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「セラがいない?」
パーティーも中盤に差し掛かった頃、そろそろお暇するべくエレナに控室へ下がらせたセラを呼びに行かせた。
ルード王国の生徒主催のパーティーだが、セラの事はパーティー序盤に、数名に紹介しただけで後は話題に上らなかった。
むしろ縁談を始め、私に関する事の方が多かった。
わざわざ名前を記していたのにと、少々疑問に思うが余計な事に気を回さずに済んで良かった。
そう思っていたのだが…。
「席を外しているとかでは無くて?」
「はい。部屋にいた者に聞いたのですが、いつの間にか部屋から出ていて、そのまま戻って来ていない様です。会場にいると思っていたと言っていましたが…」
自由にさせているが、勝手に外に行くとは思えない。
何かがあったと考えるべきか。
【範囲識別】を使うが、あからさまに敵対意識を持っている者は見当たらない。
周りが友好的な者ばかりとは限らないし、この加護は神経を使うから、あまり範囲を広げないようにしている。
特にこういった外国の貴族と話すときは、失態を曝さないよう範囲を目が届く程度にまで狭めている。
それが仇になってしまったか。
範囲を庭を含め敷地全体まで広げるが、身内はエレナとアレクの2人のみだ。
セラが急遽私と敵対でもしない限り、もうここにはいない。
「アレクは?」
「馬車を呼びに行きました」
「そう。なら続きは屋敷に戻ってからね」
屋敷に居ない以上、ここで無駄に騒いでも意味が無い。
【ミラの祝福】は有用だけれど、それだけでセラに手を出すとは考えにくい。
恩恵品狙いか、それともミュラー家か。
狙いはわからないけれど、お祖父様にも話を通しておきましょう。
◇
「話をしてきたぞ。だが、今の段階では精々巡回の兵を増やす程度しかできんそうだ」
「ええ、それで構いません」
ルードの貴族の下で起こったこととはいえ、それだけで犯人と決めつけるわけにはいかない。
セラが既に王都の外にいる以上証拠もない。
記念祭を控え、外国の王族貴族が多数いる中で揉め事を起こせばミュラー家の名に傷がつく。
…それが狙いだろうか?
「あの娘の主はお前だ。判断は任せるが、…構わんのか?」
「ええ。問題ありません。エレナ、アレク、貴方達はどう思う?」
「はい。私も問題無いと思います」
「同じく。あいつなら殺されない限り自分でどうにかするでしょう」
大変結構。
理由はわかっている。
お祖父様とは判断の前提が違うからだ。
「そうね…」
「む?」
同意は取っていないけれど、ここでお祖父様から評価を下げられても困るし、話しておこう。
「お祖父様、セラには【祈り】と【ミラの祝福】の他にもう一つ加護があります」
「なんだと?」
「【隠れ家】といって、吊るされるか、それこそアレクが先程言ったように殺されでもしない限り、いつでも逃げ込むことが出来ます。私が王都に来た時馬車1台で、荷物が少なかったことを覚えていますか?セラの【隠れ家】の中に収納してきました」
それを聞き、部屋の中を軽く見まわし納得したように頷いている。
「なるほど。商人を呼んだわけでも無いのに家具が増えているな」
「私の加護以外で気づかれたことは無いそうです。入る事さえできたら、安全になったら逃げてくるでしょう。あの娘は無謀ではありません」
偶に変なことをしているが、そこは信頼している。
◇
お祖父様が自室に戻り、もう何時間経ったことか。
今はベッドに横になりながら、【範囲識別】を使う事だけに専念している。
王都全域に広げているが、慣れたゼルキス領都ならまだしも、慣れない上に、より広い王都全てとなるとこうまでしてもあまり精度が保てない。
北地区に私を快く思っていないのが多少いるが、その連中も変な動きをしていない。
他もそうだ。
王都内の人間は関与していないのだろうか?
「ふっ…」
「お嬢様?」
無駄に終わるのかと思ったが、本命を捕まえられたから良しとしよう。
「セラが戻って来たわ。正門を中心にウロウロしているし、大方壁を越えようかどうか迷っているのね。迎えに行きましょう」
「⁉わかりました。私は御館様に伝えてきます」
「ええ、お願い」
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・11枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚