74
「ふぬぬぬぬ……」
じーさんの部屋に行く前に着替えを、と【隠れ家】に行ったのだが、少し埃っぽかったのでついでにシャワーも浴びた。
そう、浴びてしまったのだ。
髪が乾かねぇ…。
さっきから【ミラの祝福】で何とかならないかと頑張っていたのだが、残念ながらドライヤー機能は無いようだ。
濡らしたまま放置するのは髪に良くないと聞いたことがあるので、もしかしたらいけるんじゃないかと思ったが、無理だった。
ドライヤーは確か、電熱線を熱してそれを後ろから風で送り出すっていうシンプルな仕組みだ。
冷暖房は存在するし、この世界でも頑張れば作れそうな気がするが、作られていないのは必要ないからなんだろうか?
…欲しい。
今度どこかの工房を紹介してもらおうかな?
まぁ、それはそれとして、頭にタオル巻いたまま行くのは埃っぽい格好よりまずいだろうし、乾くまで待つか。
そうと決まれば、今のうちにやれることを済ませておこう。
まずは洗濯だ!
【隠れ家】には備え付けの洗濯機と乾燥機がある。
洗濯機は活用しているが、どういう理屈か室内干しでも問題無く乾くため、未だ乾燥機の出番はない。
確か天然素材が駄目だったし、使わないにこしたことは無いか。
◇
ついつい洗濯に時間をかけてしまったが、まだ部屋に居るだろうか?
「セラでーす」
じーさんの執務室のドアをノックする。
「入りなさい」
お!居た。
「お邪魔します」
「…なんだ?その格好は」
俺の格好が気になったようだ。
「作ってもらったんだ。楽でいいよ?」
今着ているのはメイド服では無く、日本にあった甚平。
外では駄目だが、屋敷の中では好きな恰好でいいと言われ、行きついたのがコレだ。
既製服が無いこの世界では、服はそこそこ高価で、皆大切にする。
平民の子供服は、お下がりにお下がりを重ねて、継ぎを当てたりした物がほとんどだ。
別に俺はそれでもかまわないんだが、屋敷の中とは言え流石にその格好でうろつくのは問題だという事で、用意されたのが簡素ではあるが、何というか…ドレスだった。
そもそも俺がメイド服以外を求めたのは、単にあの格好が夏には暑かったからだ。
更にかっちりした格好をする事態は避けたかった。
それなら自分で作るかと、布に針に糸を買い求め、家庭科の授業で作った記憶を頼りにハサミを借りて裁断した。
一つ誤算だったのは、ミシンが無かったこと。
諦めかけていたところ、助けてくれたのが屋敷のメイドさん達だ。
いやはや、日々の賄賂、もとい、付け届けの効果を感じたね。
そしてつい先日出来上がったのが、黒・灰・茶色の3着の甚平だ。
「なるほど…。屋敷の中なら構わんか」
子供とは言え、女性が肌を見せるのはあまり好ましくないようだが、下にシャツを着るし、この位なら問題は無いんだろう。
許可が出なかったら諦めていたが、良かった良かった。
「それで?今日はどうかしたのか?確かダンジョンへ行くと聞いていたが…」
そうだそうだ。
そっちが本題だ。
「うん。ダンジョンでどうも監視をされていたみたいなんだよね」
「監視?」
「そう。アカメの能力で気づけたんだけど、隠れながらこっちを見ていたんだ。それも1時間近く。人数も居たし、たまたま見ていたってのは考えにくいよね?それに、オレの戦い方というか動き方を知っているみたいだったよ」
ダンジョンでの様子を思い出しながら説明する。
「ふむ…。何か声をかけられたりとかの接触はあったか?」
「何も無し。帰る時もダンジョンの入口までは離れてついてきたけど、結局それだけだったし」
「自家に囲う為に腕の立つ冒険者に接触するという事はあるが、お前はもうミュラー家の紐付きだ。それは考えにくいが…。それに姿を隠す理由もないか…」
口元に手をやり何か考え込んでいる。
「お前の名前は出ないようにしてあるが、先の魔物の違法取引の件もある。セリアーナには私から言っておくから、しばらく一人でのダンジョンは控えておけ」
「はーい…」
むぅ…またしてもか。
ただ、前回はアンデッドと間違えられてだったけど、今回はちょっと目的が見えないのが気になるな。
俺なのか、ミュラー家なのか、勘違いなのか…。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】・7枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・19枚
エレナ・【】・【緑の牙】・1枚
アレク・【】・【赤の盾】・2枚