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「うむ…見事なものだな」
上半身裸の爺さんが、満足気な様子で鏡に映る自分の姿を見ている。
「文字通り、見違えるようだな」
「西の豚どもを威圧せねばならんからな。わしが豚では話にならんだろう」
じーさんの揶揄う様な言葉に言い返し、2人で笑い声をあげる。
じーさんの学院時代からの友人で、領地こそ持たないが、帝国を始めとする西側諸国との折衝を行う偉い人、外務卿のロバート・バーゼル伯爵だ。
丸い体型とその柔和な雰囲気で、普段は西側諸国とそれらに対して好戦的な態度を隠さない軍閥貴族達との調整役を務めているらしい。
もうじき始まる記念祭は、春の入学シーズンと違い、平民はさほど来ないが、式典に出席する外国の要人は多数来る。
それに合わせて条約の締結を始め様々な交渉が行われるのだが、今年は先の魔物の違法取引の件もあり、今までは調整役に回っていた彼も強気に、攻撃的な姿勢を見せる必要がある。
それを知ったじーさんが、俺のことを教えた。
王都のマダム方の間では、知る人ぞ知るって扱いだったが、ついにはおっさん共にまで知られたかと思ったぜ…。
全身をやるには時間が無いから胴体を中心に行ったが、顔や手足に肉が付いていなかったのも幸いだった。
逆三角形とまでは行かないが、最初のひょうたんみたいな体型を思えば大分すっきりした。
「満足頂けたよーで」
「助かったよ。ありがとう」
うむうむ。
「それじゃ、オレはこれで……」
「む?なんだ、菓子を用意させたのに、いらんのか?」
そういえばさっきメイドさんを呼んでいたな。
「お酒の臭いで酔っちゃうよ」
施療中も、水も飲まずにカパカパ空けては注いでを繰り返していたお酒。
琥珀色で一見ウィスキーっぽいが、香りは果物の様でブランデーっぽい。
どんな味か気になる。
流石にこの体で飲むとぶっ倒れそうだが、ちょっと舐める位はしてみたいんだが…。
「おお!それはセリアーナに叱られてしまうな。わかった下がっていいぞ」
「はーい」
じーさんの許可も出たし、さっさと退散だ。
◇
「いやー、まいったね?」
【隠れ家】のリビングにあるソファで、だらしなく伸びている。
何がまいったって、最初は記念祭の式典に出席する来賓の話だったけれど、どこの国の某家が失脚しそうだだとか、どこどこと揉めているだとか、兵を集めているだとか…。
じーさん達の話の内容がどんどん物騒になって行ってたんだ。
別に機密めいた話をするのはいいんだ。
頼もしい。
でも、俺のいない所でして欲しい。
別に誰かに漏らすようなことはしないが、知らないで済むなら知りたくない。
「…ぁふっ」
でかいあくびが出た。
睡眠はしっかりとっているつもりだが…疲れたかな?
今は昼過ぎ。
セリアーナ達が帰って来るまでまだ少しあるし、ひと眠りするか。
◇
「パーティー?」
夜、いつもの様に【隠れ家】内でダラダラ報告会をしている。
これは、セリアーナとエレナは一緒にいる事が多いが、俺とアレクはバラけているので、互いの情報をすり合わせるために設けている。
もっとも、最近は謎の監視の件もあって俺は屋敷に籠っているので、報告するようなことは特に無く専ら聞くのみだが。
「そう。ルード王国の生徒が主催のパーティーで、従者としてだけれど招待状にお前の名前もあるのよ」
「…オレだけ?」
「いいえ。エレナと、護衛でアレクの名前もあるわね。大方、記念祭に向けて本国からやって来た者がお前のことを聞いて、興味を持ったとかじゃないかしら?」
2人も一緒か。
ただ、お貴族様のパーティー……。
「名前が出されている以上、理由が無いのなら断れないわね。生徒主催でお酒も出ないし、遅くもならないからお前も来なさい」
行くしかないのか。
「はーい」
まぁ、どうせ控室とかはあるだろうし、そこで大人しくしておけばいいか。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・7枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚




