきている。
もっとも、その大半は断ることになっているが……。
ウチほどではないが、身分の高い相手も増えてきたし、これがただの面会なら断るのも難しい。
ただ、セラの都合と言えば簡単に相手も引くだけに、手間がかからずに済んでいる。
相手も、私……というよりは、リアーナ領の領主夫人と繋がりを持つという目的もあるが、それだけではなくて、セラの施療が目当てだったりもする。
むしろ、私との繋がりを持つだけならば手紙だけでも済むし、多少印象は薄れてしまうが、わざわざ屋敷を訪れなくてもいいだろう。
にもかかわらず、これだけの面会の申請が来るということは、セラの施療が目当ての者が、それだけ多いという事だ。
これまでに受けたことがある者もそうでない者も、どちらもいるが……相変わらずの評判だ。
それだけに、セラに無理をさせられないと言えば、セラが比較的高い頻度で、王都を訪れる事が出来る事は知られているし、簡単に断ることが出来る。
その対応はイザベラに任せているが、来年以降のセラの調整は、正式に家に入ったミュラー家に任せることになるし、セラの名前を使った社交が出来るのは今年までだ。
まだまだ王都屋敷での社交の経験が浅い彼女にとっては、いい経験になるだろう。
頭を下げて、部屋を下がっていくイザベラを眺めながら、そんな事を考えていると、隣から小さなため息が聞こえてきた。
「……ふぅ」
「疲れたかしら?」
「んー? そこまで疲れてはいないけど……緊張はしたかな。今日の奥様たちって、皆偉い人たちなんでしょう?」
疲れていないと口では言っているが、実際はどうなのか。
セラは、だらしなくズルズルとソファーの背もたれを滑っていた。
……これは疲れているわね。
「偉いかどうかは一概に言えないけれど、身分は比較的高いわね」
今日の相手は、主に城の各部署で文官たちを束ねる立場の夫を持つ、夫人たちだった。
爵位は伯爵家が中心で、領地こそ持っていないが、外交・内政・それぞれに影響力を発揮出来るし、国を運営するにあたって、重要な位置にいる者たちだ。
身分が偉いかはともかく、立場は重要な事に間違いない。
「でも、私やリーゼルの方が上だし、お前も家格では対等よ。偉ぶる必要は無いけれど、お前目当てに来ているのだし、少なくとも下の振る舞いをしなくていいのよ」
セラは、私の言葉を聞いて、眉根を寄せて変な表情をしている。
立場が変わってまだ数日だし、それで慣れろというのは酷な話だろうか?
「今日って、この後はもう面会ないんだっけ?」
話を変えたかったのか、セラは午後の予定を訊ねてきた。
「事前の面会申請は来ていないわね。昨日渡したファイルでも読みたいの?」
「うん。いいかな?」
「好きにしなさい。全てを頭に入れておく必要は無いのよ?」
昨日渡したファイルに記された情報も、何も全てが重要なわけではない。
記憶するのは、関わる可能性がある店だけで十分なのだが……。
「うん……。まぁ、一応覚えられるだけ覚えておこうかなって」
この娘は、普段は大雑把なのに、妙なところは細かかったりする。
もちろん、覚えておいて困る事はないし、本人がそれでいいのなら好きにさせてもいいだろう。
もっとも……。
「王都の滞在期間は限りがあるのだし、何でもかんでも覚えようとしたら間に合わないから、ほどほどに……ね」
覚える事ばかりに気を取られて、日程を忘れられては困るし、念のため釘をさしておくことにした。
セラは小さな声で「はーい」と言ったが……まあ、また後日訊ね返せばいいか。
◇
さて、昼食をとった後セラと別れた私は、リーゼルが普段使っている談話室に向かうことにした。
朝は出かけていたが、先程屋敷に戻って来てから、そこに居るのは分かっている。
「おや? 今日はセラ君は一緒じゃないのかい?」
「ええ。部屋でファイルを読んでいるわ。外の用事は片付いたのかしら?」
「つい先程ね。ファイルというと……昨日、君が派閥の御婦人から頂いたと言っていた物かな?」
「そうよ。その事で少し話があるわ」
昨晩軽く触れただけの事なのに、相変わらずよく覚えている。
現物はセラの手元にあるが、この分なら口で説明するだけでよさそうだ。
セラ・加護・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】
恩恵品・【浮き玉】+1【影の剣】+1【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】【猿の腕】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・0枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




