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ペチペチと何かを叩く音と、頬への軽い衝撃。
それに気付いて、起きようとしたのだが……。
俺が何かを言う前に、頭を両手で掴まれたかと思うと……グワングワンと一気に揺すられた。
「ぬおぉぉおぉぉおっ!?」
揺すられていたのは数秒ではあったが、その短い時間で一気に目が覚めた。
元々寝起きはいい方だが、これなら一発だな……。
「はぁー……びっくりした。おはよー」
目を開けて体を起こすと、既にセリアーナはベッドから離れて髪を整えている。
「おはよう。さっさと起きて支度しなさい」
「うん……。エレナとテレサは?」
俺はベッドから降りて、昨晩用意していた服へ着替え始めた。
そのついでに部屋の中を見るが、俺とセリアーナだけだ。
彼女は日頃から身支度は一人で行う事が多いが、誰かと会ったりする日は、エレナなりテレサなりに任せる事がほとんどだ。
髪が長いからな……。
誰かに任せた方が、早いし上手く出来るんだよな。
だから、普段の屋敷の中でならともかく、外に出る時は違うんだろう。
今日は馬車で行くし、誰かと会うわけじゃ無いんだが、それでいいんだろうか?
「2人は下で私たちの出発の用意をしているわ」
そう答えたが、俺がセリアーナの様子を見ているのに気付いたのか、さらに続けた。
「この屋敷からは誰も連れて行かないでしょう? 王都に着くまでの間も使用人はいるけれど、その間は自分で身支度はするつもりだし、それなら今日からしておいた方がいいでしょう」
「あぁ……。なるほど」
基本的に近くに人を置きたがらないねーちゃんだからな……。
屋敷を出ている間は、自分で全部やってしまうんだろう。
当然移動中もだ。
護衛も使用人もずっと同じ人間が付くわけじゃ無いが、それでも重なる時間とかはあるだろうし、今日だけエレナに任せて、同行する者たちに初日だけ気合いが入っていたとかは思われたくないのかな?
気合いという点では、むしろ自分でやることになる移動中の方が上なんだろうが、傍から見たら、そういう風に思われても仕方が無いし、セリアーナがそれを懸念していることも理解出来た。
「よっし、着替え終わり!」
お喋りをしつつもしっかり着替えを完了させた。
今日の俺の恰好は、薄いブルーのワンピースに、例によって裸足だ。
王都に着くと流石にこうはいかないだろうが、今はまだこれでいいだろう。
そして、枕もとの箱を開けると、中から各種恩恵品を取り出して、順々に身に着けていく。
全て身に着けて、忘れ物が無いかも確認して準備完了だ。
俺は、ベッドから飛び降りると足元に転がしていた【浮き玉】に乗った。
「準備出来たよ。セリア様は?」
「私はもう少しかかるから、お前は先に食堂へ行ってなさい」
見ると、セリアーナはまだ長い髪を編んでいるが、髪形は網目の細かい三つ編みで、既に1本は出来ていて今は反対側に取りかかっている。
後でお団子にでもするのかな?
手伝えるといいんだが……俺じゃー網目のサイズとかがバラバラになるしな……このまま頑張ってもらうか。
「それじゃー、後でね」
まだ髪を編んでいるセリアーナに手を振って、俺は寝室を後にした。
「おー……いつの間にやらスッキリと……」
寝室の繋がっているセリアーナの執務室は、昨晩はまだ荷物が色々と置かれていたんだが、それはもう運ばれて、部屋の中がスッキリと片付いていた。
全く気付かなかったな。
あれは馬車に積むものだけれど、今はまだ下にあるのか、それとも……。
「……お? もう着いてるのか」
窓辺に向かって外を見てみると、屋敷の正面玄関の前に3台の馬車が停まっていた。
あの馬車に乗って行くのは俺とセリアーナの2人だし、2台は荷物を運ぶために用意しているのか。
俺たち2人分の2週間弱程度の荷物でもあの量か……。
王都で必要になる分は既にもう送っているし、その事を考えたら相当な量になっていたな。
セリアーナはもちろん、俺だって一応貴族基準で荷物を揃えているから、またちょっと違うかもしれないが、これじゃあ気軽に遠出は出来ないよな。
昔セリアーナが、王都に来れる機会なんてそうそうないって感じの事を言っていたが、それも納得の理由だ。
「……まっいいか。ごはんごはんー」
とはいえ、それも昔の事。
今の俺にとっては、本気を出せば数日で行ける場所の事だし、変に構えるような事でも無いよな。
それよりも、さっさと朝食をとって、出られるようにしないとな。
◇
「エレナ、テレサ、後の事は任せるわ」
「お任せください」
屋敷の玄関ホールで、ズラリと並んだ屋敷の皆を前に、セリアーナが挨拶をしている。
その様を俺は後ろに浮きながら眺めているが……女ばっかだな。
カロスも一列後ろに控えているし、リーゼルがいないと、屋敷内で男の存在感が減っちゃうんだな。
外に関しては、アレクたちにリックもいるし心配はいらないが、中の事はどうなるか……。
そんな事を考えていると、そのカロスと目が合った。
そして、小さく頷いている。
「……ぬ」
彼もその事を理解している様だし、エレナたちも変に存在感を出そうとかは考えないタイプだし、上手い事やってくれるか。
いらない心配かな?
「それでは、行ってまいります。……セラ、行くわよ」
セリアーナはいつの間にやらミネアさんとの挨拶も終えていた。
随分あっさりしているが、彼女も特に気合いが入っているわけじゃ無い様だ。
それなら俺も気楽にいこうかね。
まぁ……元々気は抜けているかもしれないが、それは言いっこなしだ。
「りょーかい。それじゃ、行きましょー」
玄関扉の両脇に控えていた使用人が、俺の言葉を合図に扉を開いた。
雨季も終えたし当たり前ではあるが、実にいい天気。
出発日和だな!
セラ・加護・【隠れ家】+1【祈り】【ミラの祝福】【風の衣】
恩恵品・【浮き玉】+1【影の剣】+1【緋蜂の針】【妖精の瞳】【竜の肺】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【足環】【琥珀の盾】【紫の羽】【赤の剣】【猿の腕】・3枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・0枚
エレナ・【】・【緑の牙】【琥珀の剣】・4枚
アレク・【強撃】・【赤の盾】【猛き角笛】・10枚




